下表は新型コロナウイルスの感染者と死者の人数を2月28日と3月5日とで比較したものだ(数字は香港紙「South China Morning Post」)。表は上から3月5日時点で死者の多い順の21ヵ国で、死者が同数の場合は同日の感染者の多い順に並べてある。
(単位:人) | 2月28日 | 3月5日 | 2月28日比 | |||||
地域 | 国名 | 感染 | 死亡 | 感染 | 死亡 | 感染 | 死亡 | |
1 | アジア | Mainland China | 78,824 | 2,788 | 80,409 | 3,012 | 1,585 | 224 |
2 | 欧州 | Italy | 888 | 21 | 3,858 | 148 | 2,970 | 127 |
3 | 中東 | Iran | 388 | 34 | 3,513 | 107 | 3,125 | 73 |
4 | アジア | South Korea | 2,337 | 16 | 6,088 | 40 | 3,751 | 24 |
5 | 北米 | United States | 60 | 0 | 145 | 10 | 85 | 10 |
6 | 欧州 | France | 57 | 2 | 423 | 7 | 366 | 5 |
7 | アジア | Japan | 226 | 5 | 330 | 6 | 104 | 1 |
8 | 欧州 | Spain | 32 | 0 | 150 | 1 | 118 | 1 |
9 | 欧州 | United Kingdom | 20 | 0 | 115 | 1 | 95 | 1 |
10 | 欧州 | Australia | 24 | 0 | 52 | 1 | 28 | 1 |
11 | 欧州 | Germany | 53 | 0 | 349 | 0 | 296 | 0 |
12 | 欧州 | Sweden | 7 | 0 | 88 | 0 | 81 | 0 |
13 | 欧州 | Netherlands | 2 | 0 | 82 | 0 | 80 | 0 |
14 | 欧州 | Norway | 1 | 0 | 56 | 0 | 55 | 0 |
15 | アジア | Malaysia | 25 | 0 | 50 | 0 | 25 | 0 |
16 | 欧州 | Switzerland | 5 | 0 | 42 | 0 | 37 | 0 |
17 | 北米 | Canada | 14 | 0 | 36 | 0 | 22 | 0 |
18 | 欧州 | Austria | 2 | 0 | 29 | 0 | 27 | 0 |
19 | アジア | India | 3 | 0 | 28 | 0 | 25 | 0 |
20 | 欧州 | Iceland | 1 | 0 | 26 | 0 | 25 | 0 |
21 | 欧州 | Belgium | 1 | 0 | 23 | 0 | 22 | 0 |
Sub Total | 82,970 | 2,866 | 95,892 | 3,333 | 12,922 | 467 | ||
Other | 457 | 4 | 779 | 10 | 322 | 6 | ||
Diamond Princess | 705 | 6 | 706 | 6 | 1 | 0 | ||
Total | 84,132 | 2,876 | 97,377 | 3,349 | 13,245 | 473 | ||
(Mainland China) | 78,824 | 2,788 | 80,409 | 3,012 | 1,585 | 224 | ||
(Other) | 5,308 | 88 | 16,968 | 337 | 11,660 | 249 |
世界の感染者は10万人に迫り、死者は3,300人を超えた。が、知られるように感染者の人数は、国ごとに違うどの時点で検査するかの方針や検査の能力や精度などに相応する。検査の目的が「命を救うこと」にあるとすれば、感染者の多寡を過度に云々するのは余り意味がなかろう。
表を見て改めて気付くのは、ここ1週間の中国以外の感染者数が中国の7倍強にもなったこと、同じく死者も中国以外の増加人数の合計が中国を上回ったこと、そして明らかに欧州で蔓延傾向が出て始めたことだろう。イタリア以外にも、仏独の感染者は日本を超えた。日本もまだまだ油断は禁物だ。
中国の数字の信憑性に疑念はあるが、それを考慮しても流行の舞台は中国国外に移ったようだ。監視カメラ数億台を配し、スマホのGPS機能を駆使し、検査やマスクの受領にもIDを提示させ、千万都市を幾つも封鎖して国民を監視する全体主義国と違い、こういう事態には欧米や日本の人権重視の民主主義が弱点になる。
その日本でも重い政治主導策が、遅れ馳せながら幾つか打ち出されつつある。その一つに安倍総理が5日に打ち出した、韓国と中国からの入国者に対し「指定施設で2週間待機することを要請する」という方針がある。本稿では、これに関連する韓国青瓦台の反応を批判的に考察する。
6日朝時点の韓国紙中央日報のアクセスランキングは以下のようだ。
- 「日本、新型肺炎を隠蔽…韓国より感染者数多い可能性」韓国の国民健康保険公団理事長が発言
- 韓国外交部長官の「軽い口」…相手国見下して入国制限緩和要請通じるか
- 韓国外交部「日本の入国拒否は極めて遺憾…あらゆる相応措置を検討中」
- 「韓国から来たら2週間隔離」日本へ行く道が塞がれた
- 【コラム】限りなくみすぼらしくなった文大統領のリーダーシップ
どれも概して青瓦台の対応を批判する論調だ。まず①には、3日に金容益理事長が、「日本が五輪を控えて診断と防疫をしないで隠蔽戦略の方向に進んでいる」とし、「韓国より(日本の感染者数が)はるかに多い可能性があるが、非常に政治的な判断をしている」と主張したとある。
日本のワイドショーや左派マスコミや特定野党などと同じ言い分だ。日本のPCR検査能力が低かったことは確かだ。が、日本はそれをむしろ逆手にとって「37.5度が4日以上続く場合」などの縛りをかけた。その目的は、検査への殺到による医療現場の崩壊を防ぎ「重症患者の命を救う」ためだ。
今のところそれが奏効していることは、日本での死者が6名(DP号を除く)に収まっていることが証明している。ところが、韓国政府などからは「救命」よりも「検査」、つまり「目的」と「手段」の履き違えと思しきコメントが頻りに報じられている。
例えば⑤のコラムは、「文大統領は『診断能力は我々が最高』と自慢する」とし、「トランプ大統領が韓国人を入国禁止にしない理由も韓国の外交力や同盟関係のためではない。FDAとCDCの責任者らが『韓国の診断能力には驚く』と述べ、これをトランプ大統領が認めたのだ」と書いている。
その割に④には、「(今回の日本の措置で)韓国としては、今後米国の反応にも気を配らなければならない状況になった。日本の措置を名分にして、米国も期限付き入国禁止に踏み切る可能性を排除できないためだ。すでに米国内の一部州政府は韓国内の米国民送還措置に着手している」と書いてある。
米国が「日本の措置を名分にして」とは異なことをいう。韓国が散々ディスる日本の措置を、トランプの米国が、自国の方針を決めるための「名分」にするはずなどないに決まっているではないか。トランプ大統領は必要となれば何でもする。それにまだ気づいていないのか。
また②には「康長官が4日、新型肺炎の感染拡大で韓国に対する入国制限措置が相次いでいることに対し、『自らの防疫能力がない国々は入国禁止という無粋(*「野暮」とも)な措置をしている』と話し非難を浴びた」とある。ベトナムが韓国発のアシアナ航空機の着陸を許可しなかった措置を批判する康氏の発言だ。
加えて康氏は、「自らの防疫が粗末なために(入国制限)したもので、韓国との友好問題とは関係がない」などの、電話会談した他国の外相の発言を漏らしたとも書いてある。⑤は「政治論理にとらわれアマチュア政策で空転」と青瓦台に政治の素人が多いことを揶揄するが、差し詰め彼女などその筆頭か。
その理由として⑤は、「(目下の)検診能力は新型インフルエンザとMERSの経験から李明博、朴槿恵政権が整えた。09年から平時にも現場検査を通じて診断の正確性を点検し、(民間の)認証業者を管理してきた」ことを挙げ、民間頼みの「文大統領がこうした競争力を自画自賛するのは恥ずかしいことだ」と批判する。
検査能力に関して④は、「青瓦台の金尚祖政策室長は、5日午後、KBSに出演し『一日13,000人を検査し、結果を透明に公開しているが、日本が韓国と同じくらい透明か疑わしい』とし『日本がそのような過激な措置を取ったことについて甚だ遺憾だ』と話した」と書く。
が、韓国はなぜこうも他国の措置に一喜一憂し、悲憤慷慨するのか。菅官房長官も日本からの入国制限をしたインドに「改めて日本国内の状況や対策を丁寧に説明し、このような措置の与える影響を考えながら強い懸念を申し入れた」が、「野暮」とか「透明か疑わしい」などと相手を腐すことはしない。
極め付きの履き違えは③だ。日本の措置に対して韓国外交部が「極めて遺憾であり、可能なあらゆる相応措置を検討中」と明らかにしたというのだ。これについては6日の朝鮮日報「中国には一言も言えず、100カ国に拒まれる韓国外交部…日本にだけは対抗」に詳しい。
冒頭は見出しの通り「韓国人の入国制限の先頭に立っている中国に対しては依然として何の手も打っていない」とある。しかし、東京特派員は続けて「(措置には)安倍内閣の(支持率急落への)危機感が背景にあるという見方が多い」とする。えっ、と思うが、言論の自由がある日本は記者を追放したりしない。
記事は3日に文大統領が「新天地イエス教以外は管理されているという点を外国も知ることになろう」という趣旨を述べたとし、「だが、5日現在で韓国からの旅行者の入国を制限・禁止している国は合計100ヵ国…中国に対する入国禁止をためらううちに最悪の状況を招いたという指摘が多い」と。
その中国が日本の措置にどう反応したか知りたいと思い、新華社(日本語版)と環球時報・中国日報(英語版)に当たったが、それらしい記事が見当たらなかった。日本に阿る目下の中国らしいと思った。が、6日の中央日報「日本の入国制限措置に中国は『理解可能』…なぜ?」にこう書いてあった。
日本が新型コロナウイルス感染症対応のためにとった韓国人と中国人の入国制限の発表に、中国はいつそんなことがあったのかと思うほど落ち着いた様子だ。中国メディアでは関連報道をなかなか見つからないほどだ。…(環球時報は)「理解できる」または「理解可能」と訳すことができる「可以理解」の4文字を見出しに選んだ。
韓国人には不可思議かも知れぬ。が、⑤のコラムも、米国と中国の両大国の指導者は「外交より防疫が優先」だが、文在寅大統領は「防疫と経済、二兎を追うべき」と述べ、また「中国の困難は我々の困難」とも発言、これは「防疫と経済、外交の三兎を追えという不可能な注文だ」と書いている。
為政者が自国民の命を最優先に考える政策をとるのは当然だ。青瓦台が日本の防疫体制を腐すならなおのこと、自国民に対する日本の入国管理をありがたく“歓迎”すべきだし、どうか自国民を危険な日本にやらない政策をおとりになれば良い。