ロッテ重光氏、執行猶予中の球団オーナー就任に思う3つの疑問

新田 哲史

プロ野球はきのう20日、本来の公式戦開幕日を迎えたが、周知の通り新型コロナウイルスの感染拡大で延期。4月中の開幕を目指しているが、まだ正式な日程は固まっていない。

ロッテ球団の新オーナー重光昭夫氏(韓国版Wiki、kunikuni/flickr)

そんな中、ロッテ球団が19日、重光昭夫氏の球団オーナー就任を発表したという(参照:日刊スポーツ)。先代のオーナーは、昭夫氏の父で、ロッテ創業者の重光武雄氏だったが、今年1月に98歳で逝去。オーナーの座は空席になっていた。

重光昭夫氏のオーナー就任に先立って、親会社のロッテホールディングス(HD)は前日の取締役会で、重光氏が4月から会長に就任する人事を承認(参照:日本経済新聞)。日韓のロッテグループの総帥としての地位を正式に固めたことで、球団オーナーの座を承継するのは一見すると順当に思える。実際、一般紙もスポーツ紙も特に疑義を挟むような記事は見かけなかった。

昨年11月に有罪が確定したばかり

しかし、筆者は微妙な違和感を覚えた。報道各社には発表したものの、球団の公式サイトには翌20日になっても新オーナー就任の告知が掲載されていない(念のため、韓国ロッテ、日本ロッテのサイトも見たが同様だった)。コロナ禍で世間が混乱する中で、シレッと発表してしまうあたり、ある種の「うしろめたさ」があるとすら思える。

というのも、重光氏は韓国では刑事罰の有罪が確定している。2017年には、勤務実態のない親族らに計500億ウォン(日本円で約52億円)台の給与を支払ったなどとして、横領などの罪に問われ、懲役1年8か月、執行猶予2年の有罪判決を受けた。

さらに衝撃だったのが朴槿恵前大統領への贈賄罪などに問われた裁判。一審判決(2018年2月)はなんと実刑だった。同年10月の二審判決で懲役2年6月、執行猶予4年となって収監を免れたが、翌2019年10月に大法院(日本の最高裁に相当)が二審判決を支持して有罪が確定している。

起訴当時のNHKニュースより

ただ、韓国の商法ではそうした犯罪行為による取締役欠格事由はないため、二審判決後に経営復帰を本格化した。日本国内の事件ではなく日本の会社法上の取締役欠格事由に当てはまらないため、HD会長や球団オーナーに就任することは違法ではない。また、プロ野球界の憲法である野球協約でもオーナーの犯罪について想定しておらず、欠格事由を定めた規定はない。

しかし、だからといってすんなりと復権していいものか、解せない「疑問」もある。

韓国の事件とはいえ執行猶予中の身

1つは事件の責任を取って一度役職を降りた時の姿勢は何だったのか。

実刑判決が下った2018年2月時点で重光氏はロッテHDの代表権を返上しており、ロッテ側は、その理由として社内のコンプライアンス委員会の答申も考慮したとロイターの取材に回答していた。

そして同時に球団のオーナー代行の座も辞任した経緯がある。当時、表向きの球団コメントは「代表権およびオーナー代行職を返上する旨の申し出があり、これを了承したもの」(スポニチ)としているが、事件の影響は明らかだった。

それから2年が経過したが、二審判決を起点にしても執行猶予期間はまだ約2年半残っている。法的には問題がないにしても、2年前に辞任したときの殊勝な態度とはずいぶん裏腹にみえてしまう。私はまさかとは思うが、刑の減免と韓国国内世論の軟化をはかるためだけのパフォーマンスのように邪推する人も出てこよう。

文化的公共財を保有する“準公人”にふさわしいか?

2つめの「疑問」は、過去に球団オーナーが辞職した事例と比べてもバランスが悪い点。

2004年10月に西武グループを率いていた堤義明氏は、有価証券報告書の虚偽記載報告の責任を取って球団オーナーを辞職。堤氏はその5か月後、東京地検特捜部に逮捕・起訴されたため、オーナー在任中に刑事被告人にはならずに済んだが、重光氏は、球団オーナー代行の座にとどまったまま韓国で起訴、実刑判決を受けるという、プロ野球史にも前例のない「堤越え」の不祥事だった。

そもそも実社会の法律上の犯罪でなくても、球団オーナーは不祥事があれば潔く身を退いている。これも2004年のことだったが、巨人、横浜、阪神の3球団の関係者が、大学生選手に「栄養費」名目で多額の現金を渡していたことが発覚。アマ球界の憲法である野球憲章に違反した社会的責任を取り、3球団のオーナーは辞任した。

ロッテ球団の本拠地ZOZOマリンスタジアム(Jminv/写真AC)

そして3つ目の疑問は、野球協約の理念と相入れないことがあったりしないか。

協約では第3条で「野球を不朽の国技として社会の文化的公共財とするよう努め」ると掲げている。抽象的な理念ではあるものの、プロ野球を球団を保有するオーナーはその模範的な立場であることが求められる。

さらに公共財の実体として、ロッテ球団は、自治体である千葉市が保有する球場(ZOZOマリンスタジアム)を本拠地としており、球場の指定管理者として運営にも携わる公的な側面もある。球団オーナーは公職とは言わないまでも、「準公人」と言えるだけのモラルが求められるはずだ。

いずれにせよ、ここまで書いた経緯があったので、重光氏は、執行猶予が終わるまでは、現オーナー代行の河合克美氏を暫定オーナーにするような形で乗り切ると個人的には予期していた。だから今回の早すぎる復権に、ロッテのコンプライアンス意識が十分なのか正直驚いている。百歩譲って韓国の事件での有罪であり、それも日本に比べて法治国家としてのあり方が微妙なものであるにしても、逆に韓国の世論は許容するのだろうか。

スポーツ紙をはじめ、野球報道に携わる記者クラブメディアは、コロナの騒動の中で今回の復権にあまり違和感を持っていないようだが、朝日新聞は実刑判決当時、野球協約の観点から唯一、重光氏の地位に言及していた。プロ野球報道各社にあって「野党」にあたる朝日が今後どういう報道をするのかも注目したい。