今回の「緊急事態宣言」の発出は、「日本モデル」の新しい段階ではあるが、決して終焉ではないことが明らかになってきた。私は、過去の「外出自粛要請」下の東京は、ある種のロックダウンの初期段階と考えるべきだ、と言ってきている。「緊急事態宣言」は、第二ステージでギアを入れ直すものだが、これまでの「日本モデル」の廃止ではない。
安倍首相が冒頭で「緊急事態宣言」は頑張っている医療関係者の人たちを助けることが目的であると宣言し、具体的な職名をあげて感謝し、称賛の意を表明したのは良かった。これは私がかねてから日本の政治家にもっとやってほしい、と書いてきたことだ。
昨日の安倍首相の記者会見では、尾身茂・「専門家会議」副座長が横に並んだが、この並びは良かったと思う。尾身氏は、専門家会議の記者会見の時よりも落ち着いた表情で、専門家らしく、安倍首相を補佐した。
私としては、何と言っても、尾身氏が、「クラスター対策・医療体制・行動変容」と、「日本モデル」の三つの領域をブレずに説明していることに感心した。尾身氏は、「非常事態宣言」を「日本モデル」のコロナ対策の一段階として捉えているので、安心感がある。応援したい。
相手は世界で130万人以上の感染者を出しているウイルスなのだ。数か月で撲滅できるはずはない。状況に応じてギアを入れ替えるのも当然だろう。しかし社会機能を停止させないまま、ピークを先送りにするための管理をし続ける政策は、今のところまだ破綻はしていない。「長期戦」を戦う体力を温存し、補給を確保しながら、最大限の努力をしていくための「緊急事態宣言」だ。「日本モデル」の行方にとっても、正念場になる。頑張りたい。
「日本モデル」の維持のためには、クラスター対策、医療体制、国民の行動変容、という尾身氏の「専門家会議」が強調する三領域それぞれへの支援のための補給が必要である。そうでなければどこかが疲弊し過ぎて決壊し、「日本モデル」が破綻する。
その意味では、医療崩壊回避の措置、国民への支援措置などが議論されるようになったのは、とても良いことだ。「非常事態宣言」がそうした支援措置のテコになれば有益だろう。
気になるのは、クラスター対策への支援だ。これまで尾身氏の専門家会議が、いくつかの提言を出してきた。「3密の回避」など素晴らしく定着してきた「日本モデル」の象徴もある。
ただ、保健所などの現場への支援や、ICTの活用などのクラスター対策維持のための重要な提言について、どういう措置がとられるのか、報道では確認できない。特に政治家の方々には、「緊急事態宣言」もきっかけにして、「日本モデル」を最前線の現場で支えている保健所体制・保健所職員への支援を忘れないようにしてほしい。
クラスター対策では、「専門家」たちが華やかに目立つ発言を繰り返して、SNSを通じた社会運動も相当に熱心にやっている。「クラスター対策をしている人=熱心にツィッターをしている専門家」という印象がだいぶ広まってきてしまった。
しかし本当にクラスター対策を現場で支えているのは、保健所職員などの現場の人たちだ。各地方自治体の保健所職員などの専門的能力と職業倫理の高さこそが、「日本モデル」の底力なのである。
何とかして、保健所職員支援を充実させてほしい。尾身氏も、そのことを繰り返し訴えている。いたずらに検査数の少なさを批判したり、派手なロックダウンを夢見たりするだけでなく、地道な努力をしている保健所の支援を充実させることこそが、「日本モデル」の命運を握る残された最重要領域のはずだ。