今週のメルマガの前半部の紹介です。経営再建を進めるシャープをめぐって、経産省管轄下の産業革新機構と台湾メーカーの鴻海精密工業(以下ホンハイ)との間で綱引きが続いていましたが、どうやらシャープ側はホンハイの買収案を受け入れる方向に傾きつつあるようです(今月中に最終的な契約内容を確定させることで合意済)。
一方、シャープ本社訪問時のホンハイ会長の以下のコメントが話題を集めています。
「40歳未満の従業員の雇用は守るから安心してほしい」
40代以上の再就職の厳しさを再認識した人が多いようですが、筆者は別の観点から本発言に衝撃を受けました。ある意味、この発言そのものがシャープをはじめとする大手電機の苦境の理由を端的に表しているからです。キャリアや人事制度について俯瞰的に考えるいい機会なので簡単に説明しておきましょう。
シャープが不振に陥った本質的な理由
日本企業においては、初任給から勤続年数に応じて少しずつ昇給していく給与体系が一般的です。要は「従業員の能力は毎年少しずつ成長していくものだ」という性善説のようなスタンスということです。だから、だいたい大手なら、50代は20代の2~3倍くらいの基本給をもらっています。
ところが、ホンハイの会長さんは、40歳以上は優秀どころか逆にいらないと全否定したわけです。そんなもんはきみらの組織内部の都合であって、労働市場からしたら価値ないでしょ、ということです。
そう考えると、シャープが過去数十年続けてきた人事制度運営の現実は、ちょっと想像するだけでも背筋が寒くなるようなものであることがわかるでしょう。市場的に価値がない“人材”を一生懸命育成し、そうして育った人たちに重点的に貴重なリソースを分配し続けてきたわけですから。で、市場が最も欲しがる40歳未満には恐らくちょこっとだけしか分配してこなかったわけです。
シャープの迷走については、いろいろな分析がすでになされています。以下のようなものが代表です。
「マーケットを読み誤り過剰な設備投資をしたから」
「消費者のニーズを喚起するような魅力的な新製品が生み出せなかったから」
「ガバナンスに問題があり意思決定が遅い体質だから」
筆者はそれらすべて当たっていると思います。でも、その根底にあるのは、市場とミスマッチした人材を育成し続け、その人たちに組織の舵をとらせ、そして彼らに市場と真逆の給料を支払い続けた人事制度であるというのが筆者の見方です。
そして、この傾向はシャープだけにとどまらず、日本企業全般に広くみられるものです。ここ10年ほど、多くの大企業で早期退職募集が行われていますが、そのほとんどすべてにおいて「45歳以上」というような年齢条件が付されています。たっぷりリソースをつぎ込みウン十年とかけて育成したはずの“人材”が、やはり戦力とはなっていないということでしょう。
本来であれば早期退職者の募集は「経験の少ない40歳未満限定、会社にとって貴重なノウハウを持つ40歳以上は対象としない」とあるべきです。それが出来ないというのなら、昨年に年功序列の全廃を打ち出したソニーのように、とっとと流動的な人事制度に切り替えるのが筋でしょう。
以降、
40歳すぎで組織にぶら下がってるだけの人はどうすべきか
シャープは人事制度をいかに見直すべきだったか
※詳細はメルマガにて(夜間飛行)
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年2月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。