筋金入りのアベノセイダーズの人が「安倍内閣の動きがにぶいのは官邸の茶坊主どものせいだ」とか騒いでいるが、それは違うだろう。
新型コロナ対策においても、常識的には、厚生労働省、外務省、財務省、文部科学省の「守旧派」官僚が慎重で、官邸のスタッフ(アベイノセイダーズのいう茶坊主)や側近が早い決断を求め、しのぎを削っていると見るのが普通だと思うが間違った理解だろうか?
もちろん、少しでも早く人の流れを止めれば止めるほどよかったなどとは言うまい。中国と仮に1月から交流を突然に止めていたら日本経済、世界経済の疲弊は遥かに深刻だった。あらゆる措置は止め頃があるのであって早いほうが言い訳でない。
クルーズ船についても、安直に日本語のできない何千人もの上陸を認めていたら医療崩壊の原因になりかねなかったから、乗客には気の毒だったかもしれないが、正しい判断だったと思う。
感染の世界的拡大の端緒は、まず、2月中旬からの韓国からだが、それは単なる不手際による地域医療崩壊だった。一方、2月下旬からのイタリアから起きたことが現在の世界的パンデミックのはじまりで(突然変異した凶暴なウイルスの可能性)、それに気付いた安倍首相が、3月2日からフットワークよく野党、マスコミの反対を押し切って休校に踏み切ったのである。
休校措置にも野党、マスコミ、教育界、地方自治体は反対
萩生田文科相や菅官房長官にすら相談しなかったと言われているが、そうだとしたら、官僚機構や関係者などに漏れて猛抵抗されると思ったのだろう。もしかすると、萩生田氏や菅氏は知らなかったことにしたのかもしれない。そうでないと、官僚機構などとの信頼関係が崩れるからだ。
学校を休校にしたとき、やり過ぎだと猛抵抗したのは、野党、マスコミ、自治体、教育界だった。それがあまりに激しかったから、安倍内閣のその後の動きが、世論の支持をある程度見込め、踏み切ったとき関係者が協力してくれるかどうかを見極めてからという感じに流れたように見える。
休校の延長もこうした守旧派の猛抵抗で地方任せになり、その緩んだ雰囲気のなかで3連休を迎え感染が拡がる原因になった。
また、3月末に緊急事態宣言をすることを日本医師会が要望し、総理もそちらに傾いたとも言われるが、関係業界や関係省庁、財務省、自民党内などから猛反対に遭い、結果、4月7日まで待たざるを得なかった。
「補償なくして休業なし」と非協力を呼びかけ
ここで出てきたのが、「補償なくして休業なし」というふざけた考え方で、補償は論外としても、それに見合うような財政支出の目処が立たないと休業要請をしても協力が得られない恐れがあった。強制力のない現在の法律では、政府が宣言を出しても協力がそこそこ得られなかったら恥もかくし統治機構が機能しなくなる。
しかも、「金くれぬなら協力しなくて良いというのは“テロ教唆”」でも書いたように、「休業と補償はセットだろう」などと日本共産党のように公党までが政府に協力をしないことを教唆・扇動して政争の具に使う中では、なおさらである。
PCR検査についても、私は最初の頃は安直に拡大すると医療崩壊の可能性があると思ったが、同時に徐々に拡大すべきものだと思い、官邸からもそのように指示が出ているが、現実には満足すべき量の検査が行われていない(統計で拾えてない分があっていわれているほど少なくはないが)。
別に政府が数字を小さく見せようとしている様子はなく、むしろ実際に検査をする人たちが拡大に消極的なのである。あるいは、アビガンの投与にしても関係の専門家グループはとことん慎重だ。
そこに共通するのは、関係者が、従来の担い手とやり方でないと安全が犠牲になるから反対ということだ。
もっともその背景には、マスコミや野党が小さなミスを取り上げて批判することがある。政府配布の布マスクに不良品や汚れたものがあるとかと言って暇なマスコミが騒いでいるが、いまは、少々不良品があっても早く流通させることの方が大事なときだ。
そもそも2億枚も配布したら不良品はある程度はあるし、急げば平時よりはその確率が高くなるのも当たり前だ。汚れたのがあれば洗うか交換に出せば良いだけだ。今は「野戦病院」の世界だから拙速を以てよしとすればいいのだが、ワイドショーなどでつまらない批判がされると厚生労働省の末端やそれに関連するお医者さんも、いつも以上に慎重になってしまう。
IT利用の教育にも厳しい枠をはめる愚劣
これは文部科学省と教育界も同じだ。教育は大事だから少々、リスクがあっても学校行事の方が大事だとか平気で言うし、それが、地方分権だから当然だとか、政府が押しつけるのはおかしい、独自の判断をした首長は偉いとか野党もマスコミも囃し立てる。
ITを活用した代替手段についても、フランスは最初からITを使って教育を続けているし、韓国も1か月遅れでIT活用で新学期を始めた。低学年はテレビで授業をすると行った柔軟な対応もしている。
大学では中国など大流行の最中でもITで講義をしていた。日本でも私が講義をしている2大学のひとつでIT講義が始まり、もう一校もそうなりそうだ。
ところが、そのやり方について、いちいち細部まで文部科学省の指導を受け了解を取らねば講義として認めないとかいわれるそうだ。馬鹿馬鹿しい話がネット上でも不満噴出のかたちで出ている。
文部科学省には、こんなときは、家で寝ていていただいた方がよほど合理的だ。日頃でも、細々と口を出しすぎだし、こんな非常時は任せておけばいいのである。一般原則くらいはいえばよいが、それはどちらかといえば、積極的にIT講義をしろという方向であるべきで邪魔する方向で介入するのはおかしい。
なにしろ、文部科学行政では、各界のドンたちと文部科学省のそれぞれの部局がマフィアを形成し、それを省全体として擁護している。その権化みたい人物が前川喜平氏とそのグループだったわけである。その構造を打破しようとしたら、散々な抵抗にあったのが、加計学園問題だ。
外務省、財務省、経済産業省その他だって、頑強にそれぞれの論理で対抗しているが、とくにひどいのが、厚生労働省関係と文部科学省だと思う。
安倍首相は今回は守旧派との対決を選ぶべき
そういった意味において、官邸の茶坊主が対策を遅らせているのでなく、首相なり、それに近いグループが迅速な対応を試み、自民党の族議員、野党、地方自治体、関係業界、マスコミなどが守旧派の意を受けて対策を邪魔していると言う方が正しいと思う。
ただし、私は安倍首相や官邸に不満がないとは言っていない。今回のような、迅速対応が要求される場面では、これまでのように、反対意見にもガス抜きをさせながら状況をつくり、これなら行けるというタイミングで総理が介入するというやり方は向かないと思う。
小泉元首相や橋下徹氏や小池百合子氏、舛添要一氏、あるいはトランプ氏のように、いまの有事は「守旧派を敵として創りだしてそれを攻撃することで以て改革について国民の支持を取り付ける」という政治手法がけっこう効率よく働く場面である。
安倍首相に望みたいのは、これまでのような紳士的であろうとするスタイルを少し封印し、軸足をアンチ守旧派との戦いに移すことだ。そうでないとスピード感も出ないし、国民の不満も長くは待たせておけないのではないかと思うのだ。