先日、友人と、オフィス街のイタリアンレストランで食事をしました。
安価で美味しい料理。店員の丁寧な対応。しっかりとしたコロナ対策。にもかかわらず、夜7時時点で、客は私たち2人のみ。後に、1組の学生グループが来店したものの、その後の来客はありませんでした。
かなり危機的な状況です。どのような対策があるのでしょうか。考察してみたいと思います。
訴求が足りない
筆者は、入店するまで、この店がどのようなコロナ対策を行っているのか、わかりませんでした。これが、この店の最大の問題点です。つまり、実施しているコロナ対策の「訴求」が足りていないのです。
この店では、入店時の検温・消毒、各テーブル毎のアルコール設置、従業員による料理の取り分け、などの対策を行っていました。一般飲食店以上と言っていいでしょう。にもかかわらず、こういった対策を、ウェブサイトや店頭で告知していません。
せっかく、行っている対策を訴求しないのは、とても勿体ないことです。訴求しなければ消費者には伝わりません。
短期的には「訴求」が大事
現在の外食産業苦境の原因は、消費者の持つ「不安感」です。飲食店はこれを取り除く必要があります。
そのためには、「実施している対策を、消費者に訴求する」ことです。
すでに実施していることを訴求するのであれば、コストはほとんどかかりません。店舗の存続がかかっている現在、「訴求」は、対策実施以上に重要なのです。
残念ながら、「対策実施中」などの漠然とした文言や、「換気の実施」「消毒の徹底」など、抽象的な言葉だけのポスターを掲示している店が多く見られます。その代表例が、都の感染防止徹底宣言ステッカーでしょう。都の”お墨付き”を匂わせる表記のみで、どのような対策を実施しているのかは、ウェブサイトを見ない限りわからないのです。
対策内容がわからなければ、説得力がありません。
実施している対策の具体化を
行っている対策は「具体的」に訴求すべきです。具体化により、説得力が高まり、安心感を提供することができます。
いくつか例を挙げてみましょう。
「消毒用アルコールを設置しています」×
「消毒用アルコールを、入口と各テーブルに1つずつ設置しています」〇
「店内消毒を徹底しています」×
「テーブルや、椅子の座面の裏など、お客様が触れる可能性がある箇所全てを消毒しています」〇
「換気を徹底しています」×
「強力な換気システムを使い、新鮮な空気を取り込んでいます」〇
このように、具体化によって、コロナ対策に敏感なお客様の納得性を高めることができます。
焼肉店は具体的訴求の好例です。
「約3分半で客席全体の空気を入れ替えています」(焼肉新羅)
「1人1台の無煙ロースターを設置しております。煙と臭いだけではなく、店内の空気を強力に吸い込みます。結果、約2分30秒で客席全体の空気が入れ替わり、密閉環境の回避につながります」(焼肉ライク)
2分半で客席全体の空気が入れ替わる? なんか凄そう! こういったことが安心感につながるのです。
どこで訴求するか
具体的な訴求内容が決まったら、各媒体で訴求します。店頭ポスター、店内テーブル上のポップ、ウェブサイト、グルメサイトなどです。
特に重要なのが、グルメサイトです。
消費者アンケートによると、グルメサイトに「衛生面」の情報を載せてほしいと回答した消費者が、41.8% (※1)。また、外食の不安を解消する情報として「グルメサイトの口コミ」を挙げた消費者が、60% (※2)を占めました。
グルメサイトにコロナ対策を掲載することで、安心感の提供、新規顧客獲得などの効果が期待できます。
長期的には「換気」対策とその訴求を
アンケート(※3)によると、消費者の約70~80%が「店側に望む対応」として「換気」を挙げています。ところが、飲食店で、最も訴求不足なのが、換気対策なのです。
消費者は、どこがエアコンで、どこが換気扇なのかわかりません。当然、どのような対策を行っているのかわからないのです。有効な換気対策を行っている店舗は、強く訴求すべきです。
メーカーも、コロナ対策向けの換気製品を強化しつつあります。
店舗用として後付け設置用の(排出する空気と吸入する空気との間で熱を交換する)全熱交換器「ベンティエール」を9月に発売する予定だ。従来の製品は設備工事を伴うため、主に新築ビル物件で導入されていたが、新製品は十分な換気量を確保できていない中小規模の既存店舗にも後付けできる。(ダイキン工業 十河政則社長兼CEO)
冬になり、窓開けが困難になると、換気システムの重要性はますます高まります。資金面で大変厳しい状況ですが、助成金などを活用し、換気対策を行うべきでしょう。
既に導入し、訴求している事例も出始めています。
「最新の換気システム(三菱ロスナイ)を導入致しました」(中島病院)
中島病院の告知ページでは、「診察室に必要な換気量の約14倍」や「1時間あたりの換気回数7回」など、伝わりやすい表現で訴求しています。
企業との協力体制の構築を
筆者が食事をしたイタリアンレストランは、オフィスビル群の中にあります。テレワークや会社指示などにより、ビジネスマンの利用客が激減。特に、平日のディナー時間帯は団体利用がなくなり、壊滅に近い状態です。飲食店の努力だけで、この苦境を乗り越えるのは難しいでしょう。
対策のひとつとして、企業側に、ランチタイムフレックス制を導入してもらうこと、が挙げられます。昼食時間を分散し、外食しやすい環境を作るためです。同一オフィスビルなど、近隣の企業であれば、協力体制は築きやすいのではないでしょうか。
また、飲食店側は、ランチタイムを延長するとともに、差別価格制(※4)を導入すべきでしょう。ランチタイム前後の閑散時間帯に、安価に食事を提供することで、フレックスを活用するビジネスマンを取り込むことができます。
消費者のコロナに対する警戒感は人それぞれです。より多くの消費者に戻ってきてもらうためには、コロナに敏感な層に合わせた、対策と訴求を行うこと。そして「安心感」を得てもらうことです。
「具体的な訴求」という店舗単独でできる対策を行うとともに、近隣企業に協力を仰ぎ、なんとかこのコロナ禍を乗り切っていただきたいと思います。
[備考]
※1 【新型コロナ】消費者の多くが飲食店に「厳密な衛生管理」求める。Retty調査で明らかに(飲食店.COM)
※2 緊急事態宣言「解除後」現在の外食行動と意識の変化(Retty株式会社)
※3 CCCマーケティング株式会社の調査70.5%
Rettyの調査79.7%
※4 繁忙期には料金を高めに、閑散期には安めに設定し、来客時期を分散させる手法