「終身雇用は維持できない」
昨年、トヨタ自動車の社長が宣言してから、各方面で「早期退職制度の導入」が行われるなど、終身雇用の終焉を視野に入れた動きが加速化しているように感じる。
一度正社員として雇用してしまうと滅多なことでは解雇できない日本の現状に鑑みると、企業側としてはやむを得ない選択なのかも知れない。
しかし待って欲しい。
本当に終身雇用を崩壊させてしまって大丈夫なのだろうか?
昭和のサラリーマンは、終身雇用と年功賃金制に守られていたため、安心して物を買ったりサービスにお金を払うという消費ができた。
長期ローンを組んでマイホームを購入することもできた(これは消費ではなく「投資」になる)。
若い間(何歳までかは人それぞれだが)は貯蓄ゼロでも構わず、長じて住宅ローンという貯蓄より莫大な借金を抱えても、それほど問題はなかった。
勤務先で年次を重ねていくうちに収入が増えるので、生活に困ることにはならないという計算ができたからだ。
ところが、終身雇用が崩壊するとそうはいかない。
「いざという時のための貯蓄」が必要になってくる。
老後の2000万円問題は、貯蓄の必要性を奨励する結果になった。
貯蓄が増えれば消費が減少する。
旅行や外食を控え、贅沢品である自動車等の購入を控えるようになる。
各人にとっては、それが正しい選択だ。
しかし、旅行会社や飲食業、自動車メーカー等にとっては、販売が落ち込み利益が少なくなってしまう。
そうすると、それらの会社に勤めている人たちのボーナスが減らされる。
ボーナスが減らされた人たちは消費する余裕がなくなるので、ますます倹約生活を送ることになる。
家具や家電製品も売れなくなって、そこで働く人たちのボーナスが減る。
このように、各人にとって正しい選択を繰り返せば繰り返すほど、勤務先企業の業績が悪化し、各人の収入が減少するという悪循環が生じる。
合成の誤謬の典型的なケースだ。
このような悪循環を防ぐ方法は多々あるだろう。
私は、ベーシックインカムの導入が効果的な方策の一つだと考えている。
最低限の生活を維持するために必要な収入が死ぬまで保障されれば、人々の経済不安は劇的に小さくなる。
将来のことを心配し過ぎた挙げ句、多額の遺産を残して争続が発生するという悲劇も少なくなるだろう。
財源が問題となるが、年金等社会保険関連の支出をばっさりベーシックインカムに振り替え、煩雑な事務負担で発生しているコストを大胆にカットすればいい。
終身雇用の崩壊が止めることができないものであれば、ベーシックインカムを導入して人々の経済的不安を取り除くのだ。経済的不安が取り除かれれば、安心して消費をすることができる。明日のために我慢しなくてもよくなる。
このように、ベーシックインカムの導入は、先に述べた(消費減少と収入減少という)悪循環を防ぐための効果的な処方箋の一つだと思っているのだが、いかがだろうか?
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2020年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。