生命保険に社会的必要性のあることは疑い得ないが、だからといって、現に今ある生命保険会社にも社会的必要性があることにはならない。これからの日本社会において真に必要とされる保険機能は、最適な業者が最善の方法で最少の費用のもとで提供すればよく、それが既存の保険会社である必要は全くなく、むしろ、新規参入により生じる真の競争原理のもとで旧勢力が淘汰されることは社会の進歩にほかならない。
事実として、金融庁は、保険の量的拡大が不可能であることを前提として、社会構造の変化と技術の高度な進化のもとで、顧客の真の利益に適うように、全く新たな保険の提供のあり方が発展していくことを後押しする姿勢を明確にしている。監督官庁が能動的に創造的革新を促し、それに必要な規制改革に積極的な姿勢を示すことは極めて異例であって、保険改革へ向けた金融庁の意気込みを示すものである。
しかし、この好意的な激励は、必ずしも既存の生命保険会社に向けられたものとは限らず、むしろ、新規起業や異業態からの参入に期待を寄せたものであろう。それほどに、既存の生命保険会社に対する金融庁の評価は低く、現状は、環境の変化に対応できずに、旧態依然たる経営態勢のもとで、持続可能性を喪失して、健全性の維持が困難になり得る可能性を秘めているとされているのである。
要は、金融庁には、業務の適切性等を支えるガバナンスの実効性に懸念の生命保険会社が実在するとの認識があるのである。ガバナンスが有効に機能していないというのは、極めて深刻な事態である。ガバナンスが機能していなければ、そもそも、経営戦略が合理的に策定されて適正に実行される可能性そのものがないわけである。そうした事態を放置すれば、顧客である契約者の利益が損なわれ、ひいては金融システム全体の安定性を揺るがすことにもなりかねないのだから、金融庁としても看過できないのである。
特に、金融庁には、生命保険会社は、伝統的に、諸外国の生命保険会社に比べても、より大きな金利リスクを負っているという認識がある。これは、明らかに、仮に金利が上昇に転じた場合、過大な金利リスクが直ちに、生命保険会社の健全性を損なうような事象につながり得るとの懸念を反映したものである。
しかし、金融庁は、金利リスクを特に問題視しているにしても、それだけを切り離してとりあげているのではない。むしろ、問題事象の根本原因に遡って、収入保険料の量的拡大を前提とした現在の生命保険会社のビジネスモデルのもとで、結果的に大きな金利リスクをとらざるを得なくなる事業構造が問題視されているのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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