皆さんは、コロナ禍にあって徐々にでも日常を取り戻しておられますでしょうか。私も試行錯誤をしながら地元と国会での活動を行っています。
気持ちが晴れない日々を送っている中で「ワクチンさえ開発されれば」と思っている方が多いと思います(私もワクチンを待ち望んでいる一人です)が、ワクチンがすべてを解決するわけではありません。ここしばらく、ワクチン接種の希望を色んな人に聞いてみました。活発に動いている人ほど希望する人が多い一方、高齢者や持病のある方の中ではワクチン接種を望まない人が多いようです。
政府は安全性と効果を説明してワクチン接種を促す必要があります。ただ最終的に打つか打たないかの判断は個人に委ねられるべきです。これを踏まえると、ワクチン開発後も相当の間、感染予防と経済の両立を図っていかなければなりません。やはり経済対策は極めて重要です。
経世済民政策研究会のテーマは金融政策
10月14日、菅義偉総理に経済政策の要望書を提出してきました。予想を超える反響がありましたが、提案した者としては報道された部分が意図するところと違っている点が気になっています。
『経世済民政策研究会』は三原じゅん子参議院議員(厚労副大臣になられたため要望書に名前はありません)と長島昭久衆議院議員が幹事役となり今年に入って立ち上げられた議員の勉強会です。私は事務局として黒子に徹しています。コロナ禍で主にオンラインでの開催となりましたが、メンバーの出席率も良く、白熱した議論を重ねてきました。顧問に上武大学の田中秀臣教授をお迎えし、主要なリフレ派の方々からお話を聞いてきました。研究会の主要テーマは金融政策です。
要望の中で最優先事項として提案した「日銀に対し2%のインフレ目標を2021年度中に達成を果たすよう政府から要請する」「インフレ目標の達成のために、政策委員会委員の同意人事にあたっては、従来の慣例・既得権にとらわれない人選を行う」の二項目は、従来の金融政策から踏み込んだものです。特に『政策委員会委員の人選』は我々としても相当高めの球を投げたつもりでしたが、総理の反応は私の予想を超えるものでした。
デフレが止まり物価が上がるだろうという『期待』が高まると、企業は内部留保をため込むよりも投資が有利になると考えるようになり、個人も消費に動きだします。安倍政権で経済を浮揚させた最大の要因は金融政策でした。菅政権は更に大胆な金融政策に踏み出す可能性があります。
お金を国民に行き渡らせる財政政策。定額給付金は一つの方法
デフレを克服する金融政策は経済政策のベースとなります。他方、即効性があるのは財政政策です。対策が急がれる理由は下のグラフを見れば明らかです。
生活の糧を奪われた時に人は絶望し、失業者が増えると社会は荒廃します。経済政策の最大の目標は雇用の維持です。雇用については失業率や有効求人倍率に目を奪われがちですが、不況で仕事につくのを諦めた人がカウントされませんので、実態を把握するためには就業者数に注目するべきです。宿泊、小売り、娯楽に加えて、製造業や建設業でもすでに雇用が急激に失われています。足元のGDPの落ち込みは約40兆円。それを埋められるのは政府だけです。
メディアで話題になったのは定額給付金でした。やはり現金給付のインパクトは大きなものがありますが、ここは少し説明が必要です。定額給付金を国民一律5万円を提案したのは、7兆円以上残っている二次補正の予備費を充当することができるためです。我々は予備費を使い切ることが三次補正を編成する前提になると考えました。他方、予備費を三次補正に溶け込ませて給付金の金額を大きくする方法も考えられます。
総理は三次補正そのものには積極的な反応を示しましたが、定額給付金について直接的な言及はありませんでした。大切なことは、お金を国民に行き渡らせることです。手段としては雇用調整助成金の特別措置の延長、地方創生臨時交付金や持続化給付金の追加支給など様々なものが考えられます。
災害被害や防災のための公共事業も景気対策として有効です。私の地元では、昨年の台風19号で決壊寸前までいった狩野川の治水など緊急性の高い事業が目白押しです。昨年までは公共事業を積み増しても人手不足で消化しきれないという意見がありましたが、コロナ禍で建設・土木業の雇用も落ち込みを見せていますので、今であれば実行可能だと思います。
税金を更に投入して景気対策をすることについては一部に異論も出ていますが、コロナによる需要の落ち込みは誰も予測できませんでした。観光地、飲食店、工場、建設業。どれをとっても一度基盤が崩れると回復には相当の時間を要します。コロナ後の回復につなげるためには、基盤を維持する必要があります。我々が提案した項目を組み合わせることで、コロナ後の景気回復につなげなければなりません。やはりここは政府の出番なのです。
携帯値下げは景気対策にプラス
定額給付金に関連して『社会保障給付の情報基盤の整備』についても要望しました。三宅伸吾参議院議員の発案で加えられたこの提案に対し、菅総理は前向きな反応を示しました。やはり『改革』は菅総理の政治家としてのテーマなのだと実感しました。
コロナ禍に直面し、わが国の政府は国民にお金を配ることすらスムーズにできないという『不都合な真実』が明らかになりました。国民の自発性とプライバシーは大切ですが、経済対策や危機管理を迅速に行うためにはマイナンバーの活用を含めデジタル化の対応が不可欠です。
このところ小泉純一郎政権時のブレーンの名前を頻繁に目にするようになりました。コロナ禍にあって、いわゆる『痛みを伴う構造改革』を国民に強いるのは危険だと思いますが、同じ改革でも国民の生活を後押しするデジタル化などは当面の景気対策との相乗効果が期待できます。
すぐに成果が期待できるのが携帯電話料金の値下げです。先週、武田良太総務大臣の講演を聞く機会がありました。
1人5,000円、4人家族で20,000円の負担は重い。携帯値下げは家計支援になる。民間企業である携帯会社に手を突っ込むのは難しいが、菅義偉政権はやる。電波は公共物だが、公正な競争が行われていない。20%の利益率は高すぎる。
聴衆を頷かせるのに十分な内容でした。同じ二階派に所属する武田良太大臣とは頻繁に会いますが、改革への並々ならぬ決意を感じます。
総選挙の前提となる政権の成果とは何か
これからの政治日程を確認すると、年内は秋の臨時国会に続き、三次補正予算と来年度予算の編成。年が明けると3月までは予算審議、6月から7月にかけて都議選、7~9月はオリンピック・パラリンピックと続きます。都議選とのダブル選挙がないとするならば、衆議院解散のタイミングは年末年始か予算成立後の4月。
戦後の任期満了の総選挙は、ロッキード事件への対応を巡り三木武夫総理が解散権を封じられた1976年の1回のみ。その選挙で自民党は議席数を大きく減らしました。歴代総理が解散に打って出てきたのは、受け身の戦いの厳しさを知っているからです。
孫子「兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり」
菅総理は新総裁に選出された直後の記者会見で解散の時期を問われ「せっかく総裁に就任したわけですから、仕事をしたい」と応えています。多少なりとも個人的なお付き合いがあり、これまでご本人の仕事ぶりを見てきた者として、菅総理らしい発言だと感じました。役職を与えられるたびに結果を出し、総理の座にたどり着いた叩き上げの政治家ならではのコメントです。
処理水の海洋放出の決断は菅内閣の最初の大仕事になりそうです。事務方とも連携しながら処理水の海洋放出を後押ししてきた者として、決断を評価したいと思います。3.11から間もなく10年が経過する中で、処理水の海洋放出は政治家にしかできない歴史的な決断です。
処理水に加え、コロナ禍を受けた三次補正予算の編成、国民の負担を軽減する携帯値下げが実現すれば『国民に信を問うに十分な仕事』ではないかと思います。菅総理の決断を待ちたいと思います。
編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、無所属)のnote 2020年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。