2週間ほど前、以下の記事を目にした(「『談合防止骨抜き』か『業者救済』か 山梨県議会が違約金減額求める」(産経新聞2020.10.12ウェブ記事))。
山梨県発注の土木工事では、業者が談合を行った場合は代金の20%を違約金として県に支払う契約になっている。ところが県議会は6日、談合が認定された建設業者27社への違約金計約30億1300万円の減額を求める請願を採択した。「支払いで業者が倒産するかもしれない」という切実な訴えだが、「減額すれば制度が骨抜きになる」との批判がある。
現在、「27社のうち26社が減額を求めて甲府簡裁に民事調停を申し立てている」(同記事)という。
入札談合が摘発され独占禁止法違反が確定した場合、約束通りの違約金が請求される。刑法典上の談合罪等でも同様である。それは違反によって不当に高値で契約を獲得した、と考えられているからだ。かつては違約金の定めがなく、損害賠償請求訴訟が多発した時期があり、そのたびに具体的な損害額が争点となったが、今では約款記載の率での請求が自動的になされる。契約金額の「10%」というケースも見かけるが、「20%」のところの方が多いようだ。
この「20%」の根拠はどこにあるのか。談合がなければ落札率が20%程度低下するはずだ、という想定がその背景にあるのだろう。2005年の独占禁止法改正で行政処分として課される課徴金の算定率が引き上げられたとき、「談合による平均的な価格上昇率」が「10数%」であるとの算定がなされ、それを根拠に引き上げを正当化した経緯がある。低く見積もって「10%」、高く見積もって「20%」という違約金の数字はそこから導かれているのかもれない。
2005年に公共工事品質確保法が制定され、公共工事の競争入札で総合評価落札方式が一般化されるようになるまで、「改革派」と呼ばれる首長は挙って公共契約における競争を煽り、ひたすらに(予定価格分の契約金額の百分率である)落札率の低下を目指した。指名競争を一般競争に変更し、地域要件のような入札参加条件を緩和することで「叩き合い」を激化させた。地方自治体によっては落札率が60%、70%にまで低下した。
これら首長たちは「30%、40%の無駄排除」を喧伝し、再選や国政進出へのアピール材料とするのに躍起になった。「落札率90%」は「談合の指標」とされ、90%超の発注機関、一般競争に消極的な発注機関は「改革を怠っている」と批判された。
今では国をはじめとして公共工事の契約は一般競争入札と総合評価方式のセットで実施されるのがスタンダードとなり、低入札価格調査や最低制限価格の設定が厳格化されるようになったので、90%を大きく割り込むようなケースは少なくなった。総合評価方式や下限価格の設定はいずれも品質維持のために必要というコンセンサスがあるので、この状況を批判する人々は少なくなった。
違約金は賠償額と推定され、違約があれば予め定められた通りの請求がなされる。公序良俗違反があったり、相手方の不法があった場合には別である。
素朴な疑問として、最低制限価格が予定価格の90%で設定されるような場合には、「20%の違約金」は損害額としては「制度的に生じ得ない」ということになり、その存在根拠が問われることになろう。その場合は、賠償額の予定ではなく、ペナルティーとしての性格を見出すことになるだろうが、そのあたりの約款の記載の仕方は今後問題になるかもしれない。
さて、冒頭の記事が問題にするケースは、想定された違約金の減額事由が存在しない場面において、県議会が「減額を求める採択」をしてしまったものである。
一般に、請負契約約款に「発注者が特に認める場合はこの限りでない」といった例外規定を盛り込ませるので、手続上減額が許されているといえようし、定めた通りの違約金を請求するかどうかは民事上の問題だと考え、当事者の判断によるといってしまえばそれまでだが、請求できるのにしないとなるとこれを不満に思う住民からの地方自治法上の請求へと発展するかもしれない。
冒頭の記事では、「県関係者によると今回も、県に与えた損害額は支払わせるが、『議会の意思を重視する』との名目で違約金としては一定の減額を行い、分割払いや支払い猶予などを認める可能性があるという」と報じられている。
県の公共工事に係る下限価格(が設定されているのであれば、であるが)の水準を考えれば、実損は違約金よりも小さいことが想定されるので、「諸般の事情を考慮」して、実損賠償の請求に止めるというのが、コンセンサスを取りやすい「落とし所」ということなのだろうか(記事の書き振りだけからは明らかではないが)。少なくとも「違反行為のやり得」にはならない(本来であれば発覚率を考慮すべきだが)状況を作るのだから、裁判所として乗り易いラインともいえる。
県の決議があるので、「民主的に決まった」という体裁もある。20%の違約金を、設定された下限価格で修正する。これが今後一つのスタンダードになるかもしれない。
長崎幸太郎知事は「防災・減災の重要な担い手」としての役割を強調する。建設会社は災害時の緊急復旧工事での最重要の担い手である。コロナ禍で多くの人が痛感したように、緊急時の公共調達ほど難しいものはない。建設会社が「担い手」として協力的である限り、その心配は緩和される。そういった政策的判断を無視することはできない。しかし一方で通常時における「競い合い」の手続も重要である。
「ペナルティーが嫌だったら違法行為をしなければいい」という単純な発想で片付けるべき問題ではないことだけは、いえるだろう。