フランスの歴史学者エマニュエルトッド氏の最新作「エマニュエル・トッドの思考地図」を読みました。
ソビエトの崩壊や、リーマンショック、イギリスのEU離脱などを予言した事で知られ、数々の論争を引き起こしてきた異端の学者です。その思考の手法についてエッセイのように自由に語っています。
学術書のような堅さはなく、文章は読みやすいですが、内容は難解です。しかし、何度も読み直すと、新しい気づきが得られる久しぶりの「当たり本」でした。
その手法の基本は、膨大なデータのインプット。何かの拍子に気づきが生まれ、それを掘り下げるうちに誰も気が付いていない発見があるとしています。
また、GDPのような経済データは改ざんや統計としての意味をなさない可能性があり、死亡率のような人口データの方が真理を映しだしているとも述べています。
第8章では、新型コロナウイルスについて考察していますが、歴史学者らしいアプローチに説得力がありました。
それは、コロナウィルスを1980年代に世界を震撼させたエイズと比較し、エイズほど深刻ではないと語っている点です。
「新型コロナウィルスはエイズほど深刻では無いのです。なぜならば、コロナウィルスで死亡した人々の80%はある意味では死に最も近い高齢者層です。・・・でもエイズは前途有望な若い世代を襲ったのです。」
そして、エイズを社会が乗り越えたのと同じ結果が新型コロナウイルスにも起こると予言しています。
「ポスト・コロナの世界というのはそれ以前に既に存在していた傾向が再確認されそれが加速していくことになるでしょう。つまり何も変わらないだろうということです。そしていろいろなことがより明確になり強まるだろうというだけです。」
これまでの延長とは、米中の対立であり、国家中心主義の広がりであり、ユーロの失敗であり、貧困層の拡大とエリート層との対立というフランスで起こっているような出来事です。
日本については、相対的にコロナウイルスの収束をうまく迎えることができることによって、高齢者を救うより子どもを産むことが大切という現実が更に見えなくなっていくことを懸念しています。
折しも、日本経済新聞の世論調査によると、緊急事態宣言の延長を90%の人が望んでいるという結果になっています。高齢者を守るために経済活動全体を犠牲にすることを多くの国民が支持している状態です。
コロナウィルス感染拡大は、世論の圧力から高齢者を優先し、若者を犠牲にする政策を強め、今まで進んできた少子高齢化を加速し、日本の衰退に拍車をかけるという構図です。
歴史的な分析からの未来へのアプローチ手法を知りたい方に一読をお勧めします。
<参考図書>
「エマニュエル・トッドの思考地図」 エマニュエル・トッド
編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。