我が国の公共放送といえばNHK、かつては台湾に関する偏向報道で台湾住民から訴訟されたり、最近も戦後間もなく放送した軍艦島の番組の一部映像が不適切だと、「産業遺産国民会議」(財)と「真実の歴史を追求する端島島民の会」に提起されたりと、その放送内容にはとかくの批判がある。
だが、そのNHKも韓国の公共放送KBSにはさすがに歯が立たないようだ。朝鮮日報日本語版は2日、「韓国KBSアナウンサーのニュース原稿無視、政府・北朝鮮批判記事で数十件」との見出し記事を報じた。一体何があったのか、記事の内容を以下に要約してみる。
発端はKBSの労働組合が1日、アナウンサーのキム某が昨年10月から12月までのラジオニュースで、勝手に記事自体を読まなかった事例が6件、記事内容の一部を削除したり、原文にない一節を追加したりした内容の変更が10件確認されたことを明らかにしたこと。
先ず読まなかったニュースは、「合同参謀本部、『北朝鮮が今日未明に閲兵式を実施した状況をキャッチ』」、「米当局者、『北朝鮮、核弾道ミサイル計画優先に失望』」、「検察、姜琪正元青瓦台政務首席秘書官のGPS記録確保」などの主要ニュースとのこと。
次に勝手に一部を削除したのは、北朝鮮に射殺された公務員の追悼式の記事での「我々は金正恩政権の嘘と暴力の犠牲者」というオットー・ワームビア氏の遺族による北朝鮮を批判するメールや、李容九法務部次官のタクシー運転手暴行事件で野党が問題提起した「偏向捜査」疑惑の部分。
他方、原文にないのに追加した方は、北朝鮮の閲兵式で「(金総書記が)愛する南の同胞たちにも温かい気持ちを送る」との一節などで、労組関係者は「外した記事は、ほとんどが北朝鮮の人権や閲兵式、与党人事不正の内容など現政権にとって好ましくない内容」で「一定のパターンがある」としている。
それに対してKBS側はこれまで、「ラジオはニュースの時間が短く、一部省略することがあり得る」としてきたものの、同じ日、「該当アナウンサーや編集記者などの関係者を監査する」との見解を明らかにしたそうだ。
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そもそも視聴者は記事のリストや原稿の内容を知らないから、記事そのものを丸々抜いたり、一部を読み飛ばしたり、勝手に付け加えたりされても気付きようがない。とすれば、このアナウンサーの所業は、それらの事情を知る、つまり比べることのできる内部の指摘がなければ発覚しなかった。
しかも恐ろしいことに、KBS側は事実を糊塗しアナウンサーを庇おうとした。ところが、なんと労働組合が、「外した記事は、ほとんどが北朝鮮の人権や閲兵式、与党人事不正の内容など現政権にとって好ましくない内容」だったという事実をすっぱ抜いた。
ここに韓国の今の政治状況が垣間見える。つまり、公共放送KBSは北へのシンパシーを隠さないキム某を擁護、勝手にニュースのシナリオを作った規則違反を不問にした。一方、労組はこれを告発し、改変内容には政権擁護のみならず、北への親愛を示す内容が含まれていたことを明らかにした。
換言すれば、KBSは文政権に忖度し、労組は敵対した。普通の民主主義国家なら、あるいは朴槿恵前政権だったら、かつて朝鮮戦争を戦った共産主義国家の北は敵国であり、政権と対立する労働組合は共産主義のシンパであるだろう。これが逆転している韓国を、他の民主主義国は理解しがたい。
とはいえNHKも会社も労組もそろって左、民間メディアならいざ知らず、公共放送なのだからこれだって理解しがたいか。同じ公共放送だから受信料制度だが、KBSは韓国電力が徴収しているそうだ。テレビのない家庭は免除されるが、手続きが面倒で免除は少数と。ここはNHKと一緒。
が、KBSは広告収入を得ても良いことになっていて、原則は番組と番組の合間にCMが流されるとのこと。ただし、長時間に及ぶワイドショーや映画などでは、番組を何部かに分割し、その間にCMを入れるそうだ。公共放送にスポンサーが影響を与え得るというのも理解しがたい。
試しにKBSのサイト(20年11月現在)で収入の内訳を見てみると、受信料:670,470百万ウォン(約630億円)、政府の補助金:14,582百万ウォン(約14億円)、独自収入:771,545百万ウォン(約725億円)で、広告収入の方が多かった。
ついでに従業員の年収を見ると、社長:236,660千ウォン(約2,225万円)、副社長:198,663千ウォン(約1,867万円)、本部長:178,356千ウォン(約1,677万円)、スタッフ(常勤従業員の平均):96,985千ウォン(約912万円)。
日本も韓国も公共放送は高給のようだ。ところで、キム某アナウンサーは朝鮮日報の連絡になしのつぶてで、連絡が取れないそうだが、1千万円近い年収を棒に振って、北越するのだろうか。