バイデンの「ネアンデルタール人の思考」発言を深読みした話

4日の朝刊各紙は「米大統領、マスク緩和批判 『大きな過ち』」との見出しでワシントン共同電を報じた。が、余計なことを書く割に大事なことを書かない「共同」らしく、このニュースもバイデン発言の「肝」といえる「ネアンデルタール人の思考」を書き落としている。

バイデン氏Facebookから:編集部

共同電に依れば、3日のバイデン発言は、テキサス州とミシシッピ州が「マスク着用義務などを解除」したことを「大きな過ち」と批判したもの。サキ大統領報道官も「大統領のマスク義務化は、命を救えるとの保健医療の専門家の勧告に基づいている」と強調したと。

が、3日の米メディア「The Hill」の見出しは、「バイデンは新型コロナの制限を解除したことでテキサスとミシシッピを、ネアンデルタール人の考えだと非難した」というもの。ここで興味深いのは、テキサス州もミシシッピ州もともに知事が共和党員であること。

同日、日本では1都3県の緊急事態宣言の延長が報じられた。メディアは小池都知事に先手を打たれないよう総理が先行して発表した、などという。が、病そのものや経済への影響での人の生き死にに関わる重要時を、政争の駆け引きに使うな、といいたい。

共和党の両知事はワクチンの普及に言及し、テキサス州知事は「暮らしと常態を取り戻す(restore livelihoods and normalcy)」と述べた。日本の政治家も、他人の顔色ばかり窺わず、自らの信念に基づいて政策を打ち出し、有権者の信頼を得て欲しいものだ。

さて、バイデンは「ネアンデルタール」を「頭の古い保守主義者」との意で、侮蔑的に使ったに違いないのだが、The Hillの記事を読んでいた筆者は、少々深読みしてしまった。というのも、コロナの重症化にネアンデルタール人の遺伝子が関わっている、との論考が頭にあったからだ。

それは昨年9月末、沖縄科学技術大学院大学が発表した「新型コロナの重症化はネアンデルタール人から受け継いだ」と題する論考で、科学雑誌ネイチャーに掲載されたヒューゴ・ゼバーグ教授とスバンテ・ペーボ教授の論文を解説したもの。

同論考に依れば、新型コロナの感染者3千人以上を調査した結果、重症化した感染者の群には「3番染色体のある領域の遺伝子多様体(バリアント)」が影響していると判り、その重症化リスクは3倍だったという(専門的過ぎて筆者にはよく解らないが、とりあえず先に進む)。

南欧のネアンデルタール人1人にそのバリアントがあったが、シベリア南部のネアンデルタール人2人にはなかったので、このバリアントがネアンデルタール人から受け継いだものか、それとも共通の祖先を介してネアンデルタール人と現生人類の両方から受け継いだものかの疑問が生じたという。

もしこのバリアントがネアンデルタール人と現生人類の交配で継承されたのなら、それは5万年前に起こったことになるが(*それ以前にネアンデルタール人は絶滅)、最後の共通の祖先に由来するなら、現生人類にこのバリアントが約55万年前から存在していたことになるそうだ。

二人の教授は、南欧のネアンデルタール人と現生人類のバリアントが酷似しているため、交配から来た可能性が高いと考えて、両人類が出会った約6万年前に、南欧で発見された者と血縁関係のあるネアンデルタール人が、このバリアントを現生人類にもたらしたと結論づけた。

さらに両教授は、このバリアントを現在保有する者が、地域によって異なることも発見した。すなわち、インドやバングラデシュでは6割以上、ヨーロッパ系(北米を含む)も2割弱いるが、アフリカ系と東アジア系には保有する者がほとんどいないというのだ。

同論考は、ネアンデルタール人由来のこのバリアントが、なぜ重症化リスクと関連しているかについてはまだ解っておらず、ペーボ教授は「一刻も早い理由の解明に向けて、私たちも他の研究者たちも取り組んでいます」と述べている。

同論考を読んでの筆者の感想は、アフリカ系と東アジア系の現生人類には、ネアンデルタール人との交配がなかったのではないかという、ごく単純なものだが、このことも同論考は明示していない。

ということでバイデンの「Neanderthal thinking」発言を、つい深読みした次第だが、もしかするとバイデン発言も「Nature論文」を読んだ上でのものかも知れぬ。なにしろ超大国の大統領だ。