郵政事業についてモノ申してしまいました。

郵政事業についてモノ申してしまいました。

「デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」。

デジタル化を最重要課題とする政府が日本郵政グループに提言する総務大臣主催の会議が始まりました。

千葉大学多賀谷一照名誉教授が座長、ぼくが座長代理を務めます。

冒頭、所信を述べよとの仰せにつき、申し上げました。

自己紹介。

84年に郵政省に入って最初の研修は世田谷郵便局。

30年前、登別郵便局長を務めた。

パリに2年派遣され貯金保険の外国投資に携わった。

大臣官房で省庁再編を担当した。

現場、海外、本省の3か所で郵政事業に関わったが、もう20年以上前のこと。

以後、郵政事業とは離れている。

先ごろ日本郵便の衣川社長が「現場と経営の風通しを良くする」とおっしゃってたのが気になった。

私が知ってる郵政は、風通しがよく機動的に動く組織だったが、民営化してからのほうが窮屈そうにみえる。

民営化の流れで、効率化やガバナンスが強調される一方、インフラとしての役割はどこまで維持されるのかが気がかり。

郵政の機能を高齢化、情報化、国際化にどう活かすかは国民的課題。

郵政の資産はひと・もの・ネットという3点。この価値をどう最大化するか。

郵便局のひとがもつ安心感・信頼感は他の企業には真似ができない。

自治体の業務、見守りサービスなどを手掛けているが、より戦略的に地域の公共サービスを手がけてよい。そのためには制度的な手当も課題となる。

モノ、不動産もまだまだ活かせる。

高齢者向けの活動などに使うことも考えられるが、個人的には教育拠点として活かせないかと期待する。

五輪向け応援プロジェクトやeスポーツ等関係者から連携したいという声も聞く。

そしてネットワークの基盤。

郵便は通信であり本来ITと対立するものではない。

大きい業務用の通信ネットワークを運営しているのだから、通信事業者になったりICTビジネスに進出していてもおかしくない。

郵便局が楽天のポジションを取っていても不思議ではなかった。

金融も本来データ事業。郵便局は3事業を通じて大量のデータを扱ううえ、2万4千の局舎はセンサーを埋め込み放題で、人やモノの流れをつかむことができる。有利な立場にある。

これらを推進するにはデータ系、デザイン系の人材が不可欠だが、そういう新機軸に対応できる人材の確保も課題だろう。

ひとモノネットという資産を活かすのは当然というか守り。

さらに、攻めの経営を期待したい。

国際展開は国内経済が停滞する中でどの産業も主要課題だが、郵政はどうするのか。特に郵便は世界共通のシステムだ。

そしてテクノロジーへの取組に期待する。

日本郵政が研究開発費をどれだけ使っているかのデータを持っていないが、コミュニケーションと金融の企業は研究開発主導型でなければ未来が展望できない。

MITメディアラボには20年前には米郵政公社が5億円の投資をしていた。国内の競合企業の動きも早い。

一方、日本郵便ではクラウド、AI、ロボットなどの取組みが見られるし、パートナー企業を巻き込むオープンイノベーションの息吹もあるので、応援したい。

もはや実証実験でなく、いずれも実装・実利用のタイミングなので、動きを早めてもらいたい。

最近の私の活動を2点紹介する。

東京港区竹芝の国家戦略特区でスマートシティ作りを推進。

ソフトバンク、NTTKDDIや放送局、さらに、東大・理研・NICTなどと連携して、5G 8K AI データ利活用のプロジェクトを進めている。

また、この4月、iUというICTビジネスの大学を通信、ICTなど250社と連携して墨田区に開学した。

学生全員が起業する大学で、吉本興業などとも連携して地方創生に力を入れることにしている。

いずれも郵政との親和性が高いと考えるが、まだつながってはいない。

これは一例。このようなプロジェクトは全国にあるので、このような会議をきっかけに郵政とのマッチングが進むとよいと考える。

以上、かんぽや郵貯の不祥事、郵便の低迷、海外投資の失敗などでしょぼくれている郵政に対し、デジタルというチャンスが来てるんだから下向いてんじゃねーよとハッパかけました。

当然つながってよいはずのぼくの周りのプロジェクトにも姿が見えませんしね。

しばし、尻叩き役です。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2021年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。