オーストリア国民議会のイビザ(※)調査委員会に所属する野党の極右政党「自由党」議員が新型コロナウイルスの変異株「デルタウイルス」に感染し、検査結果の報告が遅れたこともあって、他の議員や関係者に感染が拡大した。感染した「緑の党」議員がその後、州党会議に参加したためクラスター発生に。現地の情報ではデルタ株に感染した議員やその関係者は9人、感染者と接触した可能性のある濃厚接触者30人、非濃厚接触者300人、総数339人がウイルスの感染の疑いのある監視対象となった。
デルタ株のウイルスに感染したのは「自由党」イビザ調査委員会代表、クリスティアン・ハーフェネッカー議員だ。同議員は議会内でもマスクを着用せず、ワクチン接種も拒否してきたこともあって、クラスターのスーパースプレッダーとして批判を受けている。
同議員は2日、検査結果でウイルスに感染していることが分かったが、議会に報告したのは5日だった。連絡遅れが感染拡大を引き起こしたと受け取られている。デルタ株ウイルスに感染した議員は1日の調査委員会に参加していた7人の議員、その関係者たちだ。その中には、野党リベラル「ネオス」のクリスパー議員や、「緑の党」のシュテーグミュラー議員らが含まれている。調査委員会の仕事が終わった直後、ハーフェネッカー議員らは関係者と飲みに行っている。また、民間放送の討論番組にも参加していることから、メディア関係者にも感染が広がっている可能性はある。
ウイルス感染者との接触の度合いで、濃厚接触者(K1)と感染危険が少ない非濃厚接触者(K2)に分類されるが、K1の場合、2週間の隔離が義務付けられている。その数は今回は30人、K2は300人と推定されている。誰が議会内にウイルスを持ち込んだかは現時点では不明だ。ハーフェネッカー議員はメディアとのインタビューの中で、「自分がスプレッダーではない」と否定している。
国会クラスター発生について、ヴォルフガング・ソボトカ国会議長は、「ウイルス感染は2日の段階で判明していたが、議会に報告されたのは5日だった。連絡が遅すぎた」と指摘し、ハーフェネッカー議員の報告義務の遅滞責任を追及している。ちなみに、国民議会は8日、夏季休暇に入った。
オーストリアでは新型コロナ感染が拡大した後、その対策として公の場所でのFFP2マスクの着用が義務付けられてきたが、ハーフェネッカー議員が所属する「自由党」(ヘルベルト・キックル党首)関係者はマスク着用を拒否し、キックル党首はコロナ規制に抗議するデモ集会でもマスクなしでクルツ政権の辞任を要求するなど、コロナ違反がこれまで目立ってきた。
興味深い点は、欧州ではマスク着用を拒否する政治家は極右派が多いことだ。独週刊誌シュピーゲル(2020年8月14日号)で興味深い統計が掲載されていた。ドイツでは右派政党支持者はショッピングや公共運輸機関の利用の際のマスク着用には他の政党支持者より強い抵抗があるというデータだ。質問は「マスク着用に慣れたか」「マスク着用は難しいか」だ。その結果、「同盟90/緑の党」と与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の支持者は87%「慣れた」と答え、「社会民主同盟」(SPD)支持者は86%とそれに次いでいる。それに対し、リベラル派政党「自由民主党」(FDP)支持者は「慣れた」という答えは65%と低く、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の場合、さらに55%と下がる。
極右、右派系の政治家や支持者は他の政党・支持者よりマスク着用に抵抗が強いのはオーストリアやドイツだけの傾向ではない。例えば、トランプ前大統領やブラジルのボルソナロ大統領はマスク着用を頑固に拒否してきた(「極右派はアンチ・マスク傾向が強い?」2020年8月18日参考)。
「自由党」に戻る。同党のオーバーエスターライヒ州のハイムブフナー党首がコロナに感染し、集中治療室にお世話になったばかりだ。「自由党」はクルツ政権のコロナ対策を批判するだけで、代案を提示することなく、コロナ規制を無視してきた。国会に議席を有する政党として責任感が乏しい。
「自由党」は2015年以降の難民問題では外国人排斥を煽り、反難民政策で国民の支持を得て議席を伸ばしたが、新型コロナウイルスが欧州で拡大して以来、コロナウイルスを軽視し、マスク着用にも反対してきた。その結果、国民の支持率は急落している。ハーフェネッカー議員の今回の感染も議員自身の言動に多くの責任があることは明らかだ。なお、ハーフェネッカー議員のデルタ感染とその後のクラスターでイビザ調査委員会は停滞を余儀なくされることが予想される。
※注・イビザ問題
自由党のシュトラーヒェ党首(当時)は2017年7月、イビザ島で自称「ロシア新興財閥(オリガルヒ)の姪」という女性と会合し、そこで党献金と引き換えに公共事業の受注を与えると約束する一方、オーストリア最大日刊紙クローネンの買収を持ち掛け、国内世論の操作をうそぶくなど暴言を連発。その現場を隠し撮り撮影したビデオの内容が2年後の19年5月17日、独週刊誌シュピーゲルと南ドイツ新聞で報じられたことから、国民党と「自由党」の連立政権は危機に陥り、最終的にはシュトラーヒェ党首(当時副首相)が責任を取って辞任した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。