(モンテカルロシミュレーションで検証 連載40)
本稿では前連載で導入した方法で、ワクチンの効果を定量的に評価します。この方法のポイントは、ピークアウトのメカニズムとワクチン効果を分離できることです。従って、ワクチン効果がゼロの場合、接種時期を早めた場合などの陽性者数を、現状を再現した時と同程度の精度で評価することが出来ます。「定量評価」、これが目的です。
ワクチン接種スピードと接種開始時期、このふたつについて解析し、結果は以下の通りです。
- ワクチン接種がない場合、ピーク時の陽性者数は現状の約4倍の9.3万人/日になる。
- ワクチン接種スピードが現状の1/4であった場合、ピーク時で6.7万人/日になる。
- 接種開始時期を2ヶ月前倒ししていれば、デルタ株の第5波は、第4波より小さく抑えられる。
1.ワクチン接種スピードの検証
図1(本稿では抑制率を70%と仮定)で、青線は現状を再現したもの、赤線はワクチンがなかった場合、橙色は接種スピードが現状の1/4の場合、黄色は1/2、緑色は2倍の場合の結果です。ワクチンがなかった場合では、ピーク時で現状の約4倍、陽性者数が最大9.3万人/日、1/4の接種スピードでは6.7万人/日、1/2でも4.7万人/日近い陽性者数になります。
現状の最大2.4万人/日でも医療機関の逼迫が叫ばれたわけですから、接種スピードが1/4に遅れた場合は、陽性者数は6.7万人/日となって破綻したでしょう。参考に接種スピードが2倍になった場合の結果(緑線)も示しています。この場合、日毎最大は第4波と同程度に抑えられますが、現状の驚異的なスピードの2倍は現実的ではないと感じます。
2.ワクチン接種時期の検証
図1が示していることは、ワクチン接種の感染抑制効果が非常に大きく、また日本が実現したワクチン接種の驚異的なスピードはコロナ対策としては大きな成果だったということです。実現できた接種スピードは現実的には上限だと思いますが、もうひとつの可能性、接種時期はどのような効果を与えるか検証します。
図2に、ワクチンの接種時期を、2ヶ月前倒し(紫線)、1ヶ月前倒し(緑線)、1ヶ月遅延(橙色)の結果を示します。2ヶ月前倒しで、ピーク時で現状の15%、陽性者数が最大3,700人/日で、第4波より小さいピークになります。1ヶ月前倒しでもピーク時で現状の38%、最大9,260人/日で、第4波より多少大きい程度です。一方、1ヶ月接種開始が遅れると、ピーク時で現状の約2倍以上、最大5.5万人/日の陽性者になります。
接種時期の前倒しが現実的にどの位可能性があったかは議論のあるところですが、ワクチン接種の開始時期は、デルタ株の感染拡大に大きな影響を与えます。従って、図2で示したような大きな違いを考慮し、図1の接種スピードのもたらした成果の分と合わせて、これまでのワクチン接種の施策の検証を行うべきです。