トルコから軍事用ドローンを導入し、ロシアに対抗するウクライナ(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員 藤谷 昌敏

2021年12月3日、米ワシントン・ポスト紙は、米情報機関の報告書の内容として、「ロシアが来年早々にも最大17万5,000人を動員したウクライナ侵攻を計画している」と報じた。緊迫するウクライナ情勢を受けて、バイデン大統領は、プーチン大統領との首脳会談に臨んだが、結局、平行線に終わった。両国は対話を続けるとしているものの妥協点は遠い。

ウクライナは、約4,370万人の人口と60万平方キロの広大な国土を持ち、旧ソ連時代には第2位の大国であることを誇っていた。2014年、ウクライナで、親欧米政権が誕生したのを機にロシアが介入し、クリミア半島を併合した後、東部のロシアと国境を接するドンバス地域で、ウクライナからの分離独立を目指す親ロシア派住民の武装蜂起を支援した。その後もウクライナ軍と親ロシア派武装勢力との間で衝突が続き、両国の戦いで1万3,000人以上が死亡したとされる。

停戦協定締結後も停戦違反は繰り返されており、2021年3月頃からは、ウクライナ東部で同国軍と親ロシア派の衝突が発生し、4月には係争地付近に両国が軍を派遣し、再び緊張が高まっている。

ロシアは、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を目標としていることに強く反発し、欧米に対し、NATOの東方拡大の停止、ロシア国境近くに攻撃兵器を配備・供給しないことを要求している。これに対し、バイデン政権は厳しい経済措置を講じると警告する。それにもかかわらず、ロシアが軍事侵攻も辞さないと強硬姿勢に出る背景には、米国の抑止力低下がある。2014年のクリミア併合を巡る日米欧による経済制裁もロシアを追い詰めるには至っていない。

こうした国際関係を背景にウクライナは、ロシアという共通の敵を持つトルコと強い協力関係を築き、軍事用ドローンなど最先端兵器の相互技術協力にまで至っている。

ウクライナは、トルコの再生エネルギーやインフラ設備関連企業などを以前から受け入れていたが、軍事関係でも軍事用ドローン「バイラクタル TB2」などを輸入し、ウクライナ東部の紛争地帯での偵察活動を行っていた。反対にウクライナはトルコの無人攻撃機「アキンチ」のエンジンやプロペラなどの部品を供与している。

ロシアも恐れる軍事用ドローン

ウクライナがトルコから導入している軍事用ドローンは、シリアやリビアにおける内戦や、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争でも利用され、「神風ドローン(Kamikaze Drone)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、もしくは「Kamikaze Strike(神風ストライク)」と呼ばれている。

軍事用ドローンの大群が上空から地上に突っ込んできて攻撃をしてくることは大きな脅威であり、標的である敵対者に与える心理的影響と破壊力も甚大である。ドローンはコストも高くないので、大国でなくとも購入が可能であり、攻撃側は自国の軍人が傷つくリスクは低減される。ウクライナやトルコのような国でもロシアのような大国に対して大きなダメージを与えることが可能だ。

なにしろ、空中を飛び回るドローン兵器は発見が難しい。熱源もなく、大きさも小型であるため、専用のレーダーが必要で、通常の地対空ミサイルのレーダーではまず捕捉できない。どう撃墜するかも問題だ。銃火器で撃墜しようとしても、ドローンは小型で撃墜しにくい。有人機なら、射撃によって乗員を怯ませることも可能だが、ドローンは動じることはない。

軍事用ドローンは、軽量で持ち運びが容易であり、大軍を動かす必要もなく、燃料や食料を補給する大規模な兵站(Military Logistics)も準備する必要もない。しかも、コントロールする兵士は、戦場のはるか後方にいるため、殺傷することも難しい。まさに戦場のゲームチェンジャーと言われるのに相応しい兵器だ。

トルコの軍事用ドローンの実力は

2021年6月22日、国連安全保障理事会の専門家パネルは、「人工知能(AI)を持ち、人間の意思を介在させずに敵を自動的に攻撃する「殺人ロボット兵器」が昨年春、内戦下のリビアで実戦に使用されたとみられる」との報告書を発表した。ここで言う「殺人ロボット兵器」とは、トルコ製の「殺人ロボット兵器」のことで、兵士らを自動的に追尾して攻撃したとのことだ。

死傷者など被害が出たかどうかは不明だが、これが事実だとすれば「自律型致死兵器システム」と呼ばれる殺人ロボット兵器の実戦投入が確認されたのは世界初となる。

この「殺人ロボット兵器」とは、トルコ製軍事用ドローン「STM KARGU」と言い、STM社の飛行制御システムにより自律飛行を行う。精密攻撃の命令は、マン・イン・ザ・ループの原則に沿って、オペレータによって実行される。昼と夜の差なく高精度にターゲットを検出し、射撃することができる。KARGUシステムは、攻撃ドローンプラットフォームと移動地上管制ステーションで構成されている。

STM社幹部が証言するところでは、KARGUは顔認識システムを持っており、特定の個人を探すことができる。KARGUはドローン群で行動可能であり、数が多いため高度な防空システムでも対応するには難しく、非常に迅速に多数のターゲットを破壊することが可能だとする。しかし、標的に対する攻撃を人間を介さず自律的に特定、選択、および調整する能力は、STM社においても実証されたことはないとのことだ。

また複数の軍事専門家は、トルコ製の軍事用ドローンKARGUの実力について、「国連の報告にあるような完全自律型のドローンではない。顔認識システムを持っていることは事実だが、あくまでも人間が介在して目標を追いかけて攻撃するものだ」と分析する。

今後、さらにAI技術が進化すれば、AIの判断で標的の選択と攻撃の自律性が可能な「自律型致死兵器システム」が実現すると言われている。

だが、未だ解決されていない問題として、敵と味方、戦闘員と非戦闘員の識別が困難なことなどがあり、実用化には高度な人口知能と高性能なセンサーの開発が必要である。さらには機械が人間を殺すことに対する倫理的問題や、AIの暴走や誤認による一般市民に対する虐殺が懸念されるなど、解決しなければならない問題は数多い。

藤谷 昌敏
1954年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程修了。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、一般社団法人経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。