値上げでプライベートブランドシフトが加速する

関谷 信之

AlexSecret/iStock

冷蔵庫の中を見てみてください。

牛乳、バター、チーズ、ドレッシング、竹輪、はんぺん、清涼飲料。

見慣れたメーカーの食品が減っていませんか。それが「みなさまのお墨付き」「トップバリュ」などプライベートブランドに置き換わっていませんか。

プライベートブランドの商品幅が広がっているのです。安くて品質はそこそこ。そんな商品を選ぶと、たいていプライベートブランドになります。結果、冷蔵庫はプライベートブランドで埋め尽くされることに。

しかし、現在の安い価格はそう長く続きません。プライベートブランドも、早晩、値上げに踏み切るからです。

今回は、値上げによるプライベートブランドシフトについて考察します。

イオン プレスリリースより

値上げラッシュが後押し

小売は、プライベートブランドへのシフトを加速させています。

商品中のプライベートブランドの構成比を、西友(合同会社西友 以下 西友)は25%へ。ファミリーマート(株式会社ファミリーマート)は35%以上へ引き上げる、としています(参考 食品メーカーはプライベートブランドの工場になるのか」)。

値上げラッシュが、これを後押しします。

チーズなど乳製品は最大10%、竹輪などすり身製品は最大13%程度の値上げ。家計への影響は大きく、低所得層の負担増は「消費増税2%に相当する」との分析もあります(※1)。今後、食品類は1割ぐらい高くなることを覚悟しなければならないかもしれません。

消費者にとって、値上げ対策となるのがプライベートブランドです。小売り側もニーズに応えるべく、商品棚の多くをプライベートブランドに割り当てています。

ナショナルブランドがプライベートブランドに置き換わる

目標とするプライベートブランドの構成比率は25%から35%、ということでした。しかし、一部ではその目標を優に超えている、それどころか、「プライベートブランドしか選べない」商品さえあります。

例えば「ごま(胡麻)」です。

近隣の西友では、商品棚の6段中3段、つまり50%をプライベートブランドが占めています。筆者が以前から購入していた、カタギ食品の「有機いりごま 金」 は無くなり、プライベートブランド「みなさまのお墨付き 有機いりごま 金」に置き換わりました。

では、このプライベートブランド商品はどこの食品メーカーが作っているのか。

「カタギ食品」です。栄養成分表示もほぼ同じ。パッケージを変えただけで、ナショナルブランドと「同じ商品」といって良いでしょう。

左:ナショナルブランド (カタギ食品) 右:プライベートブランド(西友 みなさまのお墨付き)

カタギ食品だけではありません。

プライベートブランド商品のパッケージ裏の「製造所」欄を見てみてください。永谷園(株式会社永谷園)やエスビー食品(エスビー食品株式会社)など大手企業が、プライベートブランドの製造メーカーであることに驚くでしょう。

自社ブランド(ナショナルブランド)ではなく、プライベートブランドとして納入するメーカーが増えている。これは、食品メーカーが、小売に取り込まれつつあることを意味します。

プライベートブランドは諸刃の剣

メーカーにとって、プライベートブランドは諸刃の剣です。

一定の売上が確保できる、というメリットもある反面、納入価格が安く抑えられ、利益率が大幅に低下する、というデメリットもあります。

公正取引委員会の調査では、以前からプライベートブランドの納入価格が問題視されていました

「元々NB(ナショナルブランド」=自社ブランド)商品として取引している商品のうち、売行きの良い商品について、包材だけを変えてPB商品として取引している場合が多い。この場合、当社の製造原価は変わらないが、PB商品となる際には3割程度納入単価(納入価格)を引き下げるように求められている」
食品分野におけるプライベート・ブランド商品の取引に関する実態調査報告書(公正取引委員会)

先ほどの「ごま」を例にとり、利益への影響を推測してみましょう。

ナショナルブランド「カタギ食品 有機いりごま 金」は、小売価格281円。対して、プライベートブランド「みなさまのお墨付き 有機いりごま 金」は235円(共に税込)。プライベートブランドの方が、46円安くなっています。

46円が価格に占める比率は16%。

仮に、この16%を全てカタギ食品が負担し、全商品をプライベートブランドに置き換えると、約38億円の売上高は6億円減少します。カタギ食品の純利益は約1億円しかありません。赤字に陥る可能性が非常に高い、と言えます(※2 2021年3月決算値より)。

食品メーカーにとって、自社ブランド(ナショナルブランド)を減らし、プライベートブランド受託を増やすことは、利益減少に直結するのです。

よって、いまの小売への「安価な」納入価格を維持しつつ、プライベートブランドの製造比率を増やし、さらには、原材料の高騰を負担する。これは難しいでしょう。

納入価格の値上げは避けられません。これは、小売の販売価格に反映されます。時間差はあれど、プライベートブランドも値上げされる、ということになります。

国も、納入価格の値上げには前向きです。

「国際的な需給で原材料価格があがる中、適正に価格転嫁が進まなければ食品産業そのものが成り立たなくなる」(農林水産省 新事業・食品産業部企画グループ長吉松亨氏)
「適正に価格転嫁を」 小売り、PB値上げ巡り変化の兆し|日本経済新聞

新たなガイドラインを設定し、小売への価格転嫁を促します。

さて、小売はどう対応するのでしょうか。

値上げに踏み切るプライベートブランド

イオン(イオン株式会社 以下イオン)は、2021年9月に発表した、「プライベートブランドの『年内』価格凍結宣言」を、2022年3月31日まで延長する、としました。

イオンニュースリリースより

一見、「価格据え置き」発表のようですが、裏を返せば、4月1日以降は「値上げする」ということです。

「原価率が上がっており、商品単体での利益率は下がっているのが現状。(据え置き期間も)2022年3月31日までが限界に近いと考えている」(イオン株式会社 執行役商品担当 西峠泰男氏)
原価高騰のなか、イオンが「価格凍結」を22年3月末まで延長する理由とは |ダイヤモンド・チェーンストアオンライン

「可能な限り現状を維持する」とする西友や、競合他社も、値上げに追随するでしょう。

彩りの無い時代の到来

店舗内の商品の大半がプライベートブランド。これは、ある意味「寡占」状態です。消費者としては、選択肢が少なく、「値上げ」されても他製品に乗り換えられないのです。

支出は控えめ。冷蔵庫の中はみな同じ。そんな、彩りの無い時代が近づいているのかもしれません。

 

【参考】
※1
必需品の価格上昇で家計に逆進的な負担発生(みずほリサーチ&テクノロジーズ)

※2
値下げ率46/281円=16.37%
カタギ食品 2021年3月末 (ごま)売上高 3,776百万円
単独値がないため、かどや精油株式会社(親会社) 2021年3月期決算説明会より算出
かどや精油株式会社 2021年3月期決算説明会

売上高減少額=3,776百万円×16.37%=618百万円
カタギ食品 2021年3月末 純利益 106百万円
カタギ食品株式会社の情報 | 官報決算データベース