先々週、ウクライナ問題で異常ともいえる価格上昇となったと思えば先週、停戦ムードで急落したのが原油価格。ニューヨークマーカンタイル市場では3月6日に一瞬130㌦台を付けたものの3月15日には94㌦台とわずか10日足らずで高値から28%の下落を演じました。3月17日の当ブログで「再びじわっとした上昇基調になる」と申し上げましたが、概ねその展開となっています。94㌦を底に回復基調にあり、現在110㌦程度となっており、着実な回復基調を辿っています。
チャート的には21年12月からの上昇トレンドラインが形成されていた中で、ウクライナ問題で異常値を示したものの元の上昇ラインに戻っている形ですので今しばらく原油価格は再上昇が続くとみています。ニュースでは原油増産の示唆はいくつかあります。岸田首相をはじめ、西側諸国の増産要請を受け、UAEが増産を支持するのではないかとか、イランとの核合意があり、イラン産原油の輸出が再開されるのでは、あるいはアメリカがシェールオイル開発を再度推し進めるというものからサウジアラムコが増産体制を敷くための設備投資をするといった話題も出ています。
ただ、どれも今日明日のものにならないのです。例えばUAEは勝手に増産できないのでOPECプラスに協議を持ち込むでしょう。しかしこの「プラス」とはロシアであって、原油を正規ルートで売れない国家にとって西側諸国にメリットのある増産にYESという理屈はないとみています。
イラン産原油への期待にしても「アメリカの自己都合」だと激怒しているのがサウジアラビアです。そもそもサウジとアメリカの関係はバイデン大統領になってから最悪になっています。サウジはそれならば中国と仲良くするぞという「天秤外交」をする可能性もあり、これ以上中東に刺激をあたえれば中東国家間の不和を招きかねません。サウジは今回の原油高で巨額の利益を得ており、一時期のような足元の弱さがない点を世界は甘く見過ぎています。
高くなるのは原油だけではなく、ニッケル、アルミ、銅をはじめあらゆる資源が高騰しています。また資源の高騰の背景には取引市場の能力を巨大な取引量と価格変動圧力が押し流したという問題があります。わかりやすい表現をすれば取引市場に津波のような買いが押し寄せ、売り方が決済できなくなったということです。
ニッケル市場はロンドンLME市場が代表的市場ですが、ここでのニッケル価格が突如数日間で3倍程度になり、取引所の機能障害を起こし、LME市場が「そんな取引決済はなかったことにする」という異例の判断を下し、値幅制限も設けたのです。これはニッケル市場が引き金で巨額損失が内在する事態が生じ、金融不和すら起きかねなかったためで現在、市場の落としどころを探る展開となっています。
商品相場は取引市場が特殊であり、一般人が直接に参加しないことから例えばコロナ禍に起きた原油価格の「マイナス事件」ということも起きてしまうのです。
どの商品相場を見ても大体同じなのですが、コロナ回復で価格が上昇基調を辿っていたところでウクライナ問題で余計な揺さぶりが起きたというのが正しい見方です。市場が特殊であるため、揺さぶられた際のレバレッジが効きやすく、価格のブレ(ボラティリティ)が大きくなるということかと思います。
商品相場は一般論では、上昇局面では経済全般にはモノを早く得ようとする動きが出るので経済効果はプラスに働きます。日本の消費者物価指数も5月に発表される4月分は2%越えが確実視されています。黒田総裁の「意図せぬ10年目の2%実現」でどのような反応を示すのか、そして23年4月の「卒業」以降、日銀の政策変更があるのか、別の意味での期待感が出てくるかもしれません。正直、黒田総裁は長すぎたと思います。
話を元に戻しますが、商品相場の上昇は物価の確実な上昇を意味します。物価上昇は需要が伸びることであり、原則的には好景気という意味ですので企業などでは値上げ効果もあり、決算は好転するとみています。商社でも資源系のウエイトが未だに大きいところは良好な数字が出てくると思います。日本も景気上昇で消費もさらに上向くとみています。もちろん、「こんな物価に誰がした!」という主婦の声も当然出てくるはずですが、全体論からすればその声をうち消す形になるとみています。
ファンダメンタル的には日経平均は中期的に3万円、ダウも最高値が狙える状況にあるとみています。強気スタンスでよいと思います。但し、ロシア関係企業の損失処理の行方だけは注視してみる必要があります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月22日の記事より転載させていただきました。