前原国土交通相が、八ツ場ダムの現地を訪れ、住民との話し合いを求めましたが、ダム建設中止に反対する住民は、会合を拒否したようです。こういう話し合いは地元対策としてはわかりますが、事業の当事者でもない住民と話すのは、セレモニーとしての意味しかない。本質的な問題は「今までの苦労をどうしてくれる」などという議論ではないからです。
八ツ場ダムの総事業費4600億円のうち、すでに3200億円が使われ、残る事業費は1400億円です。国土交通省の公式発表によれば、ダムの費用対効果は3.4だから、効果は1兆5000億円以上ということになります。これが事実だとすれば、ダムは建設すべきです。逆にその効果が費用を下回るなら、建設は中止すべきです。今まで地元の人々が苦労した気持ちはわかるが、そういう取り戻せないサンクコストは考えてはいけないのです(各都県に費用を返還するのは当然で、国と自治体の間の所得移転にすぎない)。
問題は、国交省が発表している費用対効果が正しいのかどうかです。これについては、私は一次資料をもっていないので何ともいえませんが、反対派のウェブサイトによれば、その効果には疑問があります。
- 利水効果:八ツ場ダムは治水のために夏場は水位を下げるので、渇水対策としての効果は小さく、関東圏の5%程度
- 治水効果:八ツ場ダムによる水位の低下は、過去最大規模の洪水が起こったとしても10cm前後で、ほとんど効果はない
これに対する国交省の反論はないので実態はわかりませんが、正確に便益を評価するには、機会費用を考える必要があります。八ツ場ダムがまったく必要ないという反対派の主張が正しければ、機会費用はゼロですが、国交省はダムと同様の治水効果を堤防によって実現するには数千億円が必要だという。近隣の知事にも、水需要は限界にきているという意見があります。
今後の追加的費用の見積もりにも不確実性が残りますが、国交省の計算によれば、今ダムの建設をやめると、生活関連の補償などで770億円かかり、事業継続によるネットの費用は(1400-770=)630億円ということになります。ただし反対派は、東電への補償などによってさらに1000億円以上のコストがかかると主張しており、これを上限とするとネットの費用は約1600億円です。
この場合もサンクコストは無視してよいので、建設を中止することが合理的になるのは(総事業費ではなく)今後の追加的費用である1600億円よりダムの便益が小さいときです。だから長期事業の大部分が終わったところで中止するのは――その事業の総事業費が便益を上回るとしても――不合理になることが多い。
今後も事業費がふくらむリスクを見込んでも、残るコストの2倍の3200億円以上の便益があれば継続は正当化できるでしょう。民主党がダムを中止すべきだと考えているのは便益がそれを下回ると推定しているためでしょうが、これは現在の国交省の1兆5000億円という評価とは大きな開きがあり、このままでは議論は成り立たない。
まず必要なのは、こうしたダムの費用対効果を(サンクコストを無視して)計算し直すことであり、地元に説明に行くのはそれからです。「マニフェストで約束した」というのもサンクコストだから、無視するのが合理的です。少なくとも国交省の公式の数字では効果が費用よりはるかに大きいのに、国交相がそれをやめる前提の話し合いをするのは順序がおかしい。
コメント
ここを見ると「7割完成している」というのがそもそも全く事実と異なるようです。
http://yanbachiba.web.fc2.com/yambaexp090915.pdf
建設に関わる交渉も地域の住人の理解を得ながら何十年としてきたのに「中止する」ということについてわずかな時間しか用いることなく発言するような民主党の姿勢に大きな疑問を抱いた。
マニフェストに「建設中止」を掲げたこともその議論を地域とすることもなく「勝手」に掲げて「書いてあるから実行します」というのもおかしな話だ。
「やめた方がよけいに無駄」… 八ツ場ダム中止に反発
2009.9.12 22:22
(略)
「大雨の日に、利根川の土手に立ってみてほしい」
埼玉県の上田清司知事も大雨のたびに洪水の危険にさらされる利根川流域の危険性を訴える。上田知事は民主党の元衆院議員だが、八ツ場ダムについては正反対の位置につく。
(略)
ダム建設は渇水対策の側面もある。
埼玉県など関東地方の1都5県は、八ツ場ダム建設にすでに計1980億円を投入した。ダム建設で生まれる水利権(水を使う権利)は430万人分。埼玉県は、すでに約30%の水利権を暫定的に確保し、160万人分をまかなっている。
「人口増加のなか、権利を失うと厳しい」と埼玉県担当者は漏らす。埼玉では平成に入り、渇水で計6回、最大30%の取水制限を実施した。担当者は「中止は毎日断水しろと迫るのと同様だ」と話す。
(略)
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/090912/env0909122223000-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/090912/env0909122223000-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/090912/env0909122223000-n3.htm
前原大臣もダムによらない防災方法を考えると発言していますね。(いまのダムに治水効果を認めていると推定される)
少なくとも、いまのダム並みの防災方法のコストを計上すべきだと思います。
もともと、八ッ場ダムの発想は、利水ではなく治水から始まったそうですから、反対派の言うように効果ゼロではないと思うのですが。
kakusei39さんへ
治水から始まり、効果が少ないと論破されれば、利水となる。それも必要性が低いと言われれば、治水も利水もと言い換える。兎に角、最初にダム建設ありきなのです。役に立つとか立たないとかどうでもいいのです。諫早湾の干拓も食糧増産から出発、その後、洪水対策に変更になってます。長良川河口堰もしかり。
全国ダムだらけになって、砂が下流に流れず、海岸の砂地が侵食されても新しい砂が川から補給されない。美しい白砂青松は消え去り、全国津津浦浦、テトラポットだらけになってしまった。現在、先進国ではダムの建設は出来るだけしないという傾向です。特に、川が短く急流の多い日本ではダムの寿命は短いのです。諫早の淡水調整池も50年で埋まってしまい、川の排水路を確保するため新たに干拓せねばならぬのです。
上水が不足するなら、下水処理場に浄水装置を設置し再利用すればよいのです。その技術はとっくの昔に完成してます。
経済的にも波及効果はずっと大きいはず。水不足は全世界で問題となっている。日本は率先して貢献すべし。
東京都調布市議会:「八ッ場ダム建設見直しを求める意見書」
「
…国土交通省は1986年に基本計画を発表し、完成を2000年としました。ところが、2001年には2010年に延期し、さらに昨年12月13日には、工期を5年間延長し2015年とする計画変更を発表しました。
この工期延長は、東京都にとって完成を待つ限度を超えています。2015年は、東京都でも人口がピークを迎える頃で、その後減少に転ずると予測されています。これまで水道局の努力によって漏水が減り、市民の節水意識の向上や民間事業者の技術開発などによって、人口が増加しているにもかかわらず、都内の水道使用量は減ってきています。
水需要予測や治水計画などを検証することなく、ダムの必要性そのものを再検討しないまま事業費を増額しながら継続される「公共事業」のあり方は、深刻な財政難の中でとうてい納得できるものではありません。
よって、調布市議会は、政府に対して、八ッ場ダム建設について抜本的見直しを行うよう求めるものです。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出します。
平成20年12月16日 調布市議会
」
今、過大な需要予想で計画された利水事業に大幅な見直しがなされつつある。
大阪府や大阪市では府水道局と市水道局の合併が今、論議されている。
府も市も守口市の隣り合った場所に浄水場を持ち、一体的な運用で効率的に稼動させることができるだろう。
ここ10年ほどの間に強まった家庭と企業においての節水意識の向上で、どこの公共上水道の経営は苦しくなっている。
例えば近畿地方では、大阪府・京都府・滋賀県の間で丹生川・大戸川のダム建設が中止となった。
また、紀ノ川大堰の取水量と負担金を巡って各自治体間で争いが生じた。
同じように八ッ場ダムの水を利用することになる1都5県の水道局も”手に余りつつある”水をどのように扱うか、で頭を悩ませているに違いない。
民主党政権が”過激な”形で利水(・治水)政策の転換を今行いつつあるが、内心喜んでいるのは各自治体トップなのかも知れない…
hogeihantai さん
ステレオタイプに考えては駄目ですよ。
八ッ場ダムはそうではないみたいですよ。始まりは治水。
治水では、首都圏が金を出してくれないので、利水が加わったと吾妻町民が言っている。浅間山の噴火の時の土石流を防ぐ為に、下流の渋川、前橋、高崎まで含めて防御するらしい。調布にはわからんわな。
確かに例に出されることもあったと思いますが、全てそうだといえるほど知ってはいないはずです。実情を知らずして、決め付ける。それこそ、民主党の体質ではないですか。傲慢と言う言葉が当てはまりません。
前原大臣には極めて適合する言葉でしょう。政治家が実情を調べずして、マニフェストにあるからやりますと言うのは、今は北朝鮮に端的に残っているが、共産主義の下級幹部の行動パターンでしょう。
余談::いま水が余っていると言ってるが、農業が盛んになり休耕田が復活した時の計算はできてるのだろうか。多分蒸留で使われるから、足りなくなるよ。ダムは要らないと言ってる連中の名簿を作り、渇水になっても一滴も水をやらないようにすると面白いのだけれど。誰かやらないかなー。
蒸留は上流の誤りです。すみません。
傲慢と言う言葉が当てはまりません。間違いです。傲慢と言う言葉が当てはまります。
政権与党は、全国政ましてや八ツ場ダム以外の公共事業に責任を負っているのだから
>「マニフェストで約束した」というのもサンクコストだから、無視するのが合理的です。
という前提には、違和感を感じる。
kakuseiさん
>農業が盛んになり休耕田が復活
米は保管場所が無い位、余っています。だから減反をやってきた。人口も減っている。何故米を増産する必要があるのですか?農業の利水権は神聖犯すべからずの既得権になってしまってます。水道水や工業用水と違って殆どただだから、節約もされず無駄に使っている。水田は激減し、灌漑用水需要も減っているのに見直しがされない。農業用水を上水にまわせばダムは要らないのです。
>米は保管場所が無い位、余っています。
ほおー!最近始まった、飼料米もそんなに余っていたのか、知らんかった。備蓄されてる飼料米の量を教えてくだされ。
農民の水利権は、有史以来の既得権。これ裁判やっても負けますよ。どのようにして水利権を農民から引き剥がすのか具体策を言わなきゃ、前原大臣よりも格段に劣る話さね。
米を牛豚の飼料にしようという国が他にあったら教えてくだされ。人もそっぽを向くくらい余ってるから家畜にでも食わせようという話がでているんだよ。
具体策は簡単だ。新しく法律をつくって農業用水も有料にすればすむことだ。別に力ずくで取り上げようというのではない。市場原理を働かせれば、解決する。水道水や工業用水が有料なのだから国民の大多数は賛成する。
ダムを作れば山が死に川が死に海が死ぬ。
国土を破壊しまくる美しい国に幸あれ
>米を牛豚の飼料にしようという国が他にあったら教えてくだされ
ご存じないでしょうが、トウモロコシを牛豚に食わせるようになったのも、米国カーギルなどの戦略で、そんなに古い話ではない。アメリカで、米が大余りしていたら、牛豚が食べるようになっていたでしょう。
少なくとも、食糧を自動車に食わせるよりマシなことぐらい分かりそうなものなのに、分からんかなぁー。
多数決で何でもできる話ではないよ。多数決で農地はく固有にすることだって、数の上では出来る。つまらない論はやめようよ。
>トウモロコシを牛豚に食わせる
日本の米の価格は国際相場ではトウモロコシの数十倍もする、安価な輸入飼料のトウモロコシでなく、わざわざ高い米を牛、豚に食わせる馬鹿な畜産農家がいたら教えて下され。
日本でも、大量の余剰米の処置に困って、燃料用エタノールを作ろうと農水省が考えてますよ。少なくとも、米国では政府の補助金があればペイするからトウモロコシエタノールを作っているのです。トウモロコシが余っているからエタノールを作っているのではない。その証拠にトウモロコシの相場は2-3年前から急騰したのです。
>多数決でなんでもできる話ではないよ。
民主主義は多数決できまるのです。貴方自身は現在の水利権をどう考えているのか建設的な意見をきかせて下され。
日本に於ける水資源の利用は年間900億トン。農業用水はその3分の2の600億トン、その95%は水田灌漑。米の一人当たり消費量はピーク時のほぼ半分に減っているが、農業用水利用量は不変である。工業用水や一人当たり水道水の使用量は急増している。水利権を改めれば利水の問題はダム無しで解決するのです。
飼料米は農水省が後押しし、補助金も出ているから酪農家が使うのは可能。減反補償よりずっと生産的。農家の個別補償の対象となるのじゃないの(ほんとのところはよく存じません)
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/shiryouyoumai/pdf/siryo_torikumi.pdf
水利権は、いままで通りでしょう。後から入って来た都市の人間ががたがた言うなってとこでしょうか。
これからの気候変動の激しい時代にどうするのかも考えないと駄目じゃないの。石原知事が紹介していた話だが、その昔、小河内ダムを作ったときに、マスコミや反対派が、しょう(小)が(河)ない(内)ダムだと言っていたが、その翌年に大干ばつがきて、小河内ダムで事なきを得た。人間なんて将来を完璧に見通せないのだから、やれるときには備えておいた方がいいと思うがなぁとコメントしていた。これは正しい。
真面目にコツコツやってる人の話も聞いて損することはないと思うよ http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/oki/07/index.shtml
>水利権はいままで通りでしょう。後から入って来た都市の人間ががたがたいうな。
100年前は農民が80%以上、今は数パーセント以下。どうして同じ権利を主張できる?農村から都市に出てきた田舎の人間は都会のことに、がたがた言えないの?
米作農家や畜産農家への補助金の殆どは都会の人間が負担している。都会の人間には口は出さなくてもよいが、金は出せということか?
>都会の人間には口は出さなくてもよいが、金は出せということか?
そういうことになるかも知れない。
入会権も、漁業権も、同じですね。それらの権利は、金を出して買うしかないようですよ。
京都滋賀辺りでは、水利権の証拠に、信長の認状が出てくると聞いたことがある。
不合理だとお思いなら、無料で水利権の譲渡を迫る裁判をしたら分かるのではないでしょうか。
「八ッ場ダム報道でヤラセ発覚」だそうです。
事実かどうかは分かりませんが。
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2009/09/post-39f8.html
民主党が公約に掲げた「八ッ場ダムの建設中止」に対して、ダム建設の推進を訴える中年男性や中年女性など地元住民の映像が各テレビ局のワイドショーや報道番組などで繰り返し流されているが、これらの地元住民が、実はダム建設推進に深く関わって来た長野原町の自民党系の町議会議員であったことが分かった。・・・
新政権、杓子定規に中止をうたわず「残りの1,400億円ポッキリだけ拠出しよう」と言ってみてはどうだろう?
推進派は青ざめるんじゃないかな。建設費がもっとかさむのは目に見えているし、予算内で完成させられなければ「ダムのできそこない」が残るだけだから。
hogeihantai さん、
テレビでやってましたよ
飼料米を農家から仕入れて豚に食わせてる農家
http://www.47news.jp/CN/200711/CN2007111301000826.html
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/shiryouyoumai/index.html
ところで池田先生は
>八ツ場ダムの総事業費4600億円のうち、すでに3200億円が使われ、残る事業費は1400億円です。
この前提が崩れていることにそろそろ気がついたんでしょうか。
走り出したら止まらない、どんどん建設費が膨らむ日本の公共事業のことを分かってらっしゃらないとは思えないんですが。