事実関係はいかに?
我々の誰しもが事実関係を理解しておらず、いかなるコメントも時期尚早だ。
トランプ氏のフロリダ州での邸宅がFBIに「ガサ入れ」されたことを受けて、リベラル系のテレビ番組にて民主党上院院内総務のチャック・シューマー上院議員は司会者から感想を聞かれたが、シューマー議員はノーコメントを貫いた。
シューマー氏の言う通り、FBIの捜査に関して分からないことだらけである。報道によれば、トランプ氏が大統領時代の機密文書を不当にマールアラーゴで保管していたことが、今回の強制捜査のきっかけであるとしている。
だが、現時点ではどういう罪状、どのような根拠でFBIが家宅捜査に踏切り、また上位の指揮命令系統から指令を受けたのも分からない。そのため、今回の事件に関して今のタイミングで論評したとしても、憶測、推測の域を出ない内容になってしまう。しかし、大統領経験者がFBIに強制捜査をされること自体が前例のないものであり、歴史的な事態であることは確かに言える。
トランプ擁護で団結する共和党
また、今回の事件で筆者が論評するのに意義深いと感じた現象が共和党側のリアクションである。上記で紹介したシューマー氏とは対照的に、下院共和党の少数党院内総務であるケビン・マッカーシー下院議員は情報が錯そうしている中で、即座に声を上げた。
Attorney General Garland: preserve your documents and clear your calendar. pic.twitter.com/dStAjnwbAT
— Kevin McCarthy (@GOPLeader) August 9, 2022
マッカーシー氏は「司法省は政治的に武器化されるという受け入れがたい自体に陥っており」、「共和党が下院を奪還した暁には、我々はこの部局を直ちに監視し、事実を追認し、手をこまねいている暇はないだろう」という声明を発表した。現時点の中間選挙の情勢として少なくとも下院では共和党が多数を獲得することが確実とされている。それと同時に、マッカーシー氏が訪台で話題になったナンシー・ペロシ下院議員に変わって下院議長に就任することも当然視されている。
これまでマッカーシー氏は筋金入りのトランプ支持者を装い、下院議長の座を手に入れるためにトランプにおべっかを使ってきたことは以前の論考で紹介してきた。そして、今回の件で誰よりも早くトランプ支持に動くことで、下院議長選挙で必要なトランプ派議員の票を固めに行ったと考えられる。
潜在的な対抗馬たちによる擁護
マッカーシー氏以上に筆者が驚いたのは、2024年に共和党予備選でトランプ氏の対抗馬として出馬を模索している政治家たちがトランプ氏の熱烈な擁護に回ったことだ。トランプ氏と予備選で戦う意思を示しているマイク・ポンぺオ前国務長官は「元大統領に対する令状執行は危険だ。司法省/FBIの明らかな政治的武器化は恥ずべきことである。」と述べた。
Executing a warrant against ex-POTUS is dangerous. The apparent political weaponization of DOJ/FBI is shameful. AG must explain why 250 yrs of practice was upended w/ this raid. I served on Benghazi Com where we proved Hilliary possessed classified info. We didn’t raid her home
— Mike Pompeo (@mikepompeo) August 9, 2022
世論調査で共和党内の支持率でトランプ氏を上回る勢いを見せており、彼以上の政治資金を集め始めているロン・デサンティスフロリダ州知事は「MAL(マールアラーゴ)の襲撃は、政権の政治的敵対者に対する連邦機関の兵器化における新たなエスカレーションである。」と声明を出している。
The raid of MAL is another escalation in the weaponization of federal agencies against the Regime’s political opponents, while people like Hunter Biden get treated with kid gloves. Now the Regime is getting another 87k IRS agents to wield against its adversaries? Banana Republic.
— Ron DeSantis (@RonDeSantisFL) August 9, 2022
他にも2024年の共和党予備選への出馬を模索しているテッドクルーズ上院議員やマルコ・ルビオ上院議員も上記の面々と同様に司法が政治的意図で動いていることを示唆する声明文を出している。
繰り返すが、FBIの家宅捜査の背景、そこに政治レベルでのゴーサインがあったのかは不確実であり、事件の全容が明らかになっていない。しかし、それにもかかわらず、野心的な共和党政治家たちが条件反射でトランプ氏を擁護しなければならないこと自体が示唆的である。
仮に今回の件でトランプ氏が罪に問われれば(それは極めて低いが)予備選で彼らはこの問題に関してトランプ氏と向き合わなければいけない可能性がある。しかし、その可能性を度外視して、即刻トランプ擁護に回らなければいけないという必要性を即座に彼らが感じたということはトランプ氏の影響力が党内でいかに無視できないかを示している。
共和党全体だけではなく、トランプと距離を取りつつあった保守系テレビ番組FOXニュースもトランプ擁護に同調したこともトランプの保守層への浸透具合を物語る。大統領時代、トランプ氏はFOXニュースに引っ張りだこで、単独インタビューが度々実施されたり、集会での演説も生放送で番組内で流されたりもした。
距離を置いていたFOXニュース
しかし、トランプ氏の不正選挙の主張が同番組内で放映されるのが訴訟リスクとなる可能性があり、FOXニュースを所有しているメディア王のルパード・マードック会長の意向も反映され、最近はトランプ氏のFOXへの出演が見られない。そして、トランプ氏にとってはいらだたしいことだが、ペンス副大統領の演説やデサンティス氏のインタビューをトランプ氏の集会に被せて放送することで、暗に保守系の視聴者層をトランプから離反させようと試みている。
だが、家宅捜査の一方があった直後からFOXニュース上では、今回の捜査が政治的なものであるという前提でコメンテーターが解説しており、それが結果的にトランプ氏が腐敗した政治と対峙する二元論的な構図を浮かび上がらせ、トランプ氏にとって好意的な報道につながってしまっている。FOXニュースもコアなトランプ層の獲得によって視聴率が上がった成功体験から抜け出せずにいるようだ。
トランプにとっての天祐
今回のFBIによる強制捜査はトランプ氏にとっての天祐となるかもしれない。SNSからの追放、自身のビジネスや議会襲撃事件への対応に対する追求、そしてデサンティス氏などの潜在的な対抗馬の伸長によって一時期の輝きは失われたように思われた。
しかし、民主党とそれを従えるFBIなどの情報当局への疑心暗鬼、そしてトランプ氏の擁護へ動くことの政治的メリットなどが重なり、この局面で共和党が団結し、それがトランプ氏に有利に働いているように見える。
今回の家宅捜査の一件は前大統領が情報機関に捜査されるという歴史的な出来事であると同時に、共和党がトランプ党であることを改めてさらけ出した。