中国人が事務局長の国連機関で加盟国脱退が止まらず

ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)は中国の財務部副部長(財務次官)だった李勇氏が2013年事務局長に就任してからも加盟国の脱退の動きは止まっていない。国連関係者によると、欧州連合(EU)加盟国のオランダが年内にも脱退すると予想されている。

在ウィーンの国際機関担当オランダ政府代表部に電話で確認を取ると、同国外交官は、「議会が現在、脱退問題を協議していることは事実だが、まだ何も決定してない」と脱退決定説は否定したが、限りなく脱退へ傾いていることを示唆した。

加盟国の脱退歴史は以下の表をみれば一目瞭然だ。米英仏など主要加盟国がUNIDOから出て行って久しい。米国は1996年の脱退当時、「UNIDOは腐敗した機関」として分担金を払わず一方的に脱退した。

オランダの脱退が最後ではないだろう。その次はデンマークと予想され、今年中に脱退意思を通達し、来年には脱退すると予想されているのだ。スぺインは目下選挙戦だが、政情が安定し、新政権が発足すれば、UNIDOの脱退問題もテーマとなるという。

UNIDOを脱退していった国は欧米先進諸国がほとんどだ。UNIDOがアフリカや発展途上国の工業発展を支援するという創設目的からいっても資金、技術を有する先進諸国の脱退はUNIDOにとっては好ましくない。

ちなみに、UNIDOに近年加盟した新規加盟国は人口10万人余りの太平洋上にある国キリバスと太平洋上に浮かぶマーシャル諸島の2カ国だけだ。

ところで、先進諸国の脱退の動機はほぼ同じだ。UNIDOの非能率なマネージメント、腐敗、縁故主義などがその理由に挙げられている。李勇事務局長の前任者、西アフリカのシェラレオネ出身のカンデ・ユムケラー時代はUNIDO内では腐敗と汚職が席巻していた。李事務局長の就任でUNIDOが能率的な機関に生まれ変わり、加盟国の脱退トレンドもストップされるという淡い期待があったが、残念ながら期待は裏切られている。李事務局長の就任後も4カ国が既に脱退している。

日本とスペイン両国の外交官が李事務局長に「なぜ加盟国が出ていくのか」と問い詰めたことはこのコラム欄でも紹介済みだ。李事務局長はその時、「当時国と交渉によって話し合っていく」と答え、「なぜ出ていくか」という肝心の質問には答えなかった。

UNIDO関係者は、「日本とドイツの2国は加盟国だが、そのいずれが脱退するようだとUNIDOは崩壊する。日独両国は国連安保理常任理事国入りを目指している手前、国連専門機関からの脱退は避けたい意向が強い。脱退すれば、国連を無視している、安保理常任理事国入りの資格はない、といった批判を受けると恐れているのだ」という。

安保理常任理事国入りを願う故に、非能率的な国連専門機関に留まり続けるというのは賢明だろうか。日本の常任理事国入りは中国、韓国が反対し、ドイツの場合イタリアが反対している以上、現時点では非現実的な夢に過ぎない。

アフリカ諸国への開発途上国支援は日本の場合、国際協力機構(JICA)を利用すればいい。当事国からも感謝される。国連の改革が進み、常任理事国入り問題に進展が期待できる段階で考えればいいのではないか。非能率で腐敗した機関と分かっていながら留まり続けることは国民の税金無駄使いだ、と批判されて仕方がないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月12日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿。オリジナルは「オランダが年内にも脱退、次は……」)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。