5〜17歳への新型コロナワクチン接種が努力義務となり、日本小児科学会からの提言は、健康な小児へのワクチン接種には“意義がある”という表現からワクチン接種を“推奨する”とより積極的な表現に変わった。
次は5歳未満小児へのワクチン接種が推奨されるのだろうか。実際、米国やカナダではすでに5歳未満の健康な小児へのコロナワクチンの接種が始まっている。しかし、今のところ、5歳未満の小児への接種を進めている国は少ない。
わが国では、9月2日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、5歳未満の小児に対するコロナワクチンの接種について議論され、同日に、厚生労働省から各自治体に5歳未満の小児に対する接種体制を準備するように事務連絡が送られている。このような状況から、日本でも今後5歳未満へのワクチン接種についての議論が始まることが予想される。
しかし、わが国では5〜11歳における2回接種の完了者は、9月5日現在でも20%にすぎず、5歳未満の小児へのワクチン接種の推進はより困難が予想される。
わが国で、小児へのコロナワクチンの接種が普及しない理由として、保護者へのワクチン接種のメリット、デメリットに関する情報公開が十分でないことが考えられる。とりわけ、5歳未満の小児における情報は乏しい。本稿では、まず5歳未満の小児へのワクチン接種に関して、これまでに得られている情報を整理して報告する。
5歳未満小児における重篤な新型コロナウイルス感染の頻度は?
日本小児科学会は、5〜17歳の小児へコロナワクチンの接種を推奨する理由としてオミクロン株が流行するようになって、死亡患者や急性脳症などの重症患者、さらには熱性ケイレンなど小児に特有な疾患が増えていることを挙げている。
日本では、2022年1月以降、コロナ感染により0歳児が8人、1〜4歳児が10人死亡している。基礎疾患の有無が判明している14人のうち8人に中枢神経系、先天性心疾患、染色体異常などの基礎疾患があったが、少なくとも6人には基礎疾患がみられなかった(第99回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード提出資料)。
新型コロナウイルス感染が重症化するリスク因子として、高齢であることや基礎疾患があることが知られているが、基礎疾患もない年少児が致死的な経過をたどることをどのように考えたらよいのだろうか。
最近の分子遺伝学の進歩により、特定の細菌やウイルスが感染すると重症化あるいは致死的な経過をたどる先天性免疫不全症の一群が発見されている。重症コロナウイルス感染症についても、1型インターフェロンに属するインターフェロンやインターフェロンの産生が障害される遺伝子異常を持つ患者が潜んでいることが報告されている。
1型インターフェロンは、ウイルス感染で誘導される抗ウイルス効果のあるサイトカインで、産生が障害されることで、ウイルス感染が重症化することは理解しやすい。コロナによる小児の致死率が30万人に1人程度であることを考慮すると、基礎疾患がなく重篤な経過をたどった患者は、分子遺伝学的な観点からの検討が必要と思われる。
死因としては、心筋炎や不整脈などの循環器系、急性脳症などの中枢神経系の疾患が多く、肺炎などの呼吸器系疾患が死因となることは少ない。
なお、わが国における5歳未満小児人口100万人あたりのコロナによる死者数は、米国の27.0人と比較して3.4人と極めて少数である。最近、英国ではワクチン・予防接種合同委員(JCVI)の勧告に従い、健康な5〜11歳の小児へのワクチン接種を中止したが、英国と比較してわが国の5歳未満の小児における死亡率はほぼ同等である(表1)。
5歳以下を対象にしたmRNAワクチンの発症予防効果
ファイザーワクチンの6ヶ月から4歳およびモデルナワクチンの6ヶ月から5歳を対象にした治験の結果を示す(表2)。
ファイザーワクチンの1回投与量は、3μgで成人の1/10、モデルナワクチンの投与量も25μgで成人の1/4である。有効性は、オミクロン株に対する発症予防効果で評価された。この年齢層では、重症患者がいないので、重症化予防効果は検討できていない。
モデルナワクチンを2回接種後70日までの発症予防効果は、6〜23ヶ月では50.6%、2〜5歳では36.8%であった。6ヶ月から4歳までを対象にしたファイザーワクチンの治験では、2回接種後の発症予防効果は21.8%にすぎないが、ブースター接種を加えることで、発症予防効果は、80.3%に上昇した。
今回使用したワクチンは、武漢株の遺伝情報をもとに作られたものであるが、米国のFDAは、成人には従来型ワクチンからオミクロン対応ワクチンへの変更を勧告している。わが国でも、9月から12歳以上に対してはオミクロン対応ワクチンの導入が予定されており、小児へのオミクロン対応ワクチンの扱いも今後議論となるであろう。
ワクチンの副反応は?
米国では、5歳未満の小児に150万回以上のワクチン接種が行われており、予防接種安全性監視システム(VAERS)へ1,000件の副反応が報告されている(表3)。
ワクチンの一回接種量が、ファイザーでは成人の1/10に、モデルナも成人の1/4に減量したことから接種直後の副反応は比較的軽微である。しかし全身反応として38度以上の発熱が、10〜20%に見られており、この年齢層では熱性ケイレンを起こす頻度が高いので注意が必要である。幸い、5歳未満ではワクチン接種後の死亡報告はないが、5〜11歳ではVAERSに7人のワクチン接種後の死亡が報告されている。
保護者は接種部位の腫脹や発熱など接種直後の副反応よりも中長期的な副反応の発生を懸念しており、この点に関する情報提供は欠かせない。成人を含む検討ではあるが、コロナワクチンはインフルエンザワクチンと比較して、自己免疫疾患など中長期的副反応の頻度が高い。自然免疫力の低下によるウイルスの再活性化や免疫監視機構の減弱に伴いがんの発生や再発が増加する可能性についても注意深い観察が必要である。
米国では、5歳未満のワクチン接種が始まって2ヶ月経ったが、6ヶ月から2歳未満の小児で1回目のワクチン接種が終わったのは、全体の4%に過ぎない。2歳から4歳までの年齢層でも6%に過ぎず、保護者が子どものワクチン接種に慎重であるのが読み取れる。
わが国でも、この年齢層におけるオミクロン株の大流行により、すでに免疫を獲得済みの小児が多いと考えられる。5歳未満の小児に対するコロナワクチン接種の必要性については、十分な議論が必要と思われる。