ロシアのプーチン大統領は2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させた時、欧米社会から激しい批判に直面した。その時、プーチン氏は「欧米世界こそロシアの国益を害している」として西側社会の批判に反論した。
同大統領によると、「米国を代表する西側世界はウクライナを西側陣営に引き留めるために北大西洋条約機構(NATO)に加盟させようとしている。明かにロシアの安全保障を脅かす試みだ」と説明、ロシアのウクライナ侵攻批判に対して言い訳した。
一方、イランでは9月13日、22歳のクルド系女性マーサー・アミニさんが宗教警察官に頭のスカーフから髪がはみだしているとしてイスラム教の服装規則違反で逮捕され、警察署に連行され、尋問中に突然意識を失い病院に運ばれたが、同16日に死亡が確認された事件はイラン全土で女性の抗議デモを引き起こし、これまで少なくとも250人以上の死者が出ている。抗議デモが鎮まる気配は目下、見られない。
イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は10月3日、「わが国を混乱させている抗議デモを煽っているのは米国とイスラエル、そして海外に住むイランの反体制派によるものだ。アミニさんの死亡には胸を痛めているが、コーラン(イスラム教の聖典)を燃やし、モスク(イスラム礼拝所)や集会所などに火を放つなどの暴動は正常ではない。米国やイスラエルなどが画策したものだ」と主張した。ライシ大統領も、「わが国で拡大している抗議デモの背後には米国とイスラエルがいる。彼らはわが国の治安を不安定にしようと画策している」と指摘、抗議デモ拡大の主因は米国ら西側社会にあると主張した。
興味深い点は、プーチン氏のウクライナ侵攻への弁明もイランでの抗議デモ拡大の主因も米国らを代表とする「西側世界のせい」という言い訳で一致していることだ。両指導者の言い訳の背景には、「悪いのは全て西側であり、われわれはその被害者だ」という“犠牲者メンタリティ”がある。ただ、両国の「言い訳」はあくまで弁解であり、真実ではないので、時間の経過とともに綻びが見えてくる。
ロシア軍はウクライナ軍の攻勢に直面する一方、弾薬や砲弾不足で攻撃にも支障が出てくるなど苦戦。そこでイランから無人機を獲得し、ウクライナへ自爆無人機を飛ばして守勢をカバーしている。
米国ら西側はイランが戦争犯罪を繰り返すロシア軍を支援しているとして批判、米国はイランに対して追加制裁を実施。国際社会の批判にさらされたイランのアブドラヒアン外相は今月5日、「無人機のロシア供与はウクライナ戦争前のものだ」と説明し、ウクライナ戦争勃発後ではないと弁明。それに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「わが国は連日、数十機のイラン製無人機を撃墜している」と指摘、イラン外相の言い訳を「嘘」と断言している。
それに先立ち、ロシアは先月25日、ウクライナが放射性をまき散らす危険性のある汚い爆弾を準備していると批判、国連安保理の非公式会合でウクライナを批判した。それに対し、ゼレンスキー大統領は国際原子力機関(IAEA)のウクライナ査察を歓迎し、IAEAも査察後、ウクライナの汚い爆弾云々の情報に関連する物的証拠がなかったと否定したばかりだ。
イランやロシアの「言い訳」は全く根拠がない政治的プロパガンダだ。戦時には情報工作が重要であり、相手国に圧力を行使するためにさまざまなプロパガンダを展開させる。その意味で、ロシアとイラン両国の情報工作は異常なことではないが、直ぐに嘘と分かる「言い訳」や「プロパガンダ」は自国の名誉を傷つけるだけだ。
いずれにしても、嘘も貴重な情報源だ。嘘の背景を冷静に分析することで、相手国の状況が浮かび上がってくることがある。その意味で、嘘情報も立派な情報といえる。ただ、ロシアとイランの「言い訳」、「弁明」は根拠、証拠のないもので、すぐに嘘とばれてしまう次元だ。独裁者は攻撃に出ている時は強さを発揮できるが、一旦守勢に回ると直ぐにボロが出やすいものだ。ロシアとイランの「言い訳」はそのことを端的に物語っている。イギリスの歴史家トーマス・フラー(1608年~61年)は「下手な言い訳は黙っているより悪い」と言っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。