現在の中国国内の状況は、1989年6月に近い。
胡耀邦総書記の死をきっかけに中国の民主化の動きは、北京の天安門広場に自然発生的なデモとなって起きた。当時、このデモに参加したのは、北京市内の大学生や労働者といった若者が多く、彼らは笑顔で天安門広場に参集し、最初はそのうねりが中国共産党の改革に繋がると参加者の誰もが信じていた。
ところが、当時の鄧小平が戒厳令発令を決定し、その後、あの悲惨な6月4日の天安門事件へと繋がってゆく。
共産党内部の覇権争いの渦中にあった鄧小平にとって、お膝元の北京市内の動乱はその後の政局に大きく発展すると睨んでのことだろう。強硬策を打ち出す道を選んだ。中国共産党トップになった鄧小平は、改革開放を打ち出し、中国の経済発展を目指すことになるのだが、それは、中国共産党の支配体制を維持したまま、国家資本主義の最初の形を示すもので、現在の習近平は、鄧小平の政治手法を踏襲していることになった。
ところが、3期目を迎えたことで、習近平は毛沢東と同じやり方で自身の功績を作ろうとしている。彼にとって、毛沢東、鄧小平と並ぶ功績は台湾侵攻以外には無い。また、アメリカが対中政策に強硬になったことで、国内経済が逼迫する可能性が高まり、国民の不満が高まることを強権力で押さえ込もうとしている。
中国が鳴り物入りで打ち出した中国製ワクチンは、その効果の程が不明なまま、結局はゼロコロナ政策を打ち出すしか道は無い。つまり、SARS-CoV-2発祥の地である中国が、そのコロナを抑え込む政策で、他のどの国よりも遅れた政策を打ち出さざるを得ない。これ以上の皮肉は無いだろう。
11月27日中国抗议视频集锦(11月27日の中国の抗議行動のハイライトビデオ)
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— 自由亚洲电台 (@RFA_Chinese) November 28, 2022
上海人的愤怒 从这是我们最后一代到习近平下台(これが私たちの最後の世代から習近平の辞任までの上海の怒り)
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— RFI 华语 – 法国国际广播电台 (@RFI_Cn) November 27, 2022
1989年と現在の中国の違いは、SNSの存在だ。
また、当時の北京市民は、仮に市民がデモ活動を行ったとしても、毛沢東時代のような殺戮は行われないだろうと読み、寧ろ、中国が新しい民主的な国に生まれ変わることを夢に見て、天安門広場に集まった。ところが、戒厳令を敷いた共産党はいきなり戦車と銃火器で市民を殺し始めたのだ。そして、強烈な監視社会と経済発展により国民を豊かにすることで、民主化の波を押さえ込もうとした。
しかし、急激な経済発展は国内に格差を生み出し、しかも、国民の自由な発言や行動を許しはしなかった。その不満は、次第に中国国民の中に鬱積していた。
それも、中国共産党が予想もしなかった規模で起きていたのだ。
中国国民は、少なくとも経済活動については一定の自由度を認められたことで、富を得ることの可能性、その内なる自由を謳歌することで、自由の大切さを実感した。一度手にした自由を、人は手放したいとは思わない。
ところが、中国国内には、中国共産党という厳然たるヒエラルキーが存在する。中国国民には「共産党員かそうでないか」の二者択一しか存在しない。純粋な経済活動で豊かになったとしても、結局は「共産党員かそうでないか」によって選別され、富を根こそぎ持っていかれてしまう。そして、共産党員には搾取と賄賂と利権という特権階級が与えられている。
中国国内経済の屋台骨を支えているのは、地方政府だ。彼らは地方政府が保証する形で地方融資平台(LGFV)発行する債権を国民に購入させ、それを投機対象として利払いを保証し、資金調達を繰り返して、不動産バブルを作り出してきた。
中国・共同富裕の下で進む地方政府の隠れ債務と金融リスクの増大
恒大集団の負債など、実はこの地方融資平台(LGFV)に比べれば微々たるもので、膨らみに膨らんだ債務残高総額は8兆ドルとも言われている。また、これら不動産バブルに合わせて民間から調達した資金は、地方都市のインフラ整備に使われているのだが、地方のインフラ整備の要である高速鉄道網の負債も、それ単体で1兆ドル規模に上ると言われている。しかもその数字はあくまで地方政府が公表した数字に過ぎず、実際はその倍はあるとも言われているのだ。
一つには、インフラ整備を行うことによる人の移動を喚起して、需要が負債を上回ると考えられていたが、路線によっては1日1本しか運行されない所も存在しているようで、当然だが債務を賄うだけの需要は起きていない。
これら、中国経済のアキレス腱とも言える地方政府による不動産投資とインフラ整備であったのだが、その地方政府自体の放漫財政は、次第に中央政府を圧迫する事態を引き起こしている。
確かに習近平がトップになって以後、共産党内部の汚職一掃に一定の効果は見られたものの、共産主義国家の常であるところの粛清は、悪い所と良いところの両方を潰してしまった。冗談のように、習近平には側近や知恵袋と言われるような優秀な人材がいないのと、全てを自分で掌握しなければ不安で不安でしようがない独裁者の道を歩んでいるため、中央委員の箸の上げ下げまで習近平が指示しているとまで揶揄されている。
先日のG20では、カナダのトルドー首相に対し習近平が立ち話で苦言を呈したことが報じられたが、本来、そんなものはトップ同士が話し合うことではない。側近や実務者同士が確認し合えば良い話だ。
習近平氏がカナダ首相との立ち話で苦言、非公式会談を「リークされた」…中国側は発表せず
つまり、習近平は自分以外の誰も信用していないことの表れかもしれない。
例え立ち話であっても、トップ同士の会話に意見の食い違いや認識の違いにより、意見の対立があったとしたら、それは国際問題に発展しかねない。トップ同士の会話の中身がリークされた程度のことを気にするようでは、習近平は他国の首脳に足元を見られる結果になるだろう。立ち話であっても、トップ同士が会話するのは、もっと外交の本筋であるべきで、国内政局でのし上がった習近平は、その辺の勘所が分かっていないのだろう。
比べて見れば、大阪で行われたG20で、安倍元総理は会議の合間に数多くの首脳と立ち話を行った。その中で最も頻繁に会話したのがトランプ大統領と習近平だったと言われている。これはあくまでも私の憶測だが、トランプ大統領の朝鮮半島の38度線訪問を裏で絵を描いたのは、安倍元総理だと考えている。その重要性と中国がどう動くべきか?を懇々と習近平に説諭し、説得したのが安倍元総理だ。そうでなければ、その後の中国政府の反応には至らないだろう。
さて、今の中国国内の反政府の動きは何を意味するかを再度邪推した時、前述のような国民の不満がのっぴきならないところまで来ていると共に、今回の党中央委員会執行部の人事も少なからず影響していると感じている。
胡錦濤氏の強制退場の場面が中国国民に映像で報道されたか否か?も含め、習近平一強体制、ゼロコロナ政策による、大都市のロックダウン、台湾侵攻に向けてのきな臭い動き、アメリカの執拗で強硬な対中政策は、中国国民を不安にさせる要素になっているのではないだろうか?
つまり、党の綱領を書き換えてまで、習近平を絶対的な指導者に祭り上げるやり方は、実は毛沢東時代を思い起こさせる不安材料になっているのではないだろうか?
いかに情報統制されている中国とはいえ、過去の歴史を全て無かったことにすることは出来ない。ましてや国外に留学、就職その他で数多くの中国の若者が出ている今の時代、自分たちが学んできた歴史は認識が違っていたのではないか?共産主義が至上のものと教えられてきたが、必ずしもそれは正しい道とは言えないのではないか?そんな疑問を持つ人が現れて当然だろう。
現実に、今の中国は国内のデジタル化を推進することで、いかにも中国が世界の中で先進的な技術革新を行っていると思わせられていたとしても、経済が中国単体で成り立っているものではないことは、中国国民ですら知っている。ではその上で、世界から孤立した中国であっていいと考えている中国国民が、果たしてどれほどいるだろう。
当然だがチベットやウイグルにおける人権弾圧は、当事者は一番分かっているし、ゼロコロナ政策で強権を発動し、国民の自由を著しく制限するあり方に疑問を持つ国民もいるだろう。経済活動で諸外国と取引がある人は、パスポートの発行にすら制限を加えられたり、必要なら中国共産党に与する働きをせよと言われれば、自国の政治体制に対して疑問を持つのは当然だ。
地方では不動産投資のバブルは崩壊している。預金封鎖の動きもある。あのAppleの工場ですら、賃金カットが行われている。
つまり、中国国民が頼みの綱としてきた経済に暗雲が垂れ込めていることの危機感と、為政者である習近平の失政に疑問を持たない筈がない。つまり、国民が中国共産党と習近平に対して、不信感を抱き始めている。
急激な民主化を望んでいるわけではないだろうが、少なくとも、習近平が今のまま、共産党を引っ張る存在であることが、本当に今後の中国のためになるのか?という疑問が表象しているのが、今の各都市で行われているデモ行動ではないだろうか?
国際社会はアメリカに引っ張られる形で中国離れが加速するだろう。台湾侵攻の不安は、そのままインド太平洋諸国の不安でもある。仮に国際商取引の米ドルにまで制限が加えられると、世界経済自体に大きな影響がある。
考えたくはないが、このまま、国民の不満を解消しきれないなら、中国国内で暴発的な動きが出ないとは言えない。その時、天安門事件のような暴力による民衆への弾圧が行われた時、中国はますます、国際社会から孤立するだろう。
中国のアキレス腱は習近平そのものだ。つまり、習近平が3期目に入ってしまったことで、ますます中国は悪い方向に向かっていると言えるだろう。