地域と社会で支援する子育て(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

日本の人口減少は庶民まで心配する事態になっている。専門家たちが心配しているのは、15歳~49歳の女性の合計特殊出生率である。この出生率を調べている国は208ヵ国あるが、日本はなんと195位である。国家存続の観点から見て、かなり危機的だと専門家らが懸念するレベルだ。だが日本の出生率は元から低かった訳ではない。

終戦直後の1949年には約270万人もの子供が生まれている。その子らが出産適齢期になると第2次ベビーブームが起こり、そのピーク時の1974年にも約209万人が生まれている。1949年の4.32から74年には2.05に落ち込んでいた出生率は、1992年には1.50という低い数字となる。

この1.50という数字は政治的、社会学的にも深刻な数字で、政府は「エンゼルプラン」を立ち上げた。ところが出生率はその後も下がり続け、最新の数字だと1.34だ(20年)。出生数も今年初めて80万人を下回ると言われている。私は朝晩、新聞を読み、テレビのニュースは必ず見るという生活を送っているが、その私の目に政府の人口増計画などは全く映ってこない。そこでシロウトの分かり易い少子化対策を示してみたい。

まず最悪なのは晩婚化である。30歳前後で結婚するのが流行っているが、これが社会的な慣行となると、子供はせいぜい1人しか儲けなくなる。社内で男女の仲を取り持つ“仲介サービス”をしている会社がある。私の懇意にしている会社はその事業が評判で、社内に何組もの新婚さんが生まれた。

世の中ではこんな婚活をサポートしている会社は珍しい。ついでに赤ん坊が生まれた時には1人目100万円、2人目200万円、3人目は300万円と報奨金を出すようにしたらどうか。若い人は育児の金銭的な負担を思い浮かべるからだ。第一子を産んだら、2~3年後には早く次の子を産みたいという気にさせることが必要だ。

調べてみると子育てに配慮している地方の自治体は意外に多いが、彼らは宣伝などしない。ひっそりと善行を積み重ねているつもりだが、大事なことは宣伝である。

2005年には1.41だった合計特殊出生率が19年には2.95と、全国一にまで回復した岡山県奈義町の子育て支援策を見てみる。

  • 高校生の就学支援(年額13万5千円)
  • 中学3年までひとり親支援(月額約4万3千円)
  • 在宅育児支援(月額1万5千円)
  • 小中学校の教材費用無償化
  • アドバイザー配置の「つどいの広場」
  • 一時預かりの子育てサポートや保護者当番制の自主保育、不妊治療費の補助

少子化対策は地域によって千差万別だ。その地域に合った政策というものがあるのだろう。また少子化対策は、政府とは無関係に、個人、会社、団体、親など銘々が勝手に打ち出すものでもある。不確実だがそれが功を奏した時の反響は何十倍にもなる。

(令和4年12月7日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。