今週にも政府は日銀人事を国会に提示すると見込まれていますが、その総裁については雨宮正佳副総裁になりそうだと日経が特報で報じています。日経は時として大ポカすることもありますが、雨宮氏は数名いる候補でも本命中の本命であり、かつ黒田総裁を支えてきたこともあり、順当な人事だと思います。個人的にはこれで決まるのだろうと思います。
では雨宮氏が総裁になるとどうなるのでしょうか?基本的には黒田総裁のポリシーを引き継ぐとされます。よって市場はもろ手を挙げて喜ぶでしょう。株高、円安が一時的には起きると思います。ただ、それはshort lived になるとみています。
NY時間の金曜日、雇用統計が極めて強い結果となったことを受け円が2円以上、安くなりました。私もあれからいろいろ考えを巡らせたのですが、アメリカの潜在労働力は表むきはあと500万人強しかいません。それも有能かどうかわからない労働力も含めて、という意味です。今回50万人以上が1月の雇用で吸収されたということは労働の質は今後、急速に悪化していきます。当然、労働生産性も下がるし、人件費の上昇で物価が高止まりする公算がでてきます。とすれば企業の売り上げは下がり、一定の景気後退は避けられないのだろうと推測できます。
これはアメリカの金利動向を探るうえで重要な判断どころで私は0.25%の利上げをあと一回とみています。市場は3月に利上げシナリオを予想していますが、私は一度飛ばして4月の可能性もあると思っています。その間に雇用統計がもう一度、CPIが2度発表になるのでその結果次第になるでしょう。
これが意味することはドル指数の下落です。通貨量が圧倒的に多い米ドルがもたらす為替相場への影響力は日本個別の事情よりはるかに大きいのです。特に欧州で強い利上げが継続される見込みであること、日本の物価も4%という水準になってきていることから北米が早めにピークアウトしたものの日欧はキャッチアップ状況にある点でユーロや円はどうしても買われるバイアスがかかるだろうというのがシナリオです。
また日銀は物価が4%上昇を超えてきているのに大規模金融緩和をし続ける正当な理由を見出すことは難しいでしょう。逆に日銀に聞きたいのですが、一体何%の物価上昇がどれぐらい続いたら大規模金融緩和をやめ、利上げにシフトするのでしょうっか?ご承知の通り物価と金利には一定のタイムラグがあります。物価は遅行するので金利を上げても約3か月ほど後にならないとその結果は分からないのです。このまま大規模緩和を維持すれば日本は今年の夏が非常に苦しくなるとみています。
このような中で雨宮氏が市場の重圧とどう対峙するのか、これもまた大きな着目点でしょう。世界の中銀は粛々とその政策を進めるのですが、日本だけは日銀が生活に影響ある政策を行うと一般紙から雑誌、メディアが一斉攻撃し、批判の嵐となります。これは独特というか、異常な反応だと思います。これでは日銀が市場と国民を忖度しなくてならず、それが逆に思い切った政策に踏み込めない状況を生み出しているとみています。
では任命する岸田首相の腹積もりはどうなのでしょうか?私は岸田氏は黒田氏の政策は好きではなかったように感じるのです。その点、雨宮氏は市場の反応を恐れてか、このところ、ほとんど発言もなければ講演もありません。つまり、考えていることが全く分からないのです。が、首相が雨宮氏を推す以上、首相と基本的な歩調は合わせられるとみるべきなのでしょう。それはやはり、YYCなどテクニカルになり過ぎた金融政策を緩やかに通常に戻す方向にすることだと思います。
まずは市場の動きに注目ですが、しゃべらない雨宮氏の本心は誰もわからない、これが最大のリスクでもあるとみています。黒田氏に遠慮をしているのか、このやり方が日本の当たり前なのか、その点では日本にはサプライズが多すぎるような気もします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月6日の記事より転載させていただきました。