ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁は23日、アラビア半島のオマーンと国交を樹立したと発表した。これを受けて教皇庁の聖座とオマーンの大使館がそれぞれ相手国にオープンされる。
オマーンはアラビア半島で3番目に大きな国で、イスラム教が公式の国教だ。ただ、アラビア半島では多くのアジア出身の外国人労働者が働いており、フィリピン人労働者などキリスト教徒が多い。
フランシスコ教皇は2019年、教皇として初めてアラビア半島入りし、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビを訪問、スンニ派イスラム教と基本協定を締結した。昨年はバーレーン王国(人口の75%がシーア派)を訪れるなど、アラビア半島諸国に急接近している。
このコラム欄でも報告済みだが、UAEの首都アブダビで3月1日、通称「アブラハム・ファミリー・ハウス」が一般公開される。同ハウスは、アブラハムから派生した3宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の礼拝所、シナゴーグ(ユダヤ会堂)、教会、そしてイスラム寺院(モスク)を単に独立した宗教施設としてではなく、大きな敷地の中に統合し、アブラハム・ファミリーの全容を浮かび上がらせている。
フランシスコ教皇はアブダビ訪問中の2019年2月4日、エジプト・カイロのアル=アズハル大学の総長、アル=アズハル・モスクのグランド・イマームのアフマド・アル・タイーブ師と共に「アブダビ宣言」として知られる「世界における平和的共存のための人類の友愛に関する文書」に署名した。この文書は、すべての宗教のメンバーが兄弟愛への道を歩むためのマイルストーン(道標)と受け取られ、「アイデンティティーを守る義務」「他者を受け入れる勇気」「誠実な意図」の3点を基本方針としている。
興味深い点は、バチカンがアラビア半島諸国で積極的な外交を展開している同時期、イスラエルは中東・アラブ諸国で外交的関係を急速に改善していることだ。イスラエルは久しく国交関係を樹立した中東・アラブ諸国はエジプト(1979年3月)とヨルダン(1994年10月)の2カ国だけだった。しかし、トランプ前米政権時代の2020年、UAE(2020年8月)、バーレーン(同年8月)、スーダン(同年10月)、モロッコ(同年12月)のアラブ4カ国と次々に国交正常化している。そしてバチカン、イスラエルの両国にとって残された最大の外交目標はサウジアラビアとの関係改善だ。
アラビア半島最大の国、サウジはイスラム教スンニ派(ワッハーブ派)の盟主だ。そこでは、教会、十字架、キリスト教の宗教的慣習が禁止されている。ローマ教皇がリヤドを訪問したことは一度もない。コーランとシャリアを国の法的基盤を形成している。聖書は禁止され、イスラム教徒がキリスト教や他の宗教に改宗することは固く禁じられており、場合によっては実際に死刑に処せられる。
そのサウジをクリストフ・シェーンボルン枢機卿は2月24日から28日まで訪問中だ。ウィーン大司教の同枢機卿は、ムスリム世界連盟のムハンマド・アル・イッサ事務総長からの招待に応えたものだ。ムスリム世界連盟は、1962年に設立され、サウジ王国が資金提供する国際的なイスラム非政府組織(NGO)だ。アル・イッサ事務総長と教皇庁諸宗教対話評議会議長のジャン・ルイ・トーラン枢機卿は2018年、キリスト教徒とイスラム教徒の間の対話を促進するための協力条約に署名している。
約3300万人のサウジ国民のうち、約150万人がキリスト教徒だ(約4%)。彼らの半分以上はカトリック教徒だが、エジプトやエチオピア/エリトリア出身のキリスト教徒は多くはコプト教徒だ。
シェーンボルン枢機卿は、サウジ訪問中、地元のキリスト教徒と会い、宗教間の対話を促進している。同枢機卿は25日、イッサ事務総長との会談で、「私たちは互いに話し合う必要があります。私たちはこの世界で共に暮らしており、人々、信者、そして世界の苦難に対して共通の責任を負っているからです」と述べ、宗教間の対話を深めるための努力を確認している。
バチカンはアラビア半島には教区の前身である2つの使徒代理区、北アラビア(バーレーン、カタール、クウェート、サウジ)と南アラビア(UAE、イエメン、オマーン)を有している。南北使徒代理区は合わせて約300万平方キロメートルの面積を持ち、世界最大の教会地区の1つだ。合計約350万人のカトリック信者、約120人の神父がいる。ちなみに、アラビア半島全体では400万から500万のキリスト教徒がいる(推定)。キリスト教徒のほとんどが外国人労働者だ。
シーア派の盟主イランの核開発問題もあって、イスラエルはサウジに接近してきている、という情報が流れている。イスラエルにとってもサウジとの対話促進、外交関係樹立は大きな外交目標だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。