米原潜魚雷攻撃に脆弱な中国海軍

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中国による「九段線」「第1列島線」「第2列島線」の軍事支配

中国の海洋戦略の本質は、南シナ海全体を包含する国際法違反の「九段線」を独自に設定するとともに、九州から沖縄、台湾からフィリピンに至る「第1列島線」並びに伊豆半島から小笠原諸島、グアムからパプアニューギニアに至る「第2列島線」をそれぞれ独自に設定し、これらを中国の海洋勢力圏として、九段線及び各列島線内の制海権・制空権を掌握し、軍事支配を確立することである。

しかし、「九段線」「第1列島線」「第2列島線」は、国際法上の根拠が皆無であり、中国が独自に設定した一方的な勢力圏に過ぎないから、近隣諸国等は国際法上一切拘束されない。これらは、国際法上の「法の支配」を完全に無視した中国による軍事力に基づく「力の支配」に他ならないのである。

のみならず、中国はこれにも飽き足らず、下記の通り、ハワイからサモアを経てオーストラリア、ニュージーランドに至る「第3列島線」(西太平洋)の制海権、制空権を掌握し軍事支配を狙っている。

中国による「第3列島線」(西太平洋)の軍事支配

すなわち、2007年5月中国海軍高官はキーティング米太平洋軍総司令官に「中国とアメリカで太平洋を二分しよう」という分割案を持ちかけている。

2013年6月には新たな中国指導者となった習近平国家主席が米国を訪問し、当時のオバマ大統領に「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と伝えている。その後の2017年10月にも習近平国家主席はトランプ大統領との共同記者会見で同じ発言を繰り返している。この中国の野望は現在も全く変わっていない。

中国はそのために、太平洋の島嶼諸国に対する軍事援助や一帯一路による経済支配を行っている。こうした中国の動きにオーストラリアやニュージーランドは危機感を強めている。

このような習近平指導部の野望は、同指導部が掲げる「偉大な中華民族の復興」の具現化として、太平洋の東を米国、西を中国が管理し統治して、太平洋を米中で二分割しようという、冷戦期並みの中国の飽くなき勢力圏的な覇権主義・膨張主義に由来するものである。

上記の「第1列島線」「第2列島線」である中国の勢力圏内には当然台湾はもちろんのこと、尖閣・沖縄を含む日本列島全体が含まれる。しかし、台湾並びに尖閣・沖縄を含む日本列島全体が、地政学上中国の「第3列島線」(西太平洋)への海洋進出の障碍であると習近平指導部が認識していることは明らかである。

この地政学上の観点からも中国による台湾侵攻、尖閣侵攻、沖縄侵攻の危険性は決して排除できないのである。

中国の野望を阻止する米国及び日本などの対応

毛沢東以来の力の信奉者である中国共産党政権による「核心的利益」(国策)である「九段線」「第1列島線」「第2列島線」「第3列島線」(西太平洋)への飽くなき海洋進出の野望を阻止するためには、日本共産党が金科玉条のように主張する、防衛力・抑止力を完全に無視して、話し合いによる「平和外交」のみを念仏のように唱えるだけでは到底不可能である。

力を信奉する中国には、集団的自衛権を含む日米同盟の強化による対中抑止力の一層の強化が必要不可欠である。この点で、日本国内への米国の核搭載可能な中距離弾道ミサイル配備は対中抑止力として極めて有効である。その上に、岸田政権による日本独自の長射程ミサイル等を含む反撃能力の保有と防衛費倍増は対中抑止力を補強するものである。

さらに、日米豪印による安全保障上の協力枠組みである「クアッド」や、とりわけ中国が最も恐れる米英豪の強固な軍事的枠組みである「オーカス」は、対中抑止力として極めて有効である。

「オーカス」に基づき米英は豪に原子力潜水艦技術を提供し8隻の原潜の建造を目指している。中国はこれに対し激しく反発しているが、伝統的に対潜攻撃能力が脆弱な中国にとって、中国艦船に対する原潜による魚雷攻撃は重大な脅威となるからである。

米原潜魚雷攻撃に脆弱な中国海軍

近年、中国の軍事力は急速に拡大を続けている。力を信奉する中国は、自国の軍事力が米国の軍事力を明らかに凌駕したと考えれば、台湾侵攻、尖閣侵攻、沖縄侵攻を躊躇しない。これを抑止するためには、力を信奉する中国には、上記の通り、力によって目的を達成することが極めて困難であると信じさせる以外にはない。

軍事的に中国による台湾侵攻を抑止するためには、台湾、沖縄南西諸島に地上配備の対艦、対地打撃能力すなわち中距離弾道ミサイル網の構築が重要である。その上に、台湾海峡の中国艦船に対しては、潜水艦による魚雷攻撃が極めて有効である。1982年のフォークランド紛争では、英国の1隻の原潜による魚雷攻撃で、フォークランド海軍最大の軍艦が撃沈され、惨敗している。

米戦略国際問題研究所上級顧問のエドワード・ルトワック氏は「実際には中国海軍の力は想定よりも弱く、台湾有事は米国の原潜が3隻あれば解決できる。すなわち、米国の攻撃型原子力潜水艦3隻あれば、魚雷攻撃により台湾海峡のすべての中国艦船を撃沈できる。」(2021年8月21日付PRESIDENT/Online参照)と述べている。

米国は攻撃型原潜54隻、戦略型原潜14隻保有し、原潜7隻の中国を圧倒している。これに豪の原潜8隻が加わると今後中国の原潜が増強されても、米英豪で中国を強力に抑止することができる。そのうえ、日本の海上自衛隊も通常型潜水艦として世界一の性能を誇る「そうりゅう型」12隻を含む24隻の潜水艦を保有している。ちなみに、日米英豪を含め1隻の潜水艦が搭載する魚雷本数は約20本である。

以上により、中国による台湾侵攻は軍事的に極めて困難であり、失敗する確率が極めて高く、中国及び習近平指導部を含む中国共産党に致命的な結果をもたらすことは明らかと言えよう。ただし、中国の「核恫喝」を無力化するために、米国は、日本の「核共有」を含め日米豪の拡大核抑止力の一層の強化を怠ってはならない。