新たなパンデミックがやってくる:必要なのは強力な危機管理庁(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷 昌敏

2019年、中国武漢市を原発地とした新型コロナウィルス(COVID-19)が世界中に蔓延した。米国ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると2023年3月13日時点で、全世界の累積感染者数は3億2,361万370人、累積死亡者数は552万9,693人となった。

パンデミックの原因は、人口増加、都市化の進行、食肉の消費拡大、野生動物との距離の縮小など数多くある。こうした要因が重なり合うと、動物のウィルスが人間に伝播するスピルオーバーという現象が増えてくる。

現代は、航空網の発達などにより、人間の長距離移動とともに病原菌も広範囲で迅速に移動可能となる。新型コロナウィルスが全世界に拡大したのは、こうした要因が複雑に絡み合ったことによる。しかも、パンデミックは100年周期で来るとは限らず、今後短期間に波状的に発生することさえ考えられる。

こうしたパンデミックに備えるためには、どのような準備を行うべきなのだろうか。現代の我々は、高度な科学力と医療を有しており、効果的な体制さえ構築すれば、十分対応が可能なはずだ。

都市化による感染リスクに歯止めがかからない中国

中国国家統計局が発表した最新の国内都市規模格付けによると、超大都市(1,000万人以上)は7都市、特大都市(500~1,000万人)は14都市となった。

例えば、中国西部にある四川省の省都・成都市は都市部人口1,334万人に達したことから、上海、北京、重慶、広州、深セン、天津に続いて、7番目の超大都市になった。また、特大都市は、武漢、東莞、西安、杭州、仏山、南京、瀋陽、青島、済南、鄭州に加えて、長沙、ハルビン、昆明、大連の4都市が追加され計14都市となった。

中国では、各都市が人材、特に若年層の誘致を狙い、各種の優遇政策を打ち出しており、それが大都市誕生の原因だ。

こうした都市化による市街地の拡大によって、それまで人間と接触することが少なかった野生生物と接触する機会が増え、未知のウィルスに感染するリスクが高まっている。

さらに今回のパンデミックにおいて、問題だったのは、中国が初期情報を隠し、虚偽の情報さえ流すことがあったことだ。感染は拡大する前に隔離などで封じ込めを図ることが最重要で、初期段階の対応を怠ったこととその後の大量の中国人観光客の拡散は、世界的にウィルスをまき散らす絶好の機会となってしまった。

結局、SARSの感染ルートも未だに確定されていないし、歴史的にも、モンゴルの侵攻にともなって世界に拡大した黒死病(ペスト)の流行など、中国が世界的パンデミックを生んだ原発地となる可能性は高い。

例えば、中国南部には、新型コロナウィルスの発生源とされるシシガシラコウモリが多く生息しており、中国の野生動物市場で人間が野生生物と接触して感染する可能性や、病原菌の研究のために飼育していた実験動物に接触した研究員などを媒介として外部に感染が拡大する可能性も否定できない。

永久凍土からの刺客「モリウィルス」

現在、未発見のウィルス、存在は分かっていてもどのような特性を持つのか検証されていないウィルスは、30万種類以上あるといわれ、今後、いつパンデミックが発生するか予断を許さない。

これまでも2012年に中東から始まり、韓国など27か国に拡大した致死率40%とも言われるMERS(マーズ)や、2014年以降、アフリカからアメリカやヨーロッパなどに広がり、1万1,000人以上が死亡したエボラ出血熱などが発生している。

例えば、気温上昇が進むシベリアの永久凍土では、フランス国立科学研究所などのチームが3万年前の地層から、増殖能力の高い新種のウィルス「モリウィルス」を発見した。永久凍土には、現代では生息していない動物の死骸や微生物が大量に閉じ込めていることが確認されており、温暖化によって凍土が急速に溶け、未知のウィルスが放出される危険性が高まっている。

温暖化がウィルスの拡散を加速させる恐れがあることも分かってきており、ここ数年で急速に世界に広がったジカウイルスの場合、1952年のアフリカ・ウガンダで人への感染が初めて確認されて以降、世界中に感染が急速に拡大した。ウィルスを媒介したのは、本来、熱帯地域にしか生息しないネッタイシマカだが、温暖化の影響でネッタイシマカが生息しない日本でも感染リスクが高まっている。

危機管理庁を創設し、統一的パンデミック対策を

パンデミックと戦うための人類の武器はワクチンと特効薬だが、パンデミックが始まってからワクチンや特効薬を開発、製造していると長期間かかってしまい、初期の段階には到底、間に合わない。他にも、現在のワクチンは主にニワトリの卵を使って製造されているが、ワクチンの質にばらつきが出て、効き目の弱いものができてしまうことも課題だ。

今回のパンデミックに対して、米国が行ったプロジェクトは「ワープ・スピード作戦」と言い、新型コロナウィルスのワクチン開発・生産・供給を加速させることを目標としたPublic Private Partnership(PPP、官民連携)だ。HHS(米保健福祉省)、CDC(米疾病対策センター)、PENTAGON(米国防総省)、DARPA(米国防高等研究計画局)など複数の政府機関が係わった一種の軍事作戦だった。

2010年に創業したベンチャー企業モデルナは、mRNAワクチンを開発して世界で最初にコロナワクチンの治験を行ったが、既に2013年ごろからDARPAを介して多額の補助金を受けていた。

これに対して、日本の感染対策は、米国のCDCのように強力な権限を持つ機関もなく、統一された危機管理を担う組織も存在していない。パンデミックでは、保健衛生を担当する厚生労働省のみならず、入国管理を担当する法務省、経済支援する経産省、治安維持を担当する警察庁など多数の省庁が関与する。

今回、初期段階では統一された対応ができず、新型コロナウィルスの感染防止に後手後手に回ってしまった感は否めなかった。今後のパンデミックに備えて、「危機管理庁」もしくは「緊急事態庁」のような統一的な危機管理を行う省庁を設置してオールジャパンの体制を構築するとともに、憲法条項に緊急事態条項を加えるなどの抜本的な法整備が早急に必要と考える。

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。