日本の学術研究で山積している課題が解決していない。当然だ。

大学ジャーナル ONLINEに「日本の学術研究で新たな課題解決を研究する環境や研究時間の確保、女性研究者の登用など山積している課題が解決していないことが、文部科学省科学技術・学術政策研究所の定点調査2022で明らかになった。」という記事があった。

調査しなくとも、独立行政法人化して以降、大学の職員数は定常的に減っていることや書類量・委員会参加時間が増えているのだから当然だ。研究以外の仕事量が増えて、人数が減れば、一人当たりの研究に割ける時間が減ってくるのは自明の理だ。

文科省が入る中央合同庁舎第7号館 国交省HPより

若手が育たない。当然だ。研究費には直接経費(研究者が研究に利用できる経費)とこれに付随して大学や研究機関に配分される間接経費がある。大学の定常的な経費は削減され、間接経費を運んでくれる研究者を多く集めなければ大学の運営ができない。

大学や研究機関は、間接経費を収めてくれる研究者を重宝するので、大学や研究機関の方針やビジョンなどないままに、お金を持ってきてくれる研究者を招聘する。研究者の個人の能力を評価するのではなく、一時的な流行で研究費が取れる研究者にばかり目が向いている。かつて、私の在籍していた東京大学医科学研究所には、大きな構想があり、その方針のもとに人材を集めてきていたが、最近はお金のある人が優先される傾向がある。これではダメになって当然だ。

先週訪日したシカゴ大学時代の友人3人と食事をする機会があったが、シカゴ大学医学部病院は、お金を稼ぐことのできる医師・研究者が優遇・優先されるようになったという。40年近くシカゴ大学に在籍している彼は、内部で優秀な人材を育てる文化がなくなり、目先のお金に追われている大学の現状を嘆いていた。

もう一人の友人の臨床医は研究に割く時間も予算も限られるようになってきて寂しいと言っていた。大学病院でお金を稼ぐことが優先されれば、基礎研究の力は低下し、優秀な人材が育たなくなるのではと心配だ。研究、特に基礎研究は将来への投資だ。しかし、がんの分野のように「がんの本態を知る」と言い続ければ、基礎研究への期待は色あせてくる。

そして、日本では、すぐに「欧米では・・・」という議論となり、競争主義が重要視されるようになってきた。しかし、競争主義が機能するには「公平で公正な評価」が必要となる。相も変わらずボス社会が続き、公平からはるかにかけ離れた身内優先の評価に基づいて配分される予算制度も変わらないままでは、若者の気持ちは荒んで、頑張る気持ちも萎えてくる。

冒頭の記事に「・・・課題が解決していない」とあったが、現状の日本では百年たっても解決しないだろう。病変(課題の根源)を特定しないで、治療ができる(対策を練る)はずもない。若手研究者の能力を見出し、持っている能力を育てることのできるシステム、公平で公正な評価制度、中長期的なビジョン、そして、AMEDの解体などが急務であろう。

PS:4月20日のNatureのNews欄に「White House to tap cancer leader Monica Bertagnolli as new NIH director」とあった。フランシス・コリンズ博士が退任された後1年以上空席であったNIH所長がようやく決まりそうだ。彼女は6か月前にNCIの所長に就任したところだったのでビックリだ。

彼女とは、理化学研究所ゲノム医科学研究センターが米国の薬理ゲノム学グループと共同研究をしていた時からの知り合いで、シカゴ大学在職時も米国の臨床試験グループの一員として一緒だった。ユタ大学医学部を卒業していて、大腸がんを研究している点でも接点が多い。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。