標準化のフレームワーク

真野 浩

 松本さん、池田さん、村上さんらのエントリーでスマートグリッドの話題がでているので、標準化の視点からガラパゴス的に対向するのに必要なことを述べてみる。


 米国では、オバマ政権による米国経済再生法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009:ARRA)で、スマートグリッドが対象とされ、米NIST(National Institute of Standards and Technology,米国立標準技術研究所)が、関連する様々な標準化活動団体(SDO)の調整と取り纏め役になり、ちょうど先月NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards, Release 2.0がリリースされた。
 現在、各分野でPriority Action Plan 2.0 (PAP 2.0)のもとに、様々な標準化が進められているが、残念ながらほとんどが当初ロードマップに対して遅れており、未完了の状況にある。 
 これらの標準化の取り組みは、大変広範囲であり、無線の通信方式のような下位層から運用の相互性等の上位まで、そのステークスホルダーは多岐に及ぶ。

 実際に、昨年の11月にIEEE802のワイヤレスプレナリー会合で行われたSmart Gridに関するチュートリアルでは、米国のNIST、EPRI(Electric Power Research Institute)、IEEE802.15、IEEE802.11等での標準化の状況報告はもちろん、EUにおけるEC Mandates(M441 Smart Metering、M490 Smart Grids)やETSIの状況も報告されている。ところが、残念な事に日本の状況報告などは、ここには無かった。
 これは、TVホワイトスペースでも、同様な状況にあったが、TVホワイトスペースについては、先々週のIEEE802.11の会合で、日本のホワイトスペース推進研究会とのリエゾンを強化する事になり、正式にNICTの研究者がリエゾナーに任命され、一歩進んだ。

 さて、こう書くとスマートグリッドにおいて、日本が蚊帳の外のように思われるかもしれないが、950MHz帯のSUN(Smart Utility Network)の標準規格であるIEEE802.15.4g/eでは、日本企業は大きな役割を担い、標準化の最終段階にある。 この標準化活動では、日本のガス会社、メーター機器メーカー等と、NICTが官民協調をし、米国のチップベンダー等とも連携して、標準化を推進した。 この規格は、ガスメーターであることから、電源が確保できない状況を想定し、低消費電力で長期運用が可能な方式を採用するとともに、メッシュ技術でメーターのHop by Hopな接続を実現している。 メッシュ技術には、様々な意見もあるが、メッシュ至上主義的に全てをメッシュで行うのではなく、ラスト数ホップのメーターの集線には、有効な技術であるし、実装も進んでおり、決してガラパゴスではない。

 さてここで、ガラパゴスとグローバルスタンダートの間には、その標準化経緯に違いがある。
 日本の従来の標準化は、まず国内で日本発という標準化を行い、これをデジュール型(ITUやISO等)の世界標準に提案するという方式だ。
 これに対して、昨今の標準化をリードしているのは、IETFやIEEEなどのフォーラム型/デファクト型の標準化である。

 つまり、大事なことは日本発をどう標準化するかではなく何処で最初から標準化するかである。 この良い事例が、上述のIEEE802.15.4gである。

 次に、国の役割をみてみると、ホワイトスペースに関するFCCのR&Oも、スマートグリッドに関するNISTの役割も、共に個別の技術についての支援ではなく、フレームワーク作りに徹しているところだろう。 このようなオープンシステム政策で、モジュール化を促進し、適応性による経済効果が期待されるわけだ。

 また、民間は、世界規模のフレームワークがどこにあるのかを見極めて、そこに積極的に取り組むことが重要な戦略になってくる。

 実際に、IEEE802.11では、日韓に比べて中国の民間企業の取り組みが近年目立っており、彼らは中国の標準は標準として切り離して、IEEE802.11の場で、積極的に標準化の策定に取り組み、グローバル市場での存在感を示している。

 繰り返すが大事なことは、何処に持ち込むかではなく、何処ではじめるかであり、それを後押しする政策は、まずフレームワークを作ることだろう。