オーストリアの首都ウィーンで23日から3日間の日程で欧州最大の野外コンサート、第40回「ドナウ島祭」(Donauinselfest)が開催される。主催者側によると、「最高300万人の観衆が世界から招かれたロック歌手やグループの歌を楽しむ」という。入場が無料であることもあってティーンエイジャーたちが殺到することが予想されている(2022年は参加人数約250万人)。
ウィーンの治安関係者は「ドナウ島祭」がイスラム過激派の襲撃対象になる危険性があるとして特別警戒を敷いている。同祭が今回40回目という節目にあたるからではない。多数集まるコンサートでイスラム過激テロ組織がテロを実行するという情報が外国情報機関から入っているからだ。
それに先だち、先週土曜日(16日)、ウィーン各地で同性愛者のパレード「レーゲンボーゲンパレード」が開催されたが、そこに3人のイスラム過激テロ組織(IS)のシンパが襲撃する計画だったが、パレードが始まる前にテロ対策部隊(Cobra)が3人を拘束した。
3人は14歳、17歳、20歳の移民系家庭の若者たちだ。彼らはISのシンパだ。その直後、20歳は容疑が薄いとして釈放されたが、14歳と17歳の2人はニーダーエステライヒ州で拘留され、治安関係者から尋問されている。
メディアの情報によると、2人はISのシンパだが、「実際、パレードを襲撃する考えはなかった」と、テロ犯行計画を否定している。2人はインターネットでISに関心をもったという。家宅捜査では多数のナイフ、拳銃などが押収された。
英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は21日、オーストリア国営放送とのインタビューで、「容疑者が14歳だということはもはや異例ではなくなった。イスラムテロ容疑者の年齢は年々、低下している。ISのテロリストといえば、10年前は18歳から25歳が多く、男性だけだったが、現在はISのネットワークが壊滅されたこともあって、直接組織にリクルートされるケースは少なくなる一方、インターネット、TikTokなどの影響が大きくなり、これまで以上に若い青年たちがイスラム過激思想に惹かれ出している」と強調した。
また、「イスラム寺院内でイマーム(指導者)から過激思想を学ぶ若者たちが多かったが、オーストリアのケースでも分かるように、彼らはイスラム寺院ではなく、インターネットを通じてイスラム過激思想にかぶれていく。彼らはイスラム教についてよく知らないが、一種のポップカルチャー化して、それに惹かれるという傾向が見られる」という。
テロ対策当局はイスラム過激派の温床と見られてきたイスラム寺院の監視を強化、外国出身のイマ―ムの国外追放などを実施してきたが、潜在的イスラム過激派はもはやイスラム寺院ではなく、インターネットを通じてイスラム過激派と接触しているわけだ。そのため、治安関係者は対策で更に難しくなった。ソーシャルネットワークの監視を強化して、イスラム過激思想を広げるサイトの閉鎖などに力をいれなければならなくなってきた。オーストリアの今回のテロ事件はそれを改めて明確に示しているわけだ。
テロだけではない。犯罪の犯行年齢が下がってきているのだ。ドイツで今年3月11日、12歳、13歳の少女たちが同級生を殺すという事件が発生した。「ルイーゼ殺人事件」と呼ばれる事件は独ノルトライン=ヴェストファーレン州の人口1万8000人の町フロイデンベルクで少女2人がナイフで12歳のルイーゼ(犯行者の同級生)を殺害した事件だ。犯人が12歳、13歳という年齢だったこともあって、ドイツ国民に大きな衝撃を投じた。また、セルビアの首都ベオグラードで5月3日、初等学校(小学校=8年制)の13歳の7年生生徒が校内で銃を乱射し、8人の生徒、1人の学校警備員を殺害するという事件が発生し、セルビア国民に衝撃を与えたばかりだ。
なお、オーストリアの治安関係者は、「コロナのパンデミックで静まっていたイスラム過激派グループがここにきて再び活発化する動きが見られる」と警告を発している。イスラム過激派テロに惹かれる年齢が低下し、過激派組織に入らずに単独でテロを行うローンウルフが増えてきたことなどから、テロを未然に防ぐことが益々難しくなっている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。