先日、東京都が突如として高校の授業料無償化を打ち出し大きな話題となりました。
正確に言うと国の高等学校等就学支援金制度にある所得の要件を外し、東京は私立も含めて実質無償化するということですね。
いやあ、都知事選が近づくと太っ腹になりますね(苦笑)
この動きは余裕のある自治体を中心に全国に波及するでしょう。「東京はタダなのにうちの自治体はなにしてんだ」って話になりますから。
【参考リンク】小池都知事 高校授業料実質無償化 来年度から所得制限撤廃調整
また、同じタイミングで国も大学無償化政策を打ち出してきました。
【参考リンク】多子世帯の大学無償化、対象は?額は?第1子が扶養外れると対象外も
そもそも3人以上の子供がいる世帯自体が全体の3%以下で、そこに扶養の条件が付くためきわめて限定的な制度だという指摘もありますが、高校無償化を見てもわかるように、こういうのは最初の一穴からだんだん広がっていくものなんですね。
で、さっそくこういうこと言い出してる政治家もいます。
3子以上の多子世帯の大学無償化に批判があるが、一人もしくは二人の子供を持つ子育て世帯や子育てを終えた世代からも批判されるのは残念。他人の給与や手当が下がっても、自分の懐は温かくならならい。前向きな政策として評価をして、これを皮切りに無償化の範囲を多子世帯以外に広げていけばいい。
— 細野豪志 (@hosono_54) December 8, 2023
無償化というと一見するとありがたい話にも見えますが、それによって何が起こるんでしょうか。
そもそも「大学で学んだことが日々の仕事ですごく武器になってます」という人はどれくらいいるんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。
教育無償化で労働市場のミスマッチは加速する
結論から言うと、無償化というのは様々な歪みを生じさせてしまうので筆者は基本的に反対です。
これはすでにいろいろな立場の人が指摘していますね。
たとえば高校教育界隈の人たちは「私立高へ進学を促す歪み」について指摘している人が多いです。
従来、勉強が得意ではない、あるいは勉強する気が無い子供は、進学するにしても工業高校や商業高校のような手に職のつく学校に進学するのが主流でした。
でも私立にタダで行けるし、入学後も資格の勉強とかやらなくても卒業できるなんてなったらどうなるでしょうか。
私立でも人気校以外の微妙なところなら専願(合格すれば必ず入学しますという約束付き)した時点で事実上の内定出すでしょうし、親も「父さん母さん、ボク、私立の〇〇高校いって勉強したいよ」って言われて悪い気はしないでしょう。無料だし。
勉強が苦手だったりやる気のない人間が緩い私立高校に3年間通っても金と時間をドブに捨てるだけなんじゃないでしょうか。
あと格差という点でも歪みは生じます。百歩譲って公立校にお金出すのは分かりますが、私立校にまで金を出す意味がまったく理解できません。
例えば筆者には私立の小学校に通う子供が二人いて、まあ高校も私立行くでしょうけど、このままだと無料になっちゃうわけですよ。いいんですかねそれって(苦笑)
いや、筆者はいいですけど、単身者からみれば単なる独身税でしょう。
そして、筆者の専門である雇用においても深刻な歪みは生じます。それは「人材のミスマッチ」です。
現在、日本ではある種の人材が大量にだぶついています。それは主に「昔に文系の学校を卒業し、会社に与えられた仕事をこなしてきた文系事務職」と呼ばれる人たちです。
特にこれといった芸がなく、大学で学んだこともほとんど覚えてないよという人が大半でしょう。
フォローしておくと別に本人達が悪いのではなくて、事実として彼らはそういう働き方を要求され続け、結果として今はだぶついているということです。
ではどれくらいだぶついているのか。
厚労省の統計によれば一般事務の有効求人倍率はなんとたったの0.35です。サービス職があらかた3.0を超え、建築・土木・測量にいたっては5.69ですよ!(一般職業紹介状況 令和5年9月分より)
イメージでいうと、建設業では5つの求人に対して1人応募があるかないかなのに、事務職では1つの求人に3人入れ食いしてくるようなものです。
さて、先述の「勉強する気はなかったけどタダだから私立高校への進学を決めた子供たち」は、卒業したら何の職に就くんでしょうか。
同様に、今後大学の無償化が進んだとして、ホントは大学なんて行く気が無かったけど進学した若者たちは、どの職に進むんでしょうか。
少なくとも建設業や工場勤務、エンジニアではないでしょう。多くが文系事務職という超絶レッドオーシャンに突入することになる気がします。
「なんで文系って限定するんだ」という人もいるかもしれませんが、タダだから行っとこうというノリの人は少なくとも理系にはいかないでしょう。
「最終的に人手不足の業種に行くことになるんだからいいじゃないか」という人もいるでしょうが、だったら税金使って回り道させる必要はないでしょう。
「教養に費用対効果なんて求めるな!」って人もまれにいますね。その通り!人はなんでも学びたいものを自由に学ぶべきです! ただし、自分の金でね。
自分たちでお金出して進学するならそれで全然かまいません。常に効率よく生きるだけが人生ではないですから。
税金で負担してやってまで、そういう個人にとっても社会にとっても全くメリットのない歪みを生み出すことに何の意味があるのか、という話ですね。
以降、
- 「とりあえず大学に行った人たち」に何が起こっているのか
- ベテランゼネラリストがやっておくべきこと
Q:「ロスジェネ世代も役職定年からは逃れられない?」
→A:「役職定年見直しはあくまでも一律の引き下げを見直すというものですね」
Q:「トップダウンでむりやり女性管理職を増やすのはNGでしょうか?」
→A:「トップダウンでやらせれば現場は後からついてくる、という思想があるのです」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年12月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。