黒坂岳央です。
他国に比べて、日本は弱者に優しい社会である。言い方を変えれば日本は技術の進歩と社会的配慮のバランスを模索している国の一つといえる。だが弱者を出さないことを優先するあまり、その逆に社会全体の効率性、利便性がおざなりにされていると感じる面も少なくない。
すべての弱者にまんべんなく過剰に配慮しすぎると、社会は歪になる。故に「ある程度」の技術的な分断を進めて、「ついてこれる人だけどうぞ」というビジネスやサービスがもっと出てきてもいい…いやそうしないと社会の利便性が保たれないという空漠たる危機感がある。
個人的にこうした弱者を保護しすぎることで、技術の進歩が遅れる弊害は認識するべきと考える。このテーマで持論を展開したい。
完全キャッシュレス化
例えば、完全キャッシュレス化を考えたい。日本政府は2020年7月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」で「2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる」という目標が掲げている。その一方で、日本銀行の調査によると、2020年時点のキャッシュレス決済比率は約26%に留まっておりまだまだ圧倒的にキャッシュレス社会の実現は道半ばだ。この推移は、便利さと効率性を求める動きと、既存の現金依存の習慣との間のギャップを示している。
翻ってたとえば中国ではキャッシュレス決済が急速に普及していることで知られる。アリペイやウィーチャットペイなどのプラットフォームは広範囲に渡り使用されており、都市部ではほぼ完全なキャッシュレス社会が実現した。中国人民銀行のデータによると、コロナ前の2019年モバイル決済取引額は、前年比で約15%増の約347兆元に達した。この変化は、デジタル経済の発展を加速させ、新しいビジネスモデルの出現を促している。
中国では便利な社会の実現をさせている裏には、偽札防止など高度な現金社会を実現する前に人々がスマホを使うようになったので、単に技術のリープフロッグの恩恵を受けたにすぎないと評価することもできる。だが結果論とはいえ、技術の進歩を実現させている事実がある。
日本の抱える問題は高度な現金流通システムを構築した「後」にキャッシュレスへ転換できていない点にあるのではないだろうか。その裏には現金派の高齢者割合が多いことや、決済手数料が高すぎる事情もある。だが外圧がやってきた。現在はインバウンド客も増えており、キャッシュレス店舗でなければ彼らの購買機会をロストする実質的コストを払っている。このトレンドが続けば、より購買力の高い外国人の利便性を優先し、積極的にキャッシュレスを導入する店舗が増えればいいと思っている。現金管理のコストは莫大なので、「スマホ決済のみ、現金払いお断り」という店舗が出てくれば面白いと考えている。スマホ決済に慣れている人には利便性は高いし、経営者は低コストに、スタッフは現金管理の手間から開放されるだろう。
令和のデジタルデバイド
1996年に米国で生まれた「デジタルデバイド」というワードがある。それからもう30年近くが経過しようとしているが、我が国では少なくとも社会的なデバイドはあまり見られない。技術不足による置いてけぼりを防止するため、特に行政などではFAXや人力ですべての人に対応する努力をしている。未だにフロッピーディスクでのデータ受け渡しがある役所があるという話に先日仰天をしたのだが、これはITが苦手な老齢職員に周囲が合わせているのではないだろうか。
最近ではやたらとDXが叫ばれたり、マイナンバーカードと保険証の統合が話題になっている。これらはデータ処理の非効率化の是正に由来している。いつまでも旧態依然とした習慣から変わろうとしない人に、周囲が合わせ続ける体制に限界が来ているのではないだろうか・
ビジネスでは令和版デジタルデバイドが起きつつある。恒久的円安圧力と少子高齢化対応に海外取引で外貨獲得を増やす動きもあり、そうした人たちは先端テクノロジーを有効活用してビジネスを効率化させている。AIを上手に活用して、一人で10馬力の仕事をする人もいる。今後、こうした先端テクノロジーを活用できる人と、レガシーにしがみつく人との間で取り返しようがない大きな差になる。日本国内で動きは緩慢でも、インターネット空間は世界に繋がっており、ビジネス取引もシームレスだ。グローバルビジネスマンのスタンダードは常に技術の先端にある。目指すべきは上流側であるのは言うまでもない。
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えらそうに講釈をする筆者も今後、「置いていかれる側」になる可能性は十分ある。そうならないために、意識的に時代の先端テクノロジーに常に触れ続ける習慣を持つようにしている。置いてけぼりを出さない弱者に配慮し過ぎな社会のサステナビリティは永遠ではないだろう。
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