ウクライナのクレバ外相はユーモアと少しの皮肉を込めて発言したつもりだろうが、それは暴言でも失言でもない。ロシアとウクライナ戦争の行方はここにきて北朝鮮が握っている、といった想定外の展開になってきているからだ。
クレバ外相はドイツの日刊紙ビルト(23日付)とのインタビューの中で、「武器の供与という点では欧米西側のわれわれの同盟国より、ロシアを支援する北朝鮮のほうが有能なパートナーのようだ」と述べたのだ。その背景には、①ウクライナ軍がここにきてロシア軍の攻勢に押され気味であり、ロシアからの連日のミサイル攻撃に晒されているが、その砲弾やミサイルの多くが北朝鮮製の武器であること、②欧米諸国のウクライナへの武器供与が遅れがちで、ウクライナ軍は弾薬、砲弾など武器不足に悩まされている等の事情もあって、クレバ外相の少々自暴自棄な発言が飛び出したわけだ。
ロシアとウクライナ間の戦争は来月24日でまる2年目を迎え、戦いは長期化の様相を帯び、軍事大国のロシアですら武器不足に悩まされている。ましてやウクライナの場合、多くは欧米諸国からの武器の供与に依存してきた。ロシアは武器不足を中国、イラン、北朝鮮から無人機、弾薬、ミサイルなどの支援を受けて急場を凌ぐ一方、国民経済を戦時経済体制に再編して武器の生産に乗り出している。
一方、ウクライナの場合、米国やドイツから戦車や装甲車、対空防御システムなどを受け取ってきたが、その武器供与が遅滞してきた。ウクライナへの最大支援国・米国の連邦議会は総額1105億ドルの「国家安全保障補正予算」の承認問題で共和党と民主党の間で対立を繰り広げている。補正予算のうち約614億ドルがウクライナへの援助に充てられることになっているが、米共和党議員の中ではウクライナ支援の削減を要求する声が高まっている。バイデン米大統領はウクライナを今後も支援すると何度も強調してきたが、11月の大統領選を控え、ウクライナ支援どころではない、というのが偽りのない実情だろう。
ドイツの場合、国民経済はリセッション(景気後退)であり、財政危機もあってウクライナへ巨額の経済支援、武器供与をすることに野党だけではなく、国民の間でも反発の声が上がってきた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年末、欧米同盟国の武器供与に依存することから脱して、国内で大砲、無人機、ミサイルなど武器の製造に乗り出す計画を表明したが、実際の生産が軌道に乗り出すまでには時間がかかる。クレバ外相は「西側の防衛産業、つまり我が国を支援する国々の防衛産業は十分な量の砲弾を生産できていない。その生産能力は、ウクライナでの戦争の需要にも、自国の防衛の需要にも応えられないだろう」と述べている(「ウクライナは武器の自力生産を目指す」2023年12月29日参考)。
オーストリア日刊紙スタンダードは「ロシアが3両の戦車を製造している間、西側は1両の戦車しか製造できない」という軍事専門家の意見を掲載している。
北大西洋条約機構(NATO)は最近、ウクライナへの供給を継続できるようにするために、砲弾の備蓄を再び増やすと発表した。そのため、ドイツとフランスの企業と約11億ユーロ相当の枠組み協定を締結した。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「ウクライナへの支援を継続するには弾薬生産の増加が絶対に必要である」と述べている。
北朝鮮製武器についてはウクライナ東部で戦闘を繰り返しているロシア兵士の間で今、「北朝鮮製の砲丸の品質の悪さに苦情が増えている」(ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのヴェブサイト12月9日)という記事が報じられてきた。
北朝鮮製153ミリ飛翔体用推進剤5種類を無作為に分析したところ、一部の推進薬には銅の堆積を減らすための通常のリード線が欠けていた。「推進剤粉末の色にも明らかな違いがあり、これは燃焼の質の違いを間接的に示している」という。また、噴射剤の量も異なるというのだ。「装薬にリード線が含まれていないため、パイプの摩耗が増加する」という。
その北朝鮮製武器の株が急上昇し、ウクライナ戦争の行方を左右するほどの影響を与えているのだ。北朝鮮製武器の品質が急に向上した結果というより、ロシアの武器不足がそれだけ深刻だというほうが正しいだろう。
韓国の聯合ニュースによると、英国の研究機関「紛争兵器研究所(CAR)」は24日、最新の報告書の中で、「ウクライナに着弾した弾道ミサイルを分析した結果、部品にハングルが記載されており、北朝鮮製と推定される。ハルキウに着弾したミサイルは北朝鮮製のKN23かKN24だ」と指摘している。
ちなみに、聯合ニュースは「パレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織ハマスやイエメンの親イラン民兵組織フーシ派が使った兵器にもハングルの表記が確認された」と報じ、北朝鮮が中東の紛争勢力に積極的に武器を売りつけていることを示唆している。
「必要な時の友は本当の友」という諺があるが、ロシアのプーチン大統領にとって北朝鮮はそれに当てはまるのかもしれない。一方、金正恩総書記はウクライナ戦争をロシアとの関係強化のチャンスと受け取っているのだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。