効率的な市場のもとでは、価格に高い低いはなく、適正さしかない。ある商品について、買い手は低い価格を求め、売り手は高い価格を望むとしても、双方が対等の立場で歩み寄って、ある価格で取引が成立すれば、その価格は適正なものとして、双方にとって高くも低くもないわけである。そして、適正な価格は、その商品の価値を反映するものとして、公正なのである。
しかし、現実の経済は、そのような理想的な効率性のもとにはない。理想的状態にある経済は、静的均衡のもとで死んだ経済なのであって、生きた経済は、価格と価値が常に一致しないなかで、その不一致が一致する方向に絶えず動くことで、動態的に成長していると考えられる。
実際、顧客からすれば、価値と価格が一致していては満足がないわけで、顧客が価格以上の価値を見出すことで、新たな需要が創造されて、経済は成長しているはずなのであって、経済成長の動因が競争であるといわれるのは、企業は、顧客が価格以上の価値を見出すように、新たな価値をもつ商品の開発競争を行っているからである。
競争とは、本質的には、新たな価値を創造するための競争だが、新たな価値の創造は、経済の構造変化を招き、古い価値を破壊する。つまり、競争は、一方で、価値を創造し、価値を増加させるが、他方で、価値を破壊し、価値を低下させ、価値の低下は価格の低下につながる。そして、価格の低下は、コストの低下を要求し、そこにコスト削減競争が生じるわけだが、その競争は、成長の源泉ではなく、構造変化の結果にすぎない。
他方で、価値が不変で、故に価格も不変であるとき、コスト削減に成功すれば、利益が拡大する。故に、企業は、科学技術的に新しい製造方法を開発し、また経営技術的に在庫管理等を高度化させることで、コスト削減競争をしているのだとも考えられる。
しかし、技術革新によってコスト削減が可能ならば、その低下したコストが新たな適正コストになるのだから、実は、革新によるコスト削減幅と同じだけ、価値が低下しているはずである。故に、技術開発競争の結果として、技術革新が一般化すれば、販売競争によって、価格は低下していくので、価格低下は、価値低下を反映したものと評価できるわけである。故に、この面からも、コスト削減の競争は、成長につながらないはずである。
ただし、技術革新によるコスト削減に先行して成功した企業には、一般的な価格低下に至るまでに、先行者としての利益の拡大が生じる。この先行者利益が新たな価値創造のために再投資されるのならば、経済成長への動因になり得るから、コスト削減競争は、新たな価値創造のための資金調達としてのみ、重要な意味をもつわけである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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