企業が儲かるかどうか、コスト面で見て一番わかりやすいのは社員が生産性のある仕事をしているかどうかであります。こういうと語弊があるかもしれませんが、勤務時間で9時から5時まで全く気を抜かないで全力疾走している人はいますか?少ないと思います。例えば現場の人は手待ちや移動時間があります。本社などに勤めている人は不毛の会議が延々と続き、様々な社内の人とのやりとりもあるでしょう。
私はシェアオフィスに入居しているので30社ぐらい入っているのですが、まじめに仕事をしている会社もありますが、かなり手抜きしてお茶タイムばかりやっている会社もあります。労働生産性が高く、手抜きしたらクビになるリスクがあるカナダですらこのレベルです。
私の会社はキーエンスの利益率を楽勝で超えます。私が支援している介護事業の会社もキーエンスまではいかないけれど介護事業では最高水準の利益をたたき出しています。理由は会社が筋肉質だからです。私たちは何にいくら使ったか全てわかっています。例えば経理に「3か月前に使ったあの500㌦だけど…」といえば「それは〇〇社に△△で使ったやつですね」と瞬時に返答が来ます。ITよりも早いのは経理はキーパンチャーではなく、どの業者になぜそのお金を払うのか見ており、我々が数字を把握しているからなのです。ということは会社のお金が誰にどう使われたかが管理されているとも言えます。
我々は「戦闘集団」かもしれません。しかし、一般企業の利益率2-3%とはまるでレベルが違うのは結局、労働生産性と各自の責任分担とやる気のコンビネーションなのだと思います。大手企業に入ってしまえば会社全体がどうなろうが、社長の顔を忘れようが給与を貰えます。上司に言われた業務だけを必死にやり、時として仕事をやっているフリをします。大きな会社に行くと社員がパソコンに向かってシャカシャカ必死に作業をしているシーンがあるかと思います。多分ですが、あの業務は3割落とせると思います。パソコンの作業なら効率が高いはずなのになぜ一日中パソコンとにらめっこするのか、こちらが聞きたいです。
今、最終の仕上げに入った建築中のグループホーム。一部の植栽が竣工条件になっており、5本の木を植えるのに工事管理業者が私に75万円の見積もりをよこしました。「ざけねんじゃねぇ!寝ぼけているのか!」と突っ返してしまいました。何故か、と言えば木のコストが一本いくらぐらいか、運賃がいくらで、植えるのに何時間かかりそれがいくらか積み上げれば逆立ちしてもそんな数字にはならないのです。焦った管理会社は他の見積もりを取り始めます。私はどうせできないだろうと高をくくり、弊社の出入り業者に見積もりを取ったら20万円強。工事業者には「そこはこちらでやるから手を引け」と指示をしました。
正直工事のやり方全般を見ていると業者のコストは15%、作業効率が15%の合計30%の費用は落とせたと思います、私のやり方をすれば、です。ただ、私はそこに時間を割けないのです。だから多少のサービス費用という名目の「下手料」をばら撒かないと出来ないのは分かっているのでそんなにきつい予算編成はしなかったのであらかた枠に収まったわけです。
日本生産性本部が出している日本の労働生産性を見て頂くと一発でわかるのですが、就業者一人当たりの付加価値額の推移をみると驚くことに1995年から2022年までほとんど変わっていないのです。つまり、従業員が稼いでいないわけです。特に下がっているのがサービス業で顕著に悪いのが飲食業です。目も当てられないぐらい下がってしまい、コロナから回復できないのです。
海外との比較でみると就業者一人当たりの労働生産性は日本が81500㌦に対してカナダは106000㌦、アメリカは153000㌦でランク的には日本はOECD内で29位です。もちろん、為替の問題はあります。がそれでも低いと言わざるを得ないのです。
原因も分かっています。日本はクビを切れないこととチームワーク主体だからです。その為に大手企業は子会社関連会社を何十、何百社と抱え、そこに出向転籍させるという技を使うことで本体を一定の質に保つという見せかけをします。50代半ば以降の年齢層はどれだけ一流企業に入社しても今頃は関連会社で本体とは永久の別れの人がほとんどのはずです。
この日本独特のやり方について善悪は問いません。それは日本の根幹に触れるからです。では海外ではクビが切れるのになぜ物価が高いのか、と言われればこれも簡単だろうと思います。企業の要求レベルに対して労働者の質が均一ではなく、特上でもないからです。マネージメントは日本より論理的で効率的ですが、その下は別世界なのです。先ほど工事業者の例を出しましたが、それを最高水準まで直接管理すれば3割のコストカットできると思いますが、私が一人でそれは出来ないのでしょうがなく上乗せ費用を払っているということです。これが今の物価高の主因だと思います。
これが改善できないかぎり世の中の物価は上昇する一方だし、労働生産性は伸びないということになります。給与を上げたい会社があるなら今の3割高を提示することさえできますが、従業員には飴とムチということになるでしょう。そこはわかっていただかないといけません。アメばかりのおいしい社会は存在しえないのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月13日の記事より転載させていただきました。