日本「イラン革命45周年」に祝意を伝達?

イランは11日、イラン革命45周年を祝う国家的イベントを開催した。イラン国営IRNA通信(英語版)によると、イラン革命を祝うメッセージや祝電が世界からライシ大統領宛てに送られてきているという。その祝意を伝達してきた国名も紹介されていたが、その中に日本も含まれていた。

イラン革命45周年の記念集会(2024年02月11日、IRNA通信から)

イラン革命45周年を祝賀する国の中に日本も(2024年02月11日、IRNA通信から)

11日に祝賀メッセージを送った国の中に米国をはじめ西側諸国は含まれていないが、イスラエルに侵攻し、1200人余りのイスラエル国民を虐殺したパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織ハマスを軍事的支援するイランに対し、日本が革命45周年を祝うメッセージをテヘランに伝達したということは、ハマスやレバノンのヒスボラなどテロ組織を支援するイラン聖職者主導政権の政治を容認するものだ、と受け取られる可能性が出てくる。

イランのライシ大統領は11日、首都テヘランのアザディ広場で開かれたイラン革命45周年の記念集会で、「イラン国民は外国勢力への依存ではなく独立を選択した。イラン・イスラム共和国は今日世界で最も独立した国であり、東にも西にも歩調を合わせない立場を維持している。イランは今後も如何なる障害にも負けず前進していく」と強調する一方、宿敵イスラエルのシオニスト政権の打倒を訴えた。

1979年2月、10日間以上続いたイラン革命は「10日間ファジル(夜明け)」と名付けられ、アザディ広場へのルート沿いには地対地ミサイル「キヤム」が展示されるなど、イランの国威高揚を内外に誇示していた。

IRNA通信によると、親欧米路線を歩みだしたパーレビ王政を倒した1979年2月のイスラム革命45周年記念集会はイラン全土の1400の都市と3万5000以上の村で同時に開催された。この国家的行事には、国内外から約7300人のメディア関係者が取材したという。

IRNA通信は、イラン革命45周年の前日、ライシ大統領に送られてきた外国首脳からのメッセージを詳細に紹介し、「2月11日のイランイスラム革命記念日の前夜、イランのエブラヒム・ライシ大統領に祝意が殺到している」と少々大げさに報じている。

そして祝意を表明した最初の国に日本が挙げられていたのだ。それから韓国、シンガポール、エチオピア、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタンが続く。そしてライシ大統領が昨年12月訪問した中国からは「習近平国家主席がライシ氏に宛てたメッセージで革命勝利45周年を祝った」と強調している。そのほか、カザフスタンのトカエフ大統領、カタール首長、副首長、外相らの名前も挙がっている。また、アゼルバイジャンのアリエフ大統領、サウジアラビアからはサルマン国王とムハンマド皇太子、ベラルーシのルカシェンコ大統領らの国家元首たちの名前が列挙され、それぞれ「ライシ大統領へのメッセージの中でイスラム革命勝利記念日を祝った」と報じている。

ところで、イランはハマスだけではなく、レバノンのヒズボラ、イエメンの反政府武装組織フーシ派などイスラム過激テロ組織を軍事的、経済的に支援し、シリア内戦ではアサド独裁政権をロシアと共に軍事支援してきた国だ。そしてライシ大統領はそれらの活動をイラン革命45周年の成果として言及する一方、イスラエル壊滅を呼び掛けているのだ。そのイランの革命45周年に祝意を伝えるということは、イランの過去45年間の政治・軍事活動の成果を少なくとも容認する立場になる。イランはサウジ、アラブ首長国連邦と共に日本にとって重要な石油供給国だが、イラン革命への祝意伝達はその国の世界観、価値観などを容認することになるのだ。

イランでは22歳のクルド系女性マーサー・アミニさんが宗教警察官に頭のスカーフから髪が出ているとしてイスラム教の服装規則違反で逮捕され、警察署に連行され、尋問中に突然意識を失い病院に運ばれたが、死亡が確認された事件がイラン全土で女性の抗議デモへと展開したことはまだ記憶に新しい。イランでは「女性の権利」が蹂躙されているだけではなく、「言論の自由」は保障されていない。

イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配され、純粋な民間企業はほとんど存在しない。例えば、最高指導者ハメネイ師が管理するセタードは数十億ドル規模のコングロマリットを率いて中心的な役割を果たしている。ハメネイ師の経済帝国は、重要な石油産業から電気通信、金融、医療に至るまで、経済の他の多くの分野をその管理下に置いている。一方、ハメネイ師の支持を得て大統領に選出された強硬派のライシ大統領はイラン最大の土地所有者の経済財団を主導している、といった具合だ(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

なお、欧州連合(EU)や米国は、イランでの重大な人権侵害を批判し、関係者に制裁措置をとっている。イランがウクライナ戦争でドローン(無人機)をロシアに供与していることに対しても追加制裁を科している。

看過できない点は、イランの核開発問題だ。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は昨年末、イランが高濃縮ウランの増産に乗り出していると報告したばかりだ。欧米社会が結束してイランの核開発に警告を発している時、イラン革命45周年に祝意を伝えた日本の外交はどこに目を向けているのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。