3月24日付朝日新聞社説「デジタル教材 点検ルール 見直す機会」は、デジタル化が進む趨勢に反している。朝日新聞がフルデジタルの価値を理解していないとよくわかる。
紙の教科書に、ネイティブの発音が聞けるなど教科書を補完する大量のQRコードが付けられるようになった。この「デジタル教材」は教科書会社の責任で提供されるため、間違いが紛れ込む可能性がある。朝日新聞はデジタル教材を点検する仕組みが必要だと主張する。
子どもたちは学校支給のタブレットを使ってQRコードを読み取る。すると教科書会社のサイトに飛び、そこからコンテンツが送信されてくる。デジタル教科書の場合には、QRコードではなくリンクが設定されている。これがデジタル教材でコンテンツを提供する仕組みである。
紙の教科書をやめれば、その費用が節約できる。子どもたちに教科書を配布する費用は文部科学省が負担しているから予算は削減でき、デジタル教材を点検するのに予算を回すのも可能になる。
しかし、朝日新聞はそのようには主張しない。教科書検定制度は問題だという今までの主張と矛盾するからだ。小中学校の道徳を教科化することに対して、16年7月14日の社説で「『国を愛する態度』などを盛り込んだ教育基本法の目標に照らし重大な欠陥があると判断されれば不合格になる。運用次第では、愛国心を教え軍国主義教育を担った戦前の国定教科書に近づきかねない。」と批判した過去を、念のために紹介する。
今は教科書会社のサイトだけからデジタル教材が提供されている。しかし、タブレットはネットにつながっているから、ネット上の膨大なコンテンツにもアクセスできる。しかし、そんなコンテンツの中には、意図的に間違った情報を提供しているものがある。
点検済みで正しい情報を提供するデジタル教材を利用し続けることで、コンテンツの真贋を読み取る力が子どもたちに育つのだろうか。そもそも「正しい」というのは、今の時点では正しい程度でしかない。あらゆる科学技術分野で、従来からの定説が崩れる事態は、しばしば起きる。
紙の教科書は廃止し、デジタル教材へのリンクが豊富なデジタル教科書を全面的に利用する。デジタル教材の内容に対する責任は教科書会社が負う。教科書会社は、自己点検や外部からの意見に基づいて、いつでもデジタル教材を修正できる。
そのうえで、コンテンツの真贋を見抜く能力を育てる教育を強化する。たとえば、一次情報を探すのも大切だし、一つの情報源だけでなく多数の情報源を調べることも、情報はうのみにせず批判的に読むのがよいことも、教えておかなければならない。
こうして、教育のフルデジタルへの転換が進む。朝日新聞にはここまで考えて社説を載せてほしかった。
情報通信政策フォーラム(ICPF)では、4月12日に谷脇康彦氏を講師にお招きして、セミナー「データ駆動型社会への転換」を開催する。朝日新聞の皆様も含め、多くの方々に参加いただきたい。