「情報アクセシビリティ好事例2023」から見える企業の姿勢

総務省が4月5日に「情報アクセシビリティ好事例2023」を公表し、情報アクセシビリティへの配慮に優れた23の製品が紹介された。僕も審査委員を務めたので、その立場で二つコメントしたい。

第一点。アイシン、ヤマハ、リコーの製品が好事例に選定されたこと。三社には共通点がある。アイシンは「ダイバーシティ&インクルージョンは、変化の時代を生き抜くための重要戦略」とのトップメッセージを掲げている。ヤマハは「DE&I:多様性、公平性、包括性」が社会の持続的発展と中長期的な企業価値向上につながる重要課題だとする。リコーもDI&Eを掲げ、「2021 J-Winダイバーシティ・アワード」では準大賞を受賞した。

ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括性)を掲げている企業は数多い。単なる掛け声に終わることなく、多様性・包括性に役立つ製品を市中に提供した結果が情報アクセシビリティ好事例に結びついた。障害者が共に働ける環境を実現するという目標で、社内の障害者の協力も仰ぎ、製品を開発したのである。たとえば、リコーの製品は、聴覚障害者と聴者が気軽に会話や議論できるようにするために開発された音声認識による文字起こしシステムである。

第二点。ヴェルク、Freee、SmartHR各社の製品。ヴェルクは見積書・発注書・納品書・領収書等の書類作成システムの全画面(100画面以上)を、カラーユニバーサルデザインを元に設計した。カラーユニバーサルデザインとは、多様な色覚特性を持つ人々にわかりやすく情報を提供する技術である。作成される書類には多様な人の読みやすさに配慮したUDフォントが採用された。

Freeeからは弱視や全盲の人も操作できる請求書アプリが選定された。SmartHRの人事評価システムはキーボードだけでも操作できるほか、表形式の情報を一行ずつに限定して表示するモードを提供することで、手が不自由で画面の横方向移動が難しい人にも対応している。

ヴェルクの創業は2010年、Freeeは2012年、SmartHRは2013年。創業者のリーダシップが情報アクセシビリティに対応した製品の開発に結び付いた。敬服に値する。

障害者の法定雇用率が2023年度までの2.3%から、4月1日に2.5%に引き上げられた。第一点で紹介した大企業の製品も、第二点の若い企業の製品も、職場に導入すれば障害者の就労が促進される。

好事例の選定過程では障害者就労への寄与も意識された。

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