東京五輪談合(独禁法違反)事件での「人質司法」に耐え抜き、昨年8月に196日ぶりに保釈された株式会社セレスポ専務取締役鎌田義次氏の公判で、昨日(4月22日)、被告人質問が行われ、多くの重要な事実が明らかになった。
一つは、検察が談合の対象と主張した業務の範囲に関して、重要な資料の存在が明らかになったことだ。
検察は、東京オリパラ大会のテストイベント計画立案業務の総合評価方式一般競争入札での「事業者間の合意」が独禁法違反(不当な取引制限)に当たるとし、しかも、その合意は、テストイベント計画立案業務(発注総額5.8億円)だけではなく、その業務を受注した事業者が、その後のテストイベント実施業務、本大会運営業務を随意契約で受注することを前提にしていて、それらの業務全体についても「不当な取引制限」が成立するとして、対象となる取引の総額は470億円だと主張している。
問題は、テストイベント計画立案業務の入札の際に、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注について、組織委員会内部でどのように議論され、どのように決定されていたかだ。
この点について、検察官冒頭陳述では
(2018年)3月15日に開催された経営会議において、テストイベント計画立案等業務の委託先事業者に対し、当該競技・会場におけるテストイベント実施等業務及び本大会運営等業務を特命随意契約により委託するとの方針が了承された。
と主張しているが、犯罪の成立自体は争っていない事業者も含め、すべての事業者が、公判で、「テストイベント計画立案業務の入札の段階では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注は未定であり、随意契約で発注される認識はなかった」として、この点を争っている。
昨日の被告人質問で、この点に関して、その日の組織委員会の経営会議の資料の「決定稿」の存在が明らかになった。
検察は、2017年12月にテストイベント担当部局が作成した資料に、「計画業務」「実施業務」「本大会一部業務」などの記載に、「随意契約」「随意契約?」などと付記されていることから、その方向が組織委員会内部で議論されていたとして上記のような主張をしていた。
ところが、この「決定稿」の資料では、同じ形式で「計画業務」「実施業務」と書かれているが、12月の資料にあった「随意契約」の記載はすべて削除されている。しかも、本大会に関する業務委託については「本大会に関する事業委託についてはテストイベントの状況を考慮し、別途検討を行う」と書いてある。
テストイベント担当部局は、計画立案業務の受注業者にテストイベント実施業務と本大会運営業務を随意契約で発注したいと考えていたが、経営会議で了承が得られる見込みがなかったので、2018年3月15日の経営会議では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注方法については全く議題にされなかったことの「決定的証拠」である。
しかも、このような「決定稿」は、その経営会議に出席した組織委員会の関係者の調書には一切添付されていない。つまり、検察は、テストイベント計画立案業務の入札の段階では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注が未定であったことを示す「都合の悪い証拠」を隠していたということなのである。
その「決定稿」は、組織委員会に出向中だったある広告代理店の社員の調書に添付されていた。その出向社員が、重要な機密情報を出向元の会社に持ち込んで情報を漏洩していたことを追及するために、機密情報の一つとして取調べで示され添付されたものだった。
鎌田氏は保釈後も、保釈条件として会社関係者との接触が全面禁止されている。「検察官立証も終わっているので接触禁止を解除してほしい」と何回も条件変更を申請したが、検察官の強い反対のために認められず、会社業務に一切関わることができない状況が続いている。そのため、保釈後は毎日我々弁護人の事務所で、検察官請求証拠などを読み込むことに時間を使ってきた。今回、その鎌田氏が、出向社員の調書に添付されている経営会議の「決定稿」を発見した。
重要証拠の姑息な隠蔽が行われていたのが発覚したのは、検察の「自業自得」とも言えるのである。
もう一つの重要事実は、鎌田氏の取り調べでの検察官の不当な対応である。
2017年12月26日のセレスポの取締役会の議事録にある「1月中におおまかな競技の振り分けが内定する予定」との鎌田氏の発言の記載について、検察は、「テストイベント関連業務の入札においては、電通と組織委員会がどの競技・会場をどの事業者が担当するかの割り振りを決めていることを前提に、一覧表を配布して、それに基づいて平成30年1月中に大まかな割り振りが決まると説明した」という意味だとしていた。
しかし、鎌田氏の発言での「振り分け」とは、発注する会場と競技の組み合わせ、つまり発注のパッケージのことであり、その時の配布資料をすべて示してもらえればすぐに説明できるはずだった。
ところが、鎌田氏の取調べ担当の増田統子検事は、実際にその取締役会での発言の際に鎌田氏が持っていた資料を鎌田氏に示さず、一つの資料だけを示し、それが取締役会での発言の際に示していた資料だと決めつけて追及した。鎌田氏に、検察にとって都合のいい「自白」をさせるために、騙そうとしたのである。
5年も前の発言である。鎌田氏は、全く説明ができず困惑し、長時間沈黙せざるを得なかった。発言の際に示したとされている資料が実際のものとは違うのだから、説明できないのも当然である。それに対して、増田検事は、「こんな当然のことをなぜ認めないのか」と追及する。その状況が取調べの録音録画に残されている。
そして、翌日の取り調べでは、増田検事が鎌田氏に対して、40分にもわたって延々と説教を行っている。その中で、
「人間は、中学生にもなったら、悪いことをやったら反省するようになるのが普通。あなたにはそれがない」
「自分は悪くない、全部他人のせいだと言っている」
「あなたは、小学校で宿題をやらなかったでしょう」
などと理由のない人格非難まで始める。
このような取調べの状況が、昨日の被告人質問で明らかになったのである。
取調べで被疑者の主張に沿う証拠を隠して虚偽の自白をさせようとする、そういう不当な取調べを行っていることを棚に上げて、年上の上場企業の専務取締役に説教をし、人格非難まで行う。それが、現在の特捜捜査での取調べの実態なのである。
小泉龍司法務大臣4月18日の参議院法務委員会で
《検察は公平公正に、権力の行使については、謙虚に内省をして謙虚にやるべきだという「検察の理念」に従ってやってもらいたいということは繰り返し督励をしている》
と述べている。しかし、実際の特捜部の捜査がそういう「検察の理念」に沿って行われているとは到底思えないのである。