ブームに乗った一発屋と二代目社長は危ない?(横須賀 輝尚)

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「タレントにいわゆる”一発屋”がいるように、ビジネスにも一過性のブームがあります。また、”ダメな二代目”という表現は一般的にも浸透していますよね。これらに該当する会社は倒産しやすいのか?どんなシグナルがあるのか?実際のところを見てみましょう。」

と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。会社における一発屋とは?二代目は本当にダメなのか?今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。

一社依存、ブームに乗って伸びた会社は危険

一社依存の会社、これはどういうことかというと、売上を構成している取引先が、一社しかないという場合です。一社からの仕事の供給が安定しているということは、いい取引先があるということですが、この取り引きがなくなったら終わりという事実は拭えません。

実際、こういう話はよく聞くものです。大企業から大きくまとまった業務を受注した。その結果、売上も伸び、社員も増えたけれど、数年後にその取り引きがなくなってしまって、どうにもこうにも会社を維持できなくなったというパターン。

売上構成的な脆弱性もありますが、こうしたある意味経営的には「ぬるま湯」であり続けた経営者にちょっと危機感がなかったと言えます。ですから、あなたの会社の取引先がどのような分布になっているのか、確認してみるといいでしょう。

もうひとつ。ブームに乗って伸びた会社。これもちょっと危うい。ブームというのは流行り。流行りがあれば廃れもあるわけで、このあたりは注意が要ります。もちろん、ブームに乗るってことは、経営者がそういう嗅覚を持っているということで、決して悪いことではありません。

例えば、近年でもっともわかりやすいのは新型コロナウィルス感染症で伸びた会社でしょう。これまであまり強いニーズではなかった、マスク、消毒液、アクリル板、体温測定、空気清浄機などは驚くほど需要が増えました。

ほかにも、飲食物の宅配サービスやオンライン配信など、流れに沿って需要を増していきました。私たち士業の世界では、補助金や助成金の申請業務なども伸びていきましたね。

コロナ禍での有名なわかりやすい例といえば、エクスコムグローバル株式会社などでしょう。「イモトの WiFi」などでモバイル通信サービスを手掛けていましたが、コロナ禍で海外旅行は壊滅的に。そこで目をつけたのが新型コロナウィルス感染症の検査である「PCR検査」です。

「にしたんクリニック」と聞けば、「ああ、あれか」と思う人も多いはずです。にしたんクリニック自体は2019年の立ち上げのようですが、コロナ禍にPCR検査事業を始めることで業績を伸ばしました。コロナ禍真っ最中のときには、検査は必要なものでしたしね。

ブームに乗って伸ばすことは悪くない。問題は、その次です。経営者がブームで得た業績の上にあぐらをかかず、二の矢、三の矢を考えているかどうか。ブームで儲かった事業の次に、別の事業や商品が出てこないと、ちょっと危ないのかもしれません。

とはいえ、ChatGPT などに代表されるAIなど、新しいものに無関心でも足元を掬われます。このあたりのバランス感覚を持っている経営者は優秀といえるでしょうね。

なぜ、二世は会社を潰してしまうのか?

社長の息子や娘が事業を引き継ぐ。こういうことは多々あります。近年では、家具屋さんとかアウトドア企業とか、いろんな意味で世の中の話題になっていますが、「身内が会社を継ぐと傾きやすい」とよく言われます。

理由は様々。もちろん、親の代を継いで立派にやっている社長もいるので、ここでは「二代目のジンクス的な話」になります。いくつかパターンを紹介しましょう。

まずは二代目が先代のやり方を大きく変えようとするパターン。二代目って、変えたがるんですよね。どうしても「親のおかげで社長になったボンボン」的な見られ方をしますから、自分の力を見せたい。そういう衝動があるわけです。 新しいことを始めると、古参の社員はそれを嫌がる。そして「二代目はわかっていない」と崩壊の道筋をたどります。

こんなパターンもあります。地方都市で老舗企業を経営している社長。子どもは都会の大学に行き、そのまま都会で就職。ところが、突然社長が事故により急死。跡継ぎとして都会で働いている子どもを呼び寄せ、社長に。

こうした急な事業承継は、知識も理念も経験も承継することができず、八方塞がり。こういうパターンの二代目就任もなかなか苦しいものです。

そのほか、例えば二代目に就任したときにはすでに経営が成り立っているので、財務なども既存の社員に任せっきりで実態を把握しないとか、あるいは子どもに社長を譲ったものの、いつまで経っても親である社長が会長や相談役などの肩書で会社に君臨し続けるなんてのも雲行きが怪しい。

たまに仕事が好き過ぎて引退しない社長もいますけど、この場合は、社長の座を譲った子どもがいつまで経っても社長を任せられる実力が身に付かなくて、離れられないって場合もあります。

だから先代に何かあったら急に崩れるというパターンも。まあ、単に子どもと離れたくないって場合もありますけどね。

「社内出世」の社長と「プロ経営者」

ところで、身内以外の承継には「社内出世」の社長と、「プロ経営者」の場合があります。前者は社内で成り上がったいわば「サラリーマン社長」。後者は、経営のためだけに呼び寄せられた「経営者のプロ」です。

プロ経営者の例としては、スターバックスコーヒージャパン株式会社の代表取締役を務めた岩田松雄氏などが有名です。岩田氏は経営が厳しかったスターバックスコーヒージャパンを、ANAとの提携や「VIA」(スティックコーヒー)の開発などで業績を向上させました。

こういう「プロ経営者」は義理人情で仕事をせず、報酬の対価として経営をします。結果が出なければ解任なので、プロ経営者が社長を務める会社は、潰れにくいといえるかもしれません。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。