中国の「ガザ和平会議」提唱に、日本は賛同表明すべき

中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚会議で演説する習近平主席
共産党新聞HPより

「中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚会議」が、5月30日に開催された。

その会議において、習近平・国家主席は、イスラエルのガザにおける戦争は「無際限に続けられるべきではなく」「正義が永遠に失われているべきではない」と述べたうえで、和平会議の開催を提唱した。

この中国の提案に、日本は賛同を示すべきだ。それはガザの平和のために役立つ可能性があり、日本の国益にも合致する。

すでに国際会議等で私は発言してきているが、現在のパレスチナ紛争の状況では、1994年オスロー合意に象徴されるアメリカ主導の和平プロセスは、進展が見込めない。すでに破綻しているが、アメリカ主導で再開される可能性は非常に乏しい。

篠田英朗「ガザ危機に直面する日本が追求すべきこと」(ROLES Commentary No. 21)
【編集部付記】本稿は5月12・13日にヨルダン・アンマンで開催された第1回「日本・中東戦略対話(Japan-MiddleEastStrategicDialogue)」への登壇に際して、著...

直近の理由は、国際法違反が明白なイスラエルの軍事行動を、アメリカが擁護し、支援し続けていることである。ICC(国際刑事裁判所)検察官が戦争犯罪を理由にイスラエル首脳に逮捕状発行の請求を行っており、ICJ(国際司法裁判所)がジェノサイド条約を理由にした軍事行動の停止を求めている。国連安全保障理事会においても、総会においても、アメリカとイスラエルが、孤立している図式が固まっている。

アメリカが、和平会議に参加するとすれば、紛争当事者としてのイスラエルの後ろ盾の立場を取る国として、であろう。アメリカが、表面的にであっても、中立的な立場を取るのは、現状では無理である。

さらに構造的な理由として、アメリカの力の減退を指摘しなければならない。21世紀に入ってから、アメリカが中東に行使できる影響力は、劇的に減退した。もはや湾岸戦争直後にオスロ―合意の調停者となったアメリカの面影はない。

すでに8カ月にわたる苛烈な戦闘が行われてきているが、なおイスラエルとアメリカが期待するハマスの殲滅なる目標が、今後も早期に達成される見込みは乏しい。その間に亡くなったガザの人々の死者数は、3万5千以上とされる。常軌を逸した軍事行動であり、アメリカのさらなる威信低下を防ぐためにも、早期の停戦が望ましい。

日本にとっては、日本は、中東のアラブ諸国に、原油輸入の90%を依存している。さらなる不安定化は、国益を脅かす。中東和平に貢献することが、望ましい。

日本にとって、もっとも楽なシナリオは、アメリカ主導で和平プロセスが進んでいくことだった。しかしそれは現実的なシナリオではない。現状では、アメリカに気を遣うあまり、イスラエルに対して毅然とした態度をとることができず、結果として曖昧な立場に終始している。

和平に貢献するどころではない。単に存在感を失い、埋没していくだけであれば、まだましだ。うっかりすれば、日和見をした傍観者として、信頼を失っていきかねない。

アメリカあるいは欧米諸国だけが主導する和平の可能性に見切りをつけ、より幅広い諸国が参加する国際的な和平プロセスの気運の醸成を促進していくべきだ。

イスラエルにとってのアメリカの存在は、ハマスにとってイランだ。その背後にはロシアがいる。中国は、そこにつながっているとみなされがちだ。そこに日本が促進役として加われば、中和化する機能を果たし、存在感を見せつけることができる。

ガザ危機をめぐっては、トルコやブラジルの首脳が積極的な発言を繰り返しており、南アフリカがICJにイスラエルを訴えるなどの目立った関与を示している。

中東「地域」の関与者をイスラエルとアラブ諸国だけに限定することはできず、さらには反植民地主義の観点から「グローバル」な文脈で関与してきている諸国の存在を度外視することも適切ではない。広範に和平に貢献する準備がある諸国を募りながら、日本自らもその中に加わるべきだ。

もしこの努力を怠るならば、凄惨な戦争の継続で、アメリカはイスラエルに巻き込まれる形でさらに孤立していく。これはウクライナや台湾をめぐる国際世論にも悪影響を及ぼす。総合的な日本の国益に反する。アメリカを救うためにも、広範な諸国の貢献を募った和平プロセスの開始が望ましい。

理想は、国際介入の展開だ。イスラエル軍に撤退を促しつつ、ハマスの行動を抑止する仕組みが必要だからである。そのためには兵力展開能力を持つ国連PKO派遣実績を豊富に持つ国々の積極的関与が不可欠となる。

さらには復興に必要となる財政的・人的資源は、欧米諸国と日本などの伝統的ドナーだけでは、全く不足している。中国はUNRWAへの財政支援を開始しており(300万ドル)、さらに6,900万ドルのガザ向けの人道支援を約束している。

無関係を装うことができないガザへの人道支援・復興支援を、新興ドナーを排除して、欧米諸国と日韓だけで独占的に扱おうなどとするのは、時代錯誤の自殺行為である。中国の積極的な参加は、歓迎するべきだ。

中東和平のみならず、国際的な援助業界も、変化を迫られている。世界経済におけるシェアを減らし続けながら、青色吐息でウクライナ向けの巨額の支援の資金を捻出している伝統的なドナー国だけでは、現代世界の危機に対応できないのである。

ガザへの対応が、援助業界の必要な刷新につながる呼び水となるとすれば、それを日本は嘆くべきではなく、歓迎すべきだ。その新しい潮流の中で、あらためて日本らしい支援のやり方を模索する方がいい。