貯金ではなく「支出」の目標金額を持ちなさい

黒坂岳央です。

世の中は「いかにお金を増やすか?」という話題で溢れかえっている。こうすれば節約できる!とか給料が振り込まれたら先に貯金分を確保する!といったものである。新NISAも蓄財ブームを後押しする。

これだけ貯金が流行っている理由はシンプルで、確かにムダな支出を削ることは効果が大きくまた節約という行為自体がエンタメで楽しいからだ。

しかし、支出が旺盛とされるアメリカ人を含め、多くの人は死ぬ時に最もお金持ちになってしまう。その結果「若い頃にお金を使えばよかった」と後悔することになる皮肉がある。

筆者がおすすめしたいのは「支出の目標金額を持つ」ということである。

metamorworks/iStock

自己投資枠を作る

「ビジネススキルを磨け」「読書をしろ、セミナーにいけ」といった啓蒙がなされるが、いざ支出する段階になると「やっぱりよく考えるともったいないな」と及び腰になる。普段、節約を頑張っている人にとっては自己投資はまっさきに削りたくなる支出の筆頭だろう。

しかし、それをしてしまうと蓄財は進むが、確実に人生に発展性がなくなる。古い価値観、常識のまま時代に取り残される。「今どき、記事や動画がある」という意見もあるが、痛みを伴わない学習はよほど向上心と学ぶ技術がなければ「知って終わり」になるだけで、知ったことをできる技術に昇華させることはなかなか難しい。

そこで自己投資枠を設けるのだ。たとえば月1万円、2万円でも良い。この予算は必ず使う。書籍代、セミナー代でもいいし、先端テクノロジーに触れるためのサブスク代にしてもいい。人間、痛みを伴うことで初めて身になるものなので、出費を経た学習は本気になるし元を取ろうと必死になるから成長できる。

中高年こそ本気で遊ぼう

歳を重ねると本気で遊ばなくなる。同じ年代の保護者と会話をすると、旧友と集まって飲むか、BBQをするといっていた。悪く言うつもりはないが、何度も同じ娯楽も繰り返していると飽きてしまうのではないだろうか。

筆者はしっかり予算を確保して本気で遊ぶ。夏休み、冬休みは子供を連れて長期の二人旅に出る。子供がまだホテルのベッドで寝ている間に、その日のアクティビティを必死に企画して1日中クタクタになるまで動き回って遊ぶ。たとえ長期休暇でなくても、月に1回は近場でもいいからとにかく遠出する。地方でも山奥の素敵なオーベルジュでフルコースを堪能した後、ハンモックに揺られながら満天の星空を眺める、といった遊びは探せば出てくる。しかもこうした遊びに莫大はコストは掛からない。

こうした遊びは確かに体力を使うが、「だからこそ」である。今億劫になって手軽に済ませる気晴らしばかりしていたら、年を取ったらいよいよ何もできなくなる。体力が残っている内に生産性なんか考えずに体力が尽きるまで本気で遊ぶのだ。あらかじめ「これは必ず使う」という予算があるからこそ、面白い企画を考えて実行できるだろう。

あちこちで言い古されていることだが、お金は価値交換券に過ぎない。生きている内に感情をビビッドに刺激する体験、思い出に残る使い方をしなければ文字通り宝の持ち腐れとなる。油断すると年だけ取って思い出が何も無い状態になる。意識してドンドン使っていくためにも、「支出」もあらかじめ確保しておくべきだと思うのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。