ウクライナ「平和サミット」が終了した。主催者によれば、92カ国・8つの国際機関が参加したという(主催者のスイスを含めると93カ国)。ただし、会議を締めくくる「共同宣言」に賛同からは、ほとんどの非欧州参加国が離脱した。
賛同国は、当初は80カ国とされたが、イラクとヨルダンは賛同していなかったと発表されて78カ国と報道された。もっともスイス政府の公式ウェブサイトにはルワンダの含まれておらず、そうなると77カ国である。
ウクライナ和平サミット 和平枠組みに関する共同宣言 スイス政府HP
スイス政府は「賛同した国のリスト」に、欧州評議会など4つの欧州の地域機構を含めている。さらにエキュメニカル総主教(コンスタンティノープル総主教庁/全地総主教庁)までも含めている。東ローマ帝国の歴史と深く結びつき、各国の正教会と並ぶときには第一位の座を占める組織だ。
2019年に、エキュメニカル総主教が、ウクライナ側の悲願であった「ウクライナ正教会」の独立を承認した。これにロシア正教会モスクワ総主教庁は猛反発して、全面的な断交を宣言した。ロシア正教会は、一貫してプーチン大統領の対ウクライナ強硬政策を強く支持している。正教会の深刻な対立の図式は、ロシアのウクライナ全面侵攻の伏線であったという指摘も数多くなされている。
ちなみにロシア正教会トップのキリル総主教は、性的少数者らが性の多様性を訴えるプライドパレードが「ウクライナの戦争」の原因の一つだ、と述べたことがある。プーチン大統領は、LGBTQに代表される西欧文化の流入を防ぐべきだと強調し続けている。
エキュメニカル総主教が、主権国家と並んで、共同宣言への賛同者として並んでいる様子は、ロシアが参加しないことを前提にした会議だからこそ可能になったことだろう。当然、欧米諸国が中心になって開催された平和サミットが、国際法の原則の重要性を謳いながら、宗教的領域にまで関わる価値観の問題についても、一つの特定の立場をとっていることを印象付ける点でもある。
「平和サミット」は、ウクライナの立場に対する賛同者をなるべく多く参集させることに、政治的目的があったように見える。参加国を増やすために、2022年11月のG20会議の際に披露した「平和の公式」10項目から、3項目だけを議題にするという措置をとった。「原発の安全」や「食糧安全保障」は、他国にも被害が広がる問題であろうし、「捕虜の解放や子どもの帰還」などは、人道的見地から最も広範に支持が得られやすいとみなされたのだろう。
ただそれにもかかわらず、最終成果である共同宣言に調印してくれたのは、参加国から数を減らして77カ国にとどまった。欧州全域で参加・署名が集まったのとは対照的に、アジア・中東では、東アジア・オセアニアのアメリカの同盟国以外には、政権交代後に中国との関係を悪化させたフィリピンなど数カ国だけで、アフリカでも9か国ほどであった。
国連総会では、2022年3月、23年2月と、ロシアの侵略を非難する決議に、141カ国が賛同した。しかし24年の同時期には、同じような決議案が提出されなかった。ウクライナとその支援国が、提出を見送ったからだ。賛同国の数が、大幅に減ることが必至の情勢であった。賛成国の数が141カ国から大幅に減るようであれば、ウクライナにとっては大きな痛手となる。万が一、過半数をとれないようなことにでもなったら、大変な事態となってしまう。
そこで開催された「平和サミット」は、国連総会から離れて、多数の諸国がウクライナを指示していることを見せるための場であったと言ってよい。国連加盟国数は193なので、過半数は97である。結果として、最終共同宣言に調印したのが77カ国だったことを考えると、同じ内容の決議文が、国連総会で採択されるかは不明だ、ということになる。この数では、そもそも今後、ウクライナとその支援国の主導で決議文が提出された際、国連加盟国の過半数の賛成をもって、国連総会がそれを採択するかどうかも、不明だと言わざるを得ない。
「平和サミット」の第2回目が、数か月内に開かれる見込みだという。ロシアの「行動計画」なるものを作成し、それをロシアに提示するのだという。おそらくは欧州全域の諸国と、欧米諸国の同盟国あるいは友好国は、その試みに賛同することになるのだろう。だが77カ国よりも賛成国を増やせる見込みは乏しいように思われる。
不参加の諸国の多くが、ロシアが不在であることに不満を表明していた。参加国の中ですら、同じ不満を表明したサウジアラビアのような国があった。参加しながら共同宣言に署名をしなかったアルメニア、ブラジル、メキシコ、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、タイ、UAEなどの有力な諸国は、いずれも同じような立場をとっていると考えてよいだろう。これらの諸国は「交渉の不在」に不満を持っている。
もっとも80カ国の代表が見守る大会議場で、ウクライナとロシアが停戦合意に向けた交渉を行う、というのは、想像できない。結局、「平和サミット」の意味が問い直されることになるだろう。
アメリカでは、トランプ大統領が再選される可能性が高い。そうなると欧米諸国によるウクライナへの大規模な支援の構図が大きく変わる可能性が高い。そもそもそれを見越して、昨年の「反転攻勢」が、準備不足の中でも決行されたはずだ。大統領選の前に戦果を挙げておく必要があった。もはや11月のアメリカ大統領選挙まで残された時間は短い。
ウクライナが、戦場の膠着状態を、多国間外交で打開したい、という気持ちを持つのは、当然ではある。だが今のところ、それは会議のための会議以上の意味を作り出せていないように見える。
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