人気の移住先バンコク、「日本人医療センター」を有する大病院の実情

海外移住する際に不安な点の一つは、病気やケガをしてしまったときに医療を受けられるのかだと思います。

そこで、日本人が5万人以上も住むバンコク、バンコクで日本人が多く住むスクンビット地域にある大病院「サミティベート病院」のディレクターを務める松尾氏に、同病院で受けられる医療について伺いました。

上場企業による病院の合理的経営、どういう点に違いが現れる?

――サミティベート病院は何が特徴でしょうか?

松尾氏(以下、敬称略):サミティベート病院は株式会社が運営しています。日本では非常に稀だと思います。

――株式会社が運営することによる特徴は何でしょうか?

松尾:経営の専門家によって、合理的な経営が行われていると思います。

――どういった部分で合理的な経営が行われていますか?

松尾:タイでは、病院に所属している医師も個人事業者ですから、同じ病院に所属していても、収入は横並びになりません。ですから、技術のある医師は集客力のある病院に所属したいですし、集客力のある病院であれば技術のある優れた医師を集めることができるという、ウィンウィンの関係を作ることができます。サミティベート病院は、集客力が高いこともあり、技術のある医師を集められていると思います。

――病院で「集客力がある」というのがイメージしにくいのですが。

松尾:たとえば、マーケティング部門だけで50名以上います。日本にこのような病院は無いと思います。マーケティングは、タイ国内だけでなく、東南アジア諸国、インドなどの南アジア、中東諸国向けにも行っていて、これらの国からも、サミティベート病院で治療を受けたいという患者さんが多数訪れています。

――会社が病院を経営し、医師でない経営陣の決定に従わなくてはいけないとなると、医師が反発しませんか?

松尾:たしかに、当社のCEOが医師でない人のときは、感情的な行き違いは多少ありました。しかし、いまは医師がCEOを務めています。そのおかげで、医師が仕事しやすい環境を作り、患者さんにとっても治療を受けやすい環境になるという好循環になっていると感じます。

――日本の病院では考えられないくらい、合理的な体制ですね。

松尾:そのため、日本の病院からの視察者もとても多いです。年間30件くらい、来院されています。

サミティベート病院
筆者撮影

日本語サポート体制が充実

――バンコクには日本人が多いですが、日本人の患者さんは大勢サミティベート病院に訪れているのでしょうか?

松尾:日本語対応のコンタクトセンターを設けています。ここは、電話・メールの連絡に24時間対応しています。バンコクやタイ全土に住む日本人からの問い合わせに対応しているのは勿論のこと、周辺諸国であるカンボジア、ラオス、ミャンマー、さらに、インドやバングラデシュにお住まいの日本人からのお問い合わせも多いです。

――日本人の医師もいらっしゃるのですか?

松尾:日本人の医師も3人所属しています。3人ともタイの医師免許は持っていないので、直接に治療することはできないのですが、医療体制をコーディネートしたり、患者さんに日本語で説明したりして、患者さんが安心して治療を受けられるようにしています。

サミティベート病院所属の3名の日本人医師

――タイ人の医師でも日本語を話せる方はいらっしゃるのですか?

松尾:はい、タイ人と日本人のハーフの医師を含め、日本の大学の医学部に留学してきた医師が何人もいます。彼らはタイの医師免許を持っていますので、治療を行っています。

――いまお伺いしている本館と道路を挟んだ向かい側に日本人医療センターがありますね。

松尾:はい、2019年に日本人医療センターを開設し、健康診断と内科などは、日本人医療センターの中だけで完結できる体制を整えました。完全に日本語だけで完結するので、皆さま安心してご利用いただいています。当病院の日本人の患者数は年間のべ約13万人、これは、日本国外の病院としては世界一とのことです。

日本人医療センター内
筆者撮影

医療の技術・サービスに自信

――医師のレベルも高いのでしょうか?

松尾:所属する医師はほぼ全員が、チュラロンコン大学(タイ随一の国立大学、日本でいえば東京大学)出身か、マヒドン大学(タイ随一の国立医科大学、日本でいえば東京医科歯科大学)出身です。そして、その多くが日本や欧米に留学した経験を有しています。医師のレベルは非常に高いです。

――具体的に、日本と比べて進んでいる分野はありますか?

松尾:日本ではあまり無痛分娩が普及しないと聞いておりますが、当院では麻酔科医の管理の上安全に行われています。

――患者にとっての利用しやすさはいかがでしょうか?

松尾:日本の病院では、24時間365日いつでも診てもらえる病院というのは、ほとんど無いと思います。でも、サミティベート病院は、24時間365日いつでも診ています。だから、医師に診てもらう必要があるのかな?と悩むようなときでも、病院に来て欲しいですね。

駐在者用の保険があればキャッシュレスで利用可能

――これだけ高度な医療で万全なサービスですと、料金が気になるのですが。

松尾:たしかに、日本の医療のように、低価格で幅広い人々に医療を提供するという体制ではありません。でも、多くの日本人患者さんは、駐在者向けの保険をお持ちですので、持病など一部適応されない場合がありますが、キャッシュレスで治療を受けておられます。

――駐在者向け保険は、企業派遣の駐在者だけが購入可能ということではなく、富裕層の方が移住する際にも購入できますから、移住される富裕層の方も安心ですね。今日はお忙しいところ、インタビューさせていただき有難うございました。