イスラエルのネタニヤフ首相が、米議会で演説した。自分は「文明と野蛮の戦い」で「文明」を代表してアメリカとともに戦っている、という自己賛美と他者否定のレトリックに満ちた内容だった。
Full text of Netanyahu’s speech to joint session of Congress
ネタニヤフ首相くらいになると、国際的に通用しない論理を、すごい剣幕で強く主張したうえで、意見を異にする者を徹底的に罵倒することに、全く躊躇がない。
たとえば、イスラエルはパレスチナを「占領」していないと主張するが、それはガザを含んだパレスチナ地域の支配者が「ユダヤ人」であることが4,000年前から決まっていたからだ。つまりそれが聖書で繰り返し語られているからだ。この論理に対して、議場にいた(数十名の欠席議員は議場で不満を表明していた一握りの議員を除いて)アメリカの議員たちも、何度も繰り返し喝采でネタニヤフ首相の訴えにこたえた。
ネタニヤフ首相を招待したジョンソン下院議長は、聖書の教えにしたがってイスラエルを支援する、と明言している人物である。聖書を根拠にして一連の国際裁判所の命令を全て否定する態度は、イスラエルとアメリカでは、賞賛される。
ネタニヤフ首相(とアメリカの議員たちによれば)、米国内で吹き荒れたパレスチナと連帯する学生の抗議運動は、「善と悪の間の戦い」で「悪の側に立つ」ことを選んだ者たちの運動であり、しかも「イランに資金援助された」運動である(イランが学生運動に資金提供しているという話は、アメリカの国家情報長官が示唆したものだが、裏付けがどの程度までどのような範囲で取れているものなのかは示されていない)。
ネタニヤフ首相は、反イスラエル運動をする者たちを、「イランの役に立つ愚か者(Iran’s useful idiots)」と扇動的な言い方で罵倒した。ネタニヤフ首相によれば、そもそも中東で起こっているテロ行為は全て、イランが行っていることである。
ネタニヤフ首相によれば、反イスラエル運動に参加する者は、「反ユダヤ主義者」でもある。したがって数世紀にわたる「ホロコースト」などのユダヤ人虐殺の歴史の流れに位置付けて、糾弾していかなければならない。ネタニヤフ首相によれば、ICC(国際刑事裁判所)も非難されなければならない。その他、イスラエルが国際法違反に該当する行為を行っていると語る者は全て(つまり国連や多数のジャーナリストや流している画像や動画を含む情報の全ては)、嘘つきの反ユダヤ主義者である。
ネタニヤフ首相によれば、ガザでの戦争が終わった後は、イスラエルはパレスチナ武装勢力の非軍事化・非急進主義化を行い、それから「第二次世界大戦後のドイツや日本のように」イスラエルと平和にやっていくようなパレスチナ人たちのみに、統治をさせる。この政策を遂行するために、イスラエルは、「アブラハム合意」を結んだアラブ四カ国とともに、「アブラハム同盟」なるものを形成するのだという。
そしてイスラエルは、アメリカとともに、独裁者とテロリストを殲滅するために、戦い続ける、と宣言する。
「われわれは勝利するまで戦う。自由が独裁に対して、生が死に対して、善が悪に対して、勝利をおさめるまで、戦い続ける。それがわれわれの誓いだ。」
終わりなき「対テロ戦争」が、2021年のアフガニスタンからの完全撤退で、ようやく終わったかのように誤認した者たちは、かくしてネタニヤフ首相から叱責されなければならない。
「文明と野蛮の間の戦い」で、「文明」側の最高指導者として指揮をとるネタニヤフ首相は、テロリストとの戦いに完全勝利をおさめるまで、どこまででも戦い続ける。異議を唱える者などは、イランからの資金援助を受けたテロリストだろう。
ところで日本は、このイスラエルとアメリカが主導する果てしなき「文明と野蛮の間の戦い」あるいは「善と悪の間の戦い」としての「テロとの戦い」及び「独裁者との戦い」に、関わっているだろうか。
日本政府首脳によれば、日本は、イスラエルと「連帯」している。安全保障あるいは諜報活動をめぐる政策で、イスラエルと深く関わっている領域もある。
日本の国力が疲弊する中、大変な覚悟である。私としては、日本の未来にも悲観的にならざるをえない。
■