「戦後」から「戦前」へ目を向けよ:第3次世界大戦はすでに始まっている

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間もなく79回目の終戦(敗戦)記念日がやってきます。日本を破滅のどん底に突き落としたあの悲惨な大戦争の記憶は、私たちのような高齢者はもとより、戦後生まれの人々にとってもいまだに鮮明に残っていると思います。

そして、私たちは、事あるごとに「戦後〇年目」という言い方をします。そうすることによって、私たちは、戦争の惨禍の記憶を風化させず、日本が再び戦争への道に迷い込まないように、自らを厳しく戒めることは確かに大事なことです。

「戦後」と「戦前」

しかし、80年近くも経って、いつまでも「戦後」という認識だけでよいのでしょうか。私は、最近の国際政治状況を見るにつけ、いつまでも「戦後」という視点だけではなく、「戦前」という視点でものを見る姿勢が必要な時代になっているのではないかという気がしてなりません。

もっとはっきり言えば、日本人がいつまでも「戦後」にこだわり、「平和」志向オンリーでその先を考えないという一種の思考停止状態に陥っている間に、次の大戦争、すなわち「第3次世界大戦」の危機が徐々に迫っていることに気付かずにいるのではないか。確かに日本は憲法で戦争放棄を宣言したけれども、戦争が日本を放棄したわけではなく、戦争の危機は外から容赦なく迫ってきているのではないか。そのような戦争の序曲はすでに始まっているのではないかと感じています。

覇権を狙う国々

日本人は、もう戦争はこりごりだと思っていますが、世界には、まだ大戦争をしたことがなく、世界の覇権を握ってみたい、そのためには事と次第によっては戦争も辞さずと考えている国が存在しているようです。

国際政治の仕組みは、リーグ戦ではなく、トーナメント(勝ち抜き)戦です。過去100年の歴史を振り返ってみると、かつて一流国であったイギリス、ドイツ、フランス、日本などは準々決勝戦くらいで敗退し、現在では単独で世界規模の大戦を戦う力はありません。

ロシア(旧ソ連)は第2次大戦後超大国化し、米国と世界覇権を争い長い「冷戦」を戦いましたが、結局準決勝戦くらいで敗退しました。その後プーチン大統領は「夢よ再び」と、超大国復帰を狙ってウクライナ侵攻を始めたものの、目論見が外れて目下苦戦しています。

プーチン大統領
ロシア大統領府公式サイト

中国や北朝鮮の助けを借りてなんとか頑張っていますが、それは自力では勝てないことを証明したようなもの。核兵器を使えば勝てるのかもしれませんが、それはロシア自身の破滅にも繋がる惧れがあるから、いかにプーチンといえども安易に使うわけにはいきません。いずれにせよウクライナ戦争で体力を消耗したロシアは、しばらくは立ち直れず、トーナメント戦から脱落したとみてよいでしょう。

次の挑戦者は中国

となると、単独で米国と戦えるだけの力を持ちつつあるのは中国で、いずれ将来米中で決勝戦が行われるのではないかと思われます。

米中のいずれが勝って世界の覇権を握るかは予測の限りではありませんが、どちらかが勝ち残って、それでグローバルな「戦国時代」が終わるかどうか。もし中国が敗退した場合、可能性としては、再びロシアが力を回復して、米国に対し敗者復活戦を挑むか、あるいは核兵器国であるインドあたりが強大化して覇権争いに乗り出すかどうか。その場合、インドは、現在「グローバルサウス」と呼ばれる新興諸国を結集して参戦するという道を選ぶかもしれません。

いずれにせよ、それはかなり先の話で、おそらく「第4次世界大戦」のような形をとるのではないか(ただし、それは「第3次世界大戦」後も地球上に人類や国家が生き残ればの話ですが)。

その他にも様々な、荒唐無稽と言ってもいいようなシナリオも考えられますが、所詮単なる空想か憶測の域を出るものではないので、この辺で止めておきます。

国際政治のブロック化

ところで、現実の国際政治の現状はどうなっているか。これも非常に複雑微妙で、簡単に論じることはできません。たとえば、米国の次期大統領が誰になるか、目下(7月末現在)優勢とみられる共和党のトランプ氏が再選されるかどうかによっても大きく変わる可能性があります。

左:トランプ大統領候補(共和党) 右:ハリス大統領候補(民主党)

その中で、近年特に目立つのは国際政治のブロック化が大きく進んでいるということです。その辺をごく簡単に整理しておくと次のようになると思います。

まず、米国を中心とする、いわゆる民主主義陣営についてみると、ウクライナ戦争を契機にNATO(北大西洋条約機構)の存在が増大していることが明らかです。1949年の結成当初加盟国は12か国でしたが現在は32か国に膨れ上がっています。従来中立を堅持してきた北欧のフィンランドやスウェーデンまでがこの1年ほどの間に加盟しましたが、ウクライナも加盟を熱望しており、状況によって、いずれ加盟を認められるかもしれません。

一方、日本や韓国は、米国との2国間の安全保障条約による相互防衛体制を維持し、日米韓の3カ国協力関係を強化していますが、さらに最近では日韓両国は「NATOパートナー」として欧州各国とも緊密な協力関係を構築しつつあります。他方、英仏なども対中警戒心からアジア太平洋地域への関与を強めつつあります。

このほか、オーストラリアは、米英と3カ国防衛体制、「オーカス」(AUKUS)を結び、その枠組の中で、原子力潜水艦の建造を目指していますが、これも対中共同防衛が狙いです。さらに日、米、豪、インドの4か国は「クワッド」(QUAD)という形で連携しています(ただし、これは現時点では必ずしも相互防衛体制にはなっていません)。

青色がQUAD参加国のインド、オーストラリア、日本およびアメリカを示す。
Wikipediaより

中国中心のブロック

これに対して、中国を中心とする非民主主義(独裁的)陣営も、さまざまな形で連携を強めています。とくに中、露、北朝鮮の3カ国は、歴史的に朝鮮戦争(1950~53年)以来強固な相互防衛関係にあり、その関係は今回のウクライナ戦争においても如実に表れています。

左:プーチン大統領 右:習近平国家主席

このほか、中国主導の「上海協力機構(SCO)」というグループもあります。これは、1996年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの5カ国(上海ファイブ)で結成されたもので、現在はモンゴル、アフガニスタン、トルクメニスタン、トルコなどに加えて、インド、パキスタン、イランもオブザーバー、対話パートナーなど様々な形で参加しており、そのうち、タジキスタン、インド、パキスタン、イラン、ベラルーシが正式加盟したので、現在の加盟国は10カ国になっているようです。

中国はさらに、「一帯一路」政策を進めています。これは、周知のように、中央アジア・中東・ヨーロッパ・アフリカにかけての広域経済圏の構想で、必ずしも軍事的性格を持つものではないとされていますが、

最近では主要関係国の参謀総長会議などが開催されており、徐々に軍事的な色彩も帯びつつあるようです。

ブロック化の危険性

国際政治のブロック化はいつの時代でもあり、例えば、第2次世界大戦の時も、日独伊(枢軸国)による3国同盟と、これに対抗する米英ソ連中心の連合国グループの対立が基本形でした。

とくにアジアでは、日本が「大東亜共栄圏」と称して南北朝鮮、中国(旧満州)、現在の東南アジアを含む東アジアの広大な地域を抱え込もうとしたのに対し、米、英、中、オランダの4カ国(ABCD)が対日包囲網で対抗しました。

当時米国はフィリピンを、英国はインド、シンガポール、マレー半島、香港などを、オランダは石油資源の豊富なジャワ(現在のインドネシア)を植民地支配していたので、日本の進出を警戒していました。

結局こうした政治・経済面でのブロック化が、双方の対立を深め、ついに大戦争に至ったわけですが、これは、まさに現在、対外的に影響力を拡大しつつある中国を抑え込もうとする日米英豪などによる対中外交戦略とも一脈通ずるものがあります。

こちら側は対中包囲網だとは言っていませんが、中国側からすれば包囲網と見えるのは当然で、かくして疑心暗鬼、相互不信が高ずれば、やがて一触即発の危険な状況にエスカレートする惧れがあります。

台湾有事のシナリオ

問題は、その一触即発の危機がいつ、どこで、どういう形で発生するかですが、これにもいろいろなシナリオが考えられます。一番蓋然性が高いのがいわゆる台湾有事であることは衆目の一致するところでしょう。

頼清徳台湾総統

台湾では、5月の総統選挙で、独立志向が強い民進党の頼清徳政権が成立したので、中国側は当然警戒心を強めています。

当面台湾の出方を注視しているようですが、習近平政権はかねてから台湾解放のためには武力行使を厭わないとの強硬姿勢を明示しており、タイミングを狙っているはず。台湾海峡周辺での軍事演習やミサイル発射など示威行動を繰り返しているのもそのためです。最近では、我が国の領土である尖閣諸島の近海まで中国の軍艦や公船が頻繁に出没しており、いずれ偶発的な衝突事故が起こりかねない状況になっています。

そもそも中国は、なぜ衝突のリスクを冒してまで強引にこの海域でのプレゼンスを高めているのか。それは、当然、台湾解放に備えての計画的行動とみるべきですが、それだけが目的とは思えません。

沖縄と台湾がふたをしている

ここで、世界地図を上下逆にしてみるとよく分かります。中国大陸の鼻先に台湾と沖縄列島が覆いかぶさっている形で、中国海軍が太平洋に進出し、そこで制海権を確保するためには、わざわざ台湾の南まで迂回するか、さもなければ、どうしても台湾と沖縄列島の間の海域を通航する必要があります。台湾と沖縄列島の間に位置する尖閣諸島(中国名は釣魚島)の中国にとっての戦略的価値もまさにそこにあるのだと思います。

もう一つ台湾有事を考える場合に大事なことは、中国は、東アジア情勢だけではなく、ヨーロッパ、中東、アフリカなどの情勢も慎重に見計らって、ベストタイミングを狙っているということです。だから、それは東アジアの地域戦争に留まらず、必然的にグローバルな戦争、すなわち第3次世界大戦という形をとるであろうということです。ここから先はまた別の機会に論じてみたいと思います。

(2024年8月5日付東愛知新聞 令和つれづれ草より転載)