ドイツとオーストリアが今、危ない

ドイツ民間ニュース専門局ntvを観ていた時、「ミュンヘンでテロ事件が発生した。容疑者はどうやらオーストリア人らしい」という速報テロップが流れ、ビックリした。ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州のゾーリンゲン市(人口約16万人)で先月23日夜、市創設650年祭の開催中、ナイフを持ったテロリストが祭に集まった人々を襲撃し、3人を殺害(67歳と56歳の男性、および56歳の女性)し、8人に負傷を負わせるという殺傷事件が起きたばかりだ。「ドイツはどうしたのか」と呟いてしまった。

ミュンヘンのテロ未遂事件の容疑者の自宅を捜査するオーストリア警察関係者(オーストリア国営放送ザルツブルク支局公式サイトから、2024年9月6日)

ゾーリンゲンのテロ事件の容疑者は9月24日夜に捜査当局に出頭し、自分が犯行に関与したと述べた。独週刊誌シュピーゲルによると、容疑者の服は汚れ、血まみれであったという。この男は26歳で、シリアのデイル・アルゾール出身で、2022年12月末にドイツに来て、ビーレフェルトで亡命を申請したが、却下された。ドイツの治安関係者によると、容疑者はイスラム過激派とは知られていなかった。ノーマークだった。犯行直後、イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)は、「我々の同士が行った」と、犯行声明を出した。

そしてドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで今月5日午前9時頃、18歳のボスニア系のオーストリア人がスイス製銃をもってイスラエル総領事館、その周囲にある「NSドキュメンテーションセンター」の建物に向かって計9発を発砲した。「NSドキュメンテーションセンター」(ミュンヘン国家社会主義資料センター)では、男は外壁やガラスのドアに発砲し、その後、近隣の2つの建物に一時的に侵入した。血痕などの痕跡が残っていた。その後、5人の警察官との間で銃撃戦を展開した後、警察官に銃殺された。

ミュンヘン警察によると、男は車で犯行現場にきて、車から降りる時、パトロール中の警察官に目撃され、武器を下ろすように警告を受けていた。容疑者の車からは50発の弾薬が入っていた空の箱が発見された。男は9発発砲したが、残りの弾薬がどこに行ったかは不明という。射殺された容疑者以外、他の負傷者はいない。男が持っていたスイス製の古いカービン銃には銃剣が装着されていた。男は犯行前日、ザルツブルクで個人の銃収集家から350ユーロで銃を購入した。この銃は古い型のカテゴリCの武器で、手動で弾を込める必要がある。

一方、容疑者の出身国オーストリア側はミュンヘン警察側の連絡を受け、容疑者の自宅などを家宅捜査した。オーストリア内務省側の発表によると、容疑者の父親が息子の精神的異常に気付いていたという。オーストリア当局は、「犯行に共犯者がいるという証拠は現在のところない」とし、男の単独犯行と見ている。

オーストリア国営放送のニュースサイトによると、「容疑者は昨年春まで電気工学を専門とする高等学校に通い、優秀で知的な生徒と見なされていた。家族は旧ユーゴスラビアの紛争を受けてオーストリアに移住し、ザルツブルクの地元社会に非常によく統合していたが、パンデミック中、男は孤立し、学校ではからかいやいじめに遭っていた」という。

容疑者はザルツブルク地方行政当局によって2028年までの武器禁止令を受けており、銃を購入することは許されていなかった。昨年、ザルツブルク検察は男に対してテロリスト組織に関与した疑い(刑法第278条b)で捜査を行っている。捜査対象となった事実は、2021年から2023年の間、男は同級生に対して危険な脅迫を行い、それが身体的暴行に発展し、さらに爆弾の作り方に関心を持っていたという。また、彼はテロ組織に関与していたとされ、オンラインゲームでイスラム主義の暴力シーンを再現し、そのビデオを制作していたという。ただし、ザルツブルク検察当局は2023年4月、テロ関連の捜査を終了している。

なお、テロ専門家は男が犯行日に選んだ日が9月5日だったことに注目している。9月5日は1972年のミュンヘンオリンピックでイスラエル選手団に対する襲撃事件が起きた日であり、今年52年目だ。

1972年9月5日、パレスチナ武装組織「黒い9月」の8人のテロリストは警備の手薄いミュンヘンの五輪選手村に侵入し、イスラエル選手団を襲撃。2人を殺害し、9人を人質にした。テログループは犯行声明を発表し、イスラエルに収監されているパレスチナ人のほか、日本赤軍の岡本公三やドイツ国内で収監中のドイツ赤軍幹部など234人を解放するよう要求した。

ドイツ側との交渉の末、テロリストは準備された飛行機でエジプトへ脱出する案が受け入れられ、選手村からヘリコプターで空港に行くことになった。ドイツ側は移動中か、空港でテロリストを射殺する計画だったが、テロリストがそれに気が付き、銃撃戦となった。

最終的に、イスラエル人の人質が乗ったヘリコプターが爆発、炎上し、人質9人全員と警察官1人が死亡。犯人側は8人のうちリーダーを含む5人が死亡し、残りの3人は逮捕された(「『ミュンヘン五輪テロ事件』の教訓」2022年9月3日参考)。

パレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、約1200人のユダヤ人を射殺した奇襲テロ事件後、イスラエル軍がハマスへ報復攻撃を開始し、ガザ攻撃で多数のパレスチナ人が犠牲となっていることに、アラブ諸国やイスラム教国でイスラエル批判の声が高まっている。それを受け、イスラム過激派テログループによるイスラエル関連施設へのテロの脅威が高まっている。

オーストリアのテロ専門家は「無条件でイスラエルを支援しているドイツとオーストリア両国に対し、イスラム過激テロ組織はテロを計画している」と指摘、両国がイスラム過激派グループのテロ襲撃対象となっていると警告している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。